著名人の投資哲学インタビュー

3億円→5000万円の損失で見えた“新しい投資哲学”

元棋士・桐谷さん「猛獣狩りから“優待株”の農耕生活に」

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「リスクを取りたくない投資初心者にこそ、優待株は適している」と桐谷さん
「リスクを取りたくない投資初心者にこそ、優待株は適している」と桐谷さん

チャートの上がり下がりに一喜一憂――その様子に「株はギャンブルだ」という人もいる。本当にそうなのだろうか? 例えば、一定数の株を持つ株主に対して贈られる「株主優待」。これを軸として投資を楽しむ“優待族”の姿は、いわゆる“株で人生を破滅させる”といった負のイメージを感じさせない。元・将棋棋士の桐谷広人さんも、そんな「優待株」をこよなく愛する一人だ。

■資産3億円から、生活費ゼロ生活へ

個人投資家としての桐谷さんを一躍有名にしたのは、バラエティ番組『月曜から夜ふかし』。番組で紹介されたのは、食事も、服も、生活雑貨も、すべてを株主優待だけで過ごす桐谷さん。しかし、そんな彼も最初から“優待族”だったわけではない。株取引を始めたのは今から33年前のこと。プロ棋士として、東京証券協和会の将棋部で指導をしたのがきっかけだった。

「当時は阿佐ヶ谷に住んでいたのですが、商店街に営業所長さんが将棋ファンの証券会社がありましてね。遊びに行ったら、若い女の子がお茶とお菓子を出してくれた。暇を見つけては遊びに行っていたわけですが、さすがにお茶だけ飲むのも気が引けまして。近くにあった会社情報誌を開くと、たまたま安い銘柄があったので25万円買ってみたんです。それが、1カ月放っておいたら5万円も儲かった。そのうち、将棋部員の間に『桐谷さんが株を始めた』というのが広まっちゃいましてね(笑)。それで、お付き合いで株を買い始めたんです」

当時はバブルの真っ最中、買った株は端から値上がりしていく。プロ棋士もみんな株を買っていて、15時30分を過ぎると、対局席から誰もいなくなったそうだ。

「みーんなテレビ東京で、株の番組を観てました(笑)。なんせ本職よりも儲かっちゃうんだから。私も2005年には資産が3億を超えて、翌々年の春のプロ棋士引退をきっかけに信用取引に手を出したら、サブプライムローンで一気に株が値下がったんです。2008年に雑誌の取材を受けた時には、資産が1億3000万円まで減っていましたね。もう信用取引はやめようとしましたが、その後破たんしかけたアメリカの投資銀行に公的資金が投入されて、株価が戻ったんです。“なんだ、国が助けるんじゃないか”と思って、また信用取引に手を出した矢先、リーマンショックが起こりました」

この時、残った資金は5000万円を割り込んだという。手元に現金がなく、値下がった株を売らなければ生活もままならない。そんな桐谷さんを救ったのが株主優待だった。

■投資初心者にオススメする“優待株の分散投資”

澤田聖司=撮影
澤田聖司=撮影

生活費のすべてを株主優待でまかなう生活。その原動力になったのは、「元本割れした株を売りたくない」という想い。ただ、その生活も実際に始めてみると、決して悪いものではなかった。

「優待券の締切は月末なので、年末も大忙し。深夜に優待特典の応募ハガキを出しに郵便局に行きましたし、レストランで使いきれなかった金額分は弁当にしてもらって、それを元旦に食べました。大変ですが、これが結構楽しいんですよね」

優待利回り(株主優待を“利回り”として計算した時の利益)を考えると、個人投資家が優待株に分散投資するのが、一番良いと桐谷さんは話す。重要なのは、株主優待が提供される最低単位で購入すること。

「株主優待の内容はほとんどが株の多寡に関係ないので、とにかく少なく買うのが大事です。今は一時より株価が上がっていますが、5万円で買える優待株が90社近くありますし、配当と合わせて利回りが4%を超えるものも400社近いでしょう。分散投資はリスクヘッジにもつながりますし、投資初心者には、この買い方を勧めています」

■注目すべきはファンを集める優待株の安定性

澤田聖司=撮影
澤田聖司=撮影

桐谷さんの優待株の選び方は利回り重視。ネットで株主優待の情報を集め、株価が下がることで相対的に優待利回りが上がった株も見逃さない。ただし、いくら株主優待が良くても、配当がないものは信頼に欠けるのでNG。コロコロと株主優待の内容を変える企業も、その場しのぎで株主を集めている可能性があるという。

「最近は株主優待が新設されると、その株が急騰することがあるため、企業の資金調達の有効な手段のひとつになっているようです。最近では株主優待にQUOカードが使われることが増えていますが、その使い勝手の良さも優待株の人気につながっているようですね」

優待利回りに加えて、注目すべきは優待株の安定性にあると、桐谷さんは言う。

「これは映画館を運営する東京テアトルの話ですが、苦しい時も会社を存続できたのは、映画ファンの株主が株を手放さなかったからだそうです。だから、株主優待の映画チケットは絶対にやめないと、IR情報に社長のメッセージが載っていました。良い優待を出し続けることは、ファンをつかむことになります。こうした会社は経営が悪化した際でも、株価が急落する前に経営を立て直すことができる可能性があるんです」

メディアでは株で100億円儲けた人の話も聞くが、普通の人がそこまで勝つのはまず無理だろう。だからこそ、株価の変動にハラハラするのではなく、株主優待を楽しく使って利回りを稼ぐ。「信用取引は“猛獣狩り”、それよりも優待株という種を植え、収穫を得る“農耕生活”を選びました」と桐谷さん。その生き方は、安定志向といわれる現代の若者にもマッチするだろう。

(丸田鉄平/H14=取材・文、澤田聖司=撮影)

記事提供/『R25』

<プロフィール>
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桐谷広人(きりたに ひろと)
1949年生まれ、広島県竹原市出身。将棋のプロ棋士(七段)として活躍するとともに、独学で株式投資を勉強。財テク棋士としても著名となる。2007年に引退。その後、個人株主投資家として活動。2012年頃からバラエティ番組にも登場し、『月曜から夜ふかし』への出演が大きな話題を呼ぶ。著書に『桐谷さんのもっと儲かる株主優待生活NISA対応版』(KADOKAWA)など。

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