三田紀房×藤野英人対談(前編)

「天下統一だってカネのおかげだ!」私たちが知らない経済史について話そう

提供元:コルク

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写真/コルク

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中学生が投資する学園漫画『インベスターZ』を連載中の三田紀房さん(写真左)と、「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さん(写真右)。「日本人はお金が大好きなのに、本心を隠している!」というのが2人の共通認識だ。私たちを取り巻く経済とお金について、目からウロコの対談を前後編に分けてお送りする。

藤野:『インベスターZ』の中で特に好きなのが、経済の歴史が出てくる場面です。第二次世界大戦中の株式市場の実態とか、日露戦争のファイナンスとか、すごく面白くて。

三田:実は経済史って学校の授業でほとんど習わないんですよ。一般的に語られる「歴史」は、武将の戦いと彼らが成功に至るプロセスといった、いわば政治の話が中心です。でも人間が昔から続けて来た営みの実態は、働いて食べて生きていくこと。つまり経済活動です。経済があってこそ社会があり、政治があるのに、なぜ歴史の本では位置づけが逆なんだろうと思っていました。そこで経済史を紐解いてみると、面白いネタが山ほどある。漫画にも描いた第二次世界大戦の話でいうと、実は長崎に原爆が投下された8月9日まで東京では株式市場が開いていた。真珠湾攻撃でアメリカと開戦しちゃった時点で、まともな経済活動が機能しなくなったというイメージを持っていたのですが……。

藤野:そうそう。しかも、戦争中は株価がずっと上がっているんですよね。社会情勢が不安定なときは、現金を持つより株に投資したほうがいいと考える人が大勢いたということです。日本橋兜町の証券取引所は人でいっぱいで、空襲が始まるとばーっと逃げて、終わるとまた戻ってきて売買していたとか(笑)。庶民のたくましさを感じるエピソードですよね。

マンガ「インベスターZ」より©三田紀房/コルク

マンガ「インベスターZ」より©三田紀房/コルク

三田:経済は人間が生きるうえで避けて通れないテーマなのに、みんな意外と知識がない。大手企業に勤めるビジネスマンでも、給料につながる景気の良し悪しや業界内の情報くらいは押さえていても、ニューヨークの株が上がろうが「俺には関係ない」という人が多い。ましてや経済史なんてびっくりするくらい知らないですね。

藤野:軍人ではなく商人の歴史が、もっと知られるべきです。例えば明治政府が行った廃藩置県ですが、大名が既得権益を失って没落するような大改革がよく成功したなって、ずっと疑問だったんです。調べてみたら、廃藩と引き換えに政府が大名の借金(藩債)を肩代わりし、多くを帳消しにしたようです。藩財政はどこもひっ迫していたので、この条件は歓迎されました。

大変だったのは大名にお金を貸していた大阪の両替商たちで、破産が相次ぎ、道頓堀が血に染まったと言われています。逆に、明治政府の側について新たな事業に投資をした岩崎弥太郎のような商人は勝ち組として生き残っていく。時代の転換点にはこういう商人同士の抗争が必ずあったと思います。

また別の例では、織田信長が天下人として名を馳せるきっかけとなった長篠の戦い。織田軍が勝てたのは3,000丁の鉄砲があったからですが、それを調達する費用、敵にばれないように運んで試供・検品するロジスティクスなどをいかにして手に入れたのか。これだけでも調べていけば本が1冊できますよ。

三田:信長だって秀吉、家康だって、資金のマネジメント能力があったからこそ天下を取れた。つまり、権力を手にするにはお金が必要。軍事面ばかりが強調されますが、彼らがどうやってお金を手に入れたのかをもっと知りたいですね。

藤野:商人にフォーカスした歴史の本がもっと出れば、経済活動を「カッコいい」と思って関心を持つ人がもっと増えるんじゃないかな。三田さんもぜひ漫画でどんどん描いてください!

マンガ「インベスターZ」より©三田紀房/コルク

マンガ「インベスターZ」より©三田紀房/コルク

藤野:経済史を勉強すると、意外な事実に突き当たります。例えば、日本人はリスクを取らないというイメージがあるけど、実はそうじゃない。

三田:歴史の中でそういう事実が残っているんですか。

藤野:わかりやすいのは、日本の古代王朝が200年以上も続けた遣唐使。使節一行が1隻100人ずつ、4隻の船で航海したので、別名「四つの船」と呼ばれていました。なぜ分かれて乗ったかというと、往復の航路で沈まずに船が戻ってくる確率が25%だから。遣唐使はみんなエリートですよ。それを4分の3も失う覚悟で、中国に派遣して学ばせていたのだから、すごいリスクテイクです。

三田:なるほど。

藤野:発明家のトーマス・エジソンにも、あまり知られていないエピソードがあります。彼は「天才は1%のひらめきと99%の努力」という言葉で知られ、刻苦勉励のイメージがありますが、一方で自分の利益を囲いこむ“強烈な商売人”でした。

三田:確か、いくつか事業を興していますよね。

藤野:自ら起業したエジソン商会は、J・Pモルガンから巨額の出資を引き出して電機システムの開発・普及を行い、現在のグローバル大手ゼネラル・エレクトリック社 (GE)の前身になりました。すごいのはただ売るだけじゃなく、新しいビジネスモデルや業態の開発まで行い、特許を取得してお金を儲けているところ。映写機を開発したときも、機械単体では売らず、映写機を置いた空間でビールやポップコーンを売るというビジネスをフランチャイズ形式で広めました。さらに、映写機に映った役者たちはエジソンにお金を払わなければいけないという権利まで取っていた。これはあまりにひどいということで、一部の人たちが西海岸に移って自由に映画を作り始め、ハリウッドが生まれたのです。

三田:日本人にとっては、エジソンとお金儲けのイメージってあまり結びつきません。

藤野:そうですよね。彼は特許をめぐる裁判を山ほど争っていて、がめつい面もある。でもそれを含めて天才だと私は思うし、過酷なビジネスの世界で戦ってこそ、GEのような100年企業が生まれたのでしょう。

三田:経済に視点を変えると、新しい歴史が見えてきますね。
<後編に続く(2017/5/9掲載予定)>

記事提供/『コルク』

(関連書籍1)インベスターZ
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