BtoB企業から社会を知ろう!

「顧客ファースト」で支持される

理化学機器のNo. 1総合商社「アズワン」

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ふだんの生活で、私たちが直接取引をすることのない「BtoB(Business to Business:企業を相手にした商取引)」企業のトップを直撃するこのコーナー。

4回目はアズワン、井内卓嗣社長です。理系の人なら、研究室にあった「分厚いカタログ」を思い出すのではないでしょうか? 科学、産業、介護・医療の分野でカタログビジネスにeコマースを組み合わせ、進化を続けるアズワンの戦略を紹介します。

聞き手:室谷明津子 撮影:稲垣純也

いまある形に、固執しない

――カタログ販売で「1個からすぐにお届け」というのは、今では当たり前のサービスですが、御社はその先駆けです。1933年に創業された、科学機器を扱う商社が前身。1963年に研究者向けのカタログを発刊し、そこからどんどん「顧客ファースト」のビジネスモデルを磨いていますね。

戦前は手押し車にビーカーやフラスコを積んで、学校に届けていたと聞いています。小さい規模からのスタートでしたが、2代目社長となった井内英夫が「カタログ、情報、物流」の3つを整備して、必要なときに必要な分だけの製品をワンストップでお届けする体制を整えました。当時そんなことを考えた会社は少なかったので、先見の明があったと思います。

先代は、扱う製品の分野も広げていきました。クリーンルーム専用手袋の取り扱いをきっかけに、産業用の機器・備品に進出。さらに1985年には、病院用看護用品カタログを発刊し、病院・介護分野に進出しました。

――介護分野への進出も、すごく早い。その後、ニーズが増えた分野ですよね。

確かに、高齢化社会を予見したのも早かったです。いま、介護福祉市場は成長期から成熟期に入りつつあり、質の高さ、サービスといった付加価値が求められています。当社はいち早く参入して積み上げてきたノウハウを生かし、いまでは介護向けの製品卸売だけでなく、自社ブランドも展開しています。

当社の社是は、「革新と創造」。従前のものに固執せず、常に新しいことにトライして、他社と差別化しようという社風があります。特に先代は“新しいもの好き”で、世の中に出てきたものはまずやってみる人。自動梱包機が開発されてすぐに、月商の何カ月分も出して買っていましたし、ホストコンピュータも30年前には導入していました。

そんな中、私が社長になる前に旗振り役をさせてもらったのが、新基幹システム「ASCA(アスカ)」の導入です。25億円を投資し、2012年に運用を開始しました。

カタログからeコマースへ

――思い切った投資をしましたね。

せっかく古いシステムを全部捨てて、新しいシステムを入れ直すのだから、未来に向けて発想を転換しなくてはいけません。そのためのコストは惜しむべきではないと思いました。

私はASCA導入をきっかけに、業界全体を巻き込んで製品のデータベースを作りたいと考えました。カタログはどんなに分厚くしても、1冊に載せられる製品は売れ筋5万点くらいに絞られます。でもインターネット上なら、地味だけど売れ続けているロングテールの商品など、かなりの量の製品を載せられます。

「まずは100万点の業界データベースを作ろう」と言うと現場はひっくり返りましたが、試行錯誤した結果、いまは250万点を超える情報が掲載されています。高い目標を掲げれば、技術は後からついてきます。

昨今はeコマースで買い物されるお客様が増えると同時に、ニッチな商品を目当てに、顧客層の裾野も広がっています。

――eコマースが増えていくと、Amazonのような会社がライバルになっていくのですか。

Amazonのように自前の倉庫を作り、在庫を保有していくという仕組みだとより資本力のある企業が優位になります。しかし、お客さまから見ると、必要なときに必要なものが届くのであれば、どの倉庫から来るかは関係ありません。そこで当社はサプライヤーのみなさまに呼びかけて、業界全体でどこにどの在庫があるのかを「見える化」する仕組みを整えています。

――自社の在庫を「見える化」することを、嫌がるサプライヤーさんもいませんか。

1つのプラットフォームから、eコマースでさまざまな製品を買うのが当たり前、という時代です。当社主催のイベントや懇親会で、サプライヤーのみなさまに集まってもらい、時代背景や導入目的をていねいに説明しています。「お客さまにとって利便性の高いプラットフォームを作りたいので、協力してほしい」とお願いしたら、大体の方は納得してくださいます。

「かゆい所に手が届く」サービス

――eコマース以外に、商社として御社が提供する付加価値とは、何でしょう。
創業以来、当社のお客さまは研究者をはじめ、現場でさまざまな課題克服を目指す方々です。実験装置を真空状態にできる道具がほしいとか、無重力下で実験できる装置が欲しいとか、さまざまなニーズをお持ちです。製品をただ右から左に流すのではなく、そういう声に耳を傾け、ニーズに応えていくのが当社の強みです。

お客さまのお悩みを聞いて「どうにかできないか」と自ら製品を開発し、メーカー機能を併せ持つようにもなりました。自社商品はいまや全体の3割強に上り、川上のメーカー的なポジションと、川下の小売的なポジション両方を持っているのも特徴ですね。

最近はモノだけでなく、コンサルティング機能も充実させています。たとえば、研究に使う計測器や分析器は、正確さが求められます。年に一度、機械の精度を確認する「校正」という作業が必要なのですが、1つ1つをメーカーに出していくのは大変な作業です。

そこで、当社が休日に工場1つ分の校正を丸ごと請け負うといったサービスも展開しています。現場の負担が一気に減るので、忙しい研究者の方々に喜んでいただいています。このように、お客さまの「面倒ごと」を解消する視点で考えていけば、当社にできることはもっとあると思います。

――海外展開も積極的ですが、今後の目標は。

海外では、中国が年率10%ほどの成長を続けており、これをアジア全域に広げていきたい。アメリカ、ヨーロッパにも足場を持とうと、昨年から動き始めています。国内で磨いてきた「かゆい所に手が届く」サービスは、すでに中国をはじめアジアでご支持いただける実感を得ています。このビジネスモデルを世界中に広めていけば、まだまだ成長の余地があると思います。

会社そのものについて言えば、「いい会社」にしたいですね。いい会社ってなんだろうと考えると、社員が子供や親友に「こんないい会社、他にない!絶対に入るといい」と勧められる会社だと思うんです。もしそれが言えないとしたら、そのモヤモヤがなんなのか。それを率直に言い合って、社員の“違和感”を埋めていこう。そうやって3年後、5年後に「なんかいい会社になったね」と言えるようにしていこうと、みんなに呼びかけています。

――御社は業績が安定的で、投資初心者にとって魅力的な投資先だと思います。
実は創業から86年の歴史の中で、売上が前年割れになったのは、リーマンショック後とITバブル崩壊後の2回だけです。ゆっくりコツコツではありますが、右肩上がり。経営戦略も安定を旨としているので、中長期的な投資先という視点で見ていただけると、ありがたいです。そういうステークホルダーの方々の期待に全力で応えようという想いが、当社の経営姿勢の根幹を作っています。

<プロフィール>

井内 卓嗣
1968年生まれ。1991年、日鐵商事(現:日鉄住金物産株式会社)入社。1994年、アズワン入社。企画開発本部国際部長、商品本部長兼商品購買部長、亜速旺(上海)商貿有限公司董事長などを経て、2008年に専務取締役。2009年6月に代表取締役社長に就任し、現在に至る。

<会社概要>
●事業内容/研究用機器機材、看護・介護用品、その他科学機器の販売
●設立/1962年(創業は1933年)
●年商/559億円(2017年3月実績)
●従業員数/485名(連結)
●業績/eコマースの伸びと産業系の取引成長で、売上高6期連続過去最高。純利益も5期連続で過去最高を更新。安定性の高い高収益体質。