アメリカで絶大な人気を誇るのはナゼ?
専門家が語る「日本のETF市場」“伸び”予測
一社の銘柄ではなく、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)といった指数に連動して値動きする「ETF(上場投資信託)」。最近では、「日銀がETFを買い入れした」といったニュースも耳にすることもある。
日本の個人投資家に、徐々に普及しつつあるETFだが、海の向こうアメリカでは大人気の存在らしい。実際、日本と海外のETF市場はどれだけの差があるのだろう。著書に『ETF投資入門』(日本経済新聞出版社)がある、晋陽FPオフィスのカン・チュンド氏に聞いてみた!
■米国のETF人気の理由は、2つの悲劇?
「ETF市場は、世界の中でアメリカが突出しています。全世界のETF純資産残高のうち、およそ7割がアメリカなんですね。ITバブルの崩壊やリーマンショックという危機の際、ETFの安定性が信頼されて、人気は右肩上がりになりました。一方、日本の市場はアメリカの10分の1以下。ヨーロッパなども似たような状況です」
年金シニアプラン総合研究機構の『ETFに関する調査研究』(平成26年)によると、2000年以降、世界のETF市場は資産・銘柄数とも数十倍以上も激増している。ただ先述の通り、資産の70.7%はアメリカで、ヨーロッパが17.6%、アジア太平洋は7.0%しかない。いったいなぜ、アメリカでこれほどの人気なのだろうか。
「ITバブル(1990年代末期)が起こった時、上昇するネット企業の株をアメリカ人の多くが保有していました。しかし、バブルがはじけて株価が暴落すると、株を売りたい人が殺到。需給バランスが崩れて株が売れない事態になり、流動性が枯渇しました。そんな混乱のなか、ETFはきちんとした値がついて、売買も継続。流動性が確保されたんです。ここでアメリカ人は、ETFの良さを実感しました」
ITバブルの後、リーマンショックの際にも、株価が暴落する中でETFは安定。評価が高まった。「皮肉にも、アメリカのマーケットで起こった2つの悲劇により、ETFの人気に火がつきました」とカン氏は言う。
■日本人が知らないETFのメリット
では、今後日本でもETF市場は成長していくのだろうか。カン氏は「日本ではまだETFのメリットがきちんと認知されていないので、それが進めば確実に成長する」と見る。
「投資の基本は、広く浅く分散させてリスク時の上下を抑えること。その究極形がETFです。日本では、日経平均株価やTOPIXに基づいた国内のETFの市場シェアが9割を超えますが、ETFには先進国全体や新興国全体など、20カ国以上をひとまとめにした商品もあります。それらを買えば、多様な銘柄、国、通貨の分散投資になり、一国の経済リスクによる上下を大幅に抑えられます」
ITバブル崩壊やリーマンショックのような経済危機が起これば、その国に関連する株や通貨の価値は大きく変動する。そうでなくても、株や通貨の価値は絶え間なく変わっており、その上下動を抑えるには、なるべく多くの国を網羅したグローバルな投資が必要。それを実現するのがETFだとカン氏は考えている。
「日本、先進国全体、新興国全体のETFをそれぞれ買えば、50カ国近い国を網羅することになります。ここまで広く浅く分散すれば、リスクを軽減できるので、長期運用する人には向くはず。こういったメリットが浸透すれば、日本でもETF市場が伸びるのではないでしょうか」
せっかく貯めたお金も、そのまま持っていればインフレの影響などで価値が目減りすることもある。「一定の価値を保つ長期投資」として、ETFの市場には可能性がありそうだ。
(有井太郎)
記事提供/『R25』
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カン・チュンド
晋陽FPオフィス代表。2003年よりマネーの缶詰めスクール代表講師。自所セミナー回数は200回を超え、東京証券取引所、野村證券、松井証券、SBI証券など多数の講演実績を持つ。日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなどのメディア出演も多数。『日本人が知らなかったETF投資』(翔泳社)などの著書がある。