教えて!『指数将軍』

教えて!『指数将軍』その10

スマートベータについて

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これまで株価指数について議論を重ねて来ました。ETFや投資信託の世界で最も利用されている時価総額加重平均型指数、その計算方法、相関係数やβ、業種別指数という流れで説明を加えてきたわけですが、今回は少し将来に目を向けてみたいと思います。

現在、非常に大きなイノベーションが株価指数の世界で起こっています。その一部は既に投資商品として具現化していますが、今後、さらに大きな存在になると言われています。一般的に「スマートベータ」と呼ばれているもので、やや理屈っぽい話が多くなりますが、今回はその概要をご紹介しましょう。

1.ポートフォリオのリターン源泉

株式市場は様々な要因によって動いています。個別銘柄投資であれば、それぞれの株価は経済状況・新製品・市場シェア・経営戦略等々、様々な要因に影響を受けて上がったり、下がったりします。

ETFや投資信託は、個別銘柄の集合体ですから、そのパフォーマンス要因も個別銘柄の動きから説明することができます。それは次のようになります。「今月のポートフォリオ・パフォーマンスは、銘柄Aが+3%、銘柄Bが-2.5%、銘柄Cが・・・・となりました。このうち、銘柄AとBは相関が56%で、銘柄AとCは相関が-32%、銘柄BとCは・・・。」これを延々と続けるわけです。

お分かりの通り、100銘柄ぐらいの一般的ポートフォリオでも膨大な情報や相関関係が必要で、大変な作業になります。また、そのような説明をされても、投資家は、実際に何がファンドのパフォーマンスに寄与したのか、皆目分からないことになります。

これを分かりやすくするために考えられたのが「ファクター(要素)」という概念です。そもそも、ポートフォリオ・リターンは何によって生み出されるのか?その過程をより良く理解するために考えられたのがファクターという概念です。

この手の学術的発展は常にアメリカで起こりますが、このファクターも例外ではありません。アメリカのBarra(バーラ)社という会社が学者の研究をベースに始め、現在ではほぼすべての機関投資家がファクターと言う概念を取り入れています。

2. ファクターとは

個別銘柄の中には共通した特徴を持つ銘柄があり、その「共通性」を使ってポートフォリオの説明をするのがファクターの考え方です。前回ご説明した「業種」を例にとれば、分かりやすいでしょう。業種とは、同じような事業を展開している企業は一定の共通性を有しているというものです。

特に、事業に影響を与える環境変化(経済動向、為替変動、新興国や欧州などの地域経済状況等々)に対して同じように反応するので、そこには「業種」という共通性があると判断できます。

ファクターには様々なものがあり、代表的なファクターとしては「企業規模(大型株や小型株という時価総額の大きさ)」「割安度」「借入額の大小」などがあります。ファクターの数はせいぜい20個ぐらいなので、個別銘柄で説明するよりも遥かに効率的にポートフォリオの動きを説明できます。

実はこれらの「ファクター」の中に、中長期的に市場をアウトパフォームするものがあることが分かっています。具体的には、「バリュー(割安株)」「サイズ(小型株)」「モメンタム」「ボラティリティ」「クォリティ」の5つです。

幅広い金融研究がなされて学術的に定着しているのはこの5つで、これらは市場をアウトパフォームすることから「ファクター・プレミアム(プレミアムを持ったファクター)」と言われています。

このファクター・プレミアムを有効利用した指数がスマートベータで、日本語では「賢い指数」と訳されることもあります。

スマートベータは急速に世界の機関投資家の間で普及していますが、それらは一定のルールで銘柄選択したり、加重方法を時価総額以外にするなど工夫されており、その結果、特定のファクターの色合いが濃くなっています。ファクターからのプレミアムを反映できるので、時価総額指数よりもパフォーマンスが改善されると言われています。

今回はその代表的スマートベータを3つ取り上げましょう。

3. 代表的スマートベータ

(1) 最小分散指数
最小分散指数は、元になる株価指数のリスクを強制的に抑制したものです。現在、この分野で最も有名なのはMSCIという指数会社が提供する最小分散指数です。

MSCIはグローバルな指数提供会社で、日本では外国株ベンチマークとして「MSCIコクサイ」が機関投資家の間で広く利用されています。MSCIコクサイは時価総額ベースで算出される株価指数ですが、例えば「MSCIコクサイ最小分散指数」というものが提供されています。

この「最小分散指数」というのは、通常の時価総額指数に比べると約3~4割リスク水準を下げるという実績があるので、リーマン・ショックで大きな損失を被った世界の機関投資家が注目しており、既に多くの投資家が運用しています。

最小分散指数の構築においては、元指数を一つの株式ポートフォリオとみなし、その中にある様々なリスク要因を組み合わせて指数全体のリスクが最小になるポートフォリオに作り変えています。

その際に、以前説明した相関関係が重要になります。単に株価の値動きの小さな銘柄だけを集めると特定の業種などに偏ることになるため、市場から満遍なく銘柄を選びつつ、個別銘柄間・業種間・リスク要因間に存在する様々な相関関係を考慮して、ポートフォリオ全体のリスク低減を図ります。

この最小分散指数というのは、ちょっと個人投資家の方々には理解が難しい指数かも知れません。「要するに、高度な分析を行ってリスクを低減しているんだな」と理解していただければ充分だと思います。

しかし、読者の中には「自分は株式投資をしているのだから、リスクがあるのは百も承知。それを下げる必要性はない。」と感じる方もいるでしょう。その通りです。そこで付け加えたいのですが、最小分散指数はリスクが低いだけではなく、実は長期的にはリターンも高いということが知られています。なぜ、そうなるのかを簡単にご説明しましょう。

まず、投資元本が100だとして、それが1期目にマイナス5%、2期目にプラス5%だったとします。すると2期目が終わった時点での元本は、100×95%×105%=99.75になります。次に、1期目にマイナス45%、2期目にプラス45%だった場合はどうでしょう。2期目が終わった時点での元本は、100×55%×145%=79.75になります。

どちらも、プラスマイナスの絶対幅は同じですが、変動が大きい方が元本を回復できていません。換言すると、大きな負けを取り戻すには、それよりも遥かに大きなプラスがなければならないということです。

実は、これは「複利効果」を指しています。本来、資産運用は永続的なものなので、複利効果が非常に大きな影響を持っています。ただ、人間の頭では複利効果を直観的に感じることが難しいようです。例えば、5年間で元本を倍にするためには年間リターンが何%必要あれば良いでしょうか? 答えは15%です。毎年15%プラスであれば複利で5年後には元本は倍になります。

この例でも分かる通り、複利で資産を増やすことを考える場合、大きなリターンを稼ぐよりも、負けを抑えることが非常に重要なのです。これが最小分散指数の強みです。最小分散指数は、大きなプラスのリターンも大きなマイナスのリターンもありませんが、それが実は長期的には非常に有効なのです。

最小分散指数は既に日本でもETFが上場しています。また、日本の年金投資家や銀行等によりMSC最小分散指数のパッシブ運用が日本株でも外国株でも拡大しています。従来の時価総額指数をベースに考えると、かなり加工されていますが、非常に特徴的な利点を持っているので、今後、個人投資家の間でも大きな広がりを見せると思います。

注意点としては、短期的には最小分散指数のパフォーマンスは時価総額指数に劣ることがあるということです。そのメリットは長期的運用において最もよく発揮されます。

(2) 企業価値ベースの指数
時価総額指数は、各企業の時価総額を使って計算されていますが、企業の財務的価値を使って計算される指数があります。時価総額加重平均ならぬ、企業価値加重平均型指数と言えるでしょう。具体的には売上高などの大きさに応じて企業を評価しています。

このような加重方法にすることにより、指数が「バリュー(割安度)」の特性を強く反映します。つまり、バリュー・プレミアムというものが株価指数に強調されることになります。

割安株は長期的には株式市場をアウトパフォームすると言われており、アメリカでは何十年も前から指摘されています。そこから、アクティブ運用の投資信託の中には、「バリュー・ファンド」という戦略が多く提案されています。いわゆるバリュー・マネージャーというもので、中には非常に成績の良い運用者がいることが知られています。

従来このバリュー・マネージャーが果たしてきた役割に置き換わる可能性があるのが、この企業価値ベースの株価指数です。指数自体がバリュー・プレミアムを織り込んでいるので、運用手法はパッシブ運用でも、結果としてバリュー運用をしていることに変わりはありません。パッシブ運用であるため運用コストが安くなり、その分だけ競争優位だと言われています。

既に、企業価値ベースの指数も非常に多くの機関投資家が利用しており、今後も広く定着すると言われています。

(3) 高配当利回り指数
スマートベータとして最も理解しやすいのが、この「高配当利回り指数」でしょう。

読んで字のごとく、配当利回りの高い銘柄だけを選んで構築される指数です。当然ながら、指数の利回りも高くなり、高配当利回りは市場全体よりも2%ほど配当利回りが高いのが一般的です。(市場全体の利回りが1%の場合、高配当利回り指数の利回りは3%程度あるのが一般的です。)

昨今のマイナス金利下においては、銀行や保険会社という投資家は債券投資から利回りを稼ぐことが難しくなっているので、株式の高配当利回り指数に注目が集まっています。この指数も既に日本にETFが上場しており、個人投資家も容易に使うことが可能です。

ちなみに高配当指数も「バリュー系」の投資だと言えます。少し専門的になりますが、割安株(バリュー株)は通常PBR(株価純資産倍率)が低い銘柄を指します。PBRは「株価」と「一株あたり純資産額」の割合です。

一方、配当利回りは「株価」と「一株あたり配当金」の割合で決まります。純資産額と配当金と言う違いはありますが、会社の財務データと株価との関係で決まるという意味では同じようなもので、傾向としても「バリュー株の配当利回りは比較的高い」という感じになっています。

他にも様々なスマートベータが提供されていますが、残念ながらそれらがすべてETFで提供されるにはまだ時間がかかると思います。ただ、読者の方々には、これからいろいろなタイプのETFが登場してくること、そしてそれらを良く理解した上で使うと運用効率を大きく上げることが可能であることを知っておいていただきたいと思います。

なお、スマートベータの注意点は、短期的なパフォーマンスは見劣りすることがある、もっと正確に言うと「短期的には時価総額指数をアンダーパフォームすることが必ずある」という点です。

ファクターからのプレミアムを織り込んだのがスマートベータですが、長期的には良いパフォーマンスが期待できる半面、短期では市場に負けることもあるため、機関投資家でさえ導入が難しい分野です。その点をしっかり踏まえた上で、投資期間としては3~5年ぐらいの期間を想定して取り組むことが望ましいと言えます。

(指数将軍)

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