ETFを熟知する・カン・チュンド氏が解説!
長期の資産形成「ETFが適している理由」
日本銀行の買い入れなど、経済ニュースで「ETF」という三文字を目にしたことのある人は多いはず。ETFは“投資信託”の一種で、近年、個人投資家から人気の金融商品だが、門外漢にはチンプンカンプン…。そんな人たちに向けて、東京証券取引所の主催でETFの基礎知識やメリット、人気の秘訣をプロが解説するセミナーが実施された。(12月15日、22日の全2回)
「来て・見て・触れて♪~今さら聞けないETFのヒ・ミ・ツ~」と題されたこのセミナーでは、ETFに造詣が深いインデックス投資アドバイザーのカン・チュンド氏(晋陽FPオフィス代表)が登壇。終始和やかなムードでETFのイロハを解説していった。
「これほど短期で、これほどの市場を獲得した金融商品は存在しないのでは」とカン氏。それもそのはず、2000年には世界に100銘柄ほどしかなかったETF商品だが、今やその数は5500を超えるという。どうやらその人気は本物らしいが、一体なにが魅力なのだろう。
人気の秘密は? ETFが回避できる「投資のリスク」
ETFは、日経平均株価など、特定の市場やカテゴリの“指数”との連動を目指す商品で、株式市場に上場している。2000年代初頭のITバブル崩壊や2008年のリーマンショックの際、多くの株は暴落。株を売りたくても売れない状況となったが、「ETFはきちんと流動性(※)が確保されていた」とカン氏。それを機に、ETFへの信頼度が一気に高まったようだ。
※換金など、交換のしやすさ
さらに、「個別企業の株に投資する時、私たちが予期できないリスクはたくさんあります。リコールや企業の不祥事はいつ起こるかわからず、倒産する可能性もゼロではありません。一方、ETFはたくさんの企業の株を袋に詰めたような商品ですから、価値がゼロになる心配は少ないんです」と、その“安定性”を説明する。
また、医薬品関連や自動車関連など、ある業界に目をつけても、いざどの銘柄にするか、ひとつの企業に絞り込む際は迷うもの。だが現在は、業界ごとの株をひとまとめにした指数と連動するETFも登場していて、企業を選ばず「業界全体」に投資することもできる。加えて、「ETFのほとんどは1万~3万円で購入でき、保有コストも安い」とカン氏は他の魅力にも言及していった。
最大のメリット「低コストで、手軽に海外分散投資が可能」
カン氏いわく「日本人は、日本株に投資のウェイトを置きすぎ」とのこと。とはいえ、海外の株を買おうにも、各企業の情報まできちんと精査できないうえ、新興国ともなれば尚更なのが多くの人の実情だろう。
「だからこそ、ETFなんです。アメリカやイギリスをはじめ、インドや南アフリカなど、様々な国のETFは日本の市場で買えます。インドの経済に興味があるなら、『インド株式会社の株を買う』というイメージでインドのETFを買えばいいんです」
ETFでは、外国の経済全体にも“グローバル投資”ができる。コスト面も日本のETFと大差はなく、国内口座から購入可能。また、国単位だけでなく、金ETFや原油ETFなど、種類は無数にある。いわば、「手軽に分散投資」というわけだ。
このほか、購入パターンの具体例やETFの歴史をじっくり語り尽くした1時間半。ETFへの理解が深まる良い機会となった。さらに講演後、カン氏へのインタビューが実現。ETFのメリットを、もっと深く聞いてみた。
セミナー後のカン氏を直撃。“ETFが投資ビギナーに適す理由”を聞いた!
――講演、お疲れ様でした。会場には若い方も多く、皆さん熱心に聞いていましたね。
「ここ数年、30代前半の若い方が危機感を持って投資の勉強をしていると感じます。私のオフィスへ相談に来られる人も増えていますよ。数十年の人生プランを設計する中で、自分にとって必要なステップとして、投資に興味を持っている方が多いですね」
――セミナーでは、数十年の長期投資先として「ETFは向いている」とおっしゃっていましたよね。
「長期的な視点で投資リスクを減らすなら、広く浅くグローバルに投資をするのが基本です。ETFはまさにその最適なツールで、先進国なら22カ国の株をまとめて買える銘柄もあります。釣りにたとえれば、“一本釣り”ではなく巨大な網を海に仕掛けて様々な魚を引き揚げるようなもの。普通、それだけ大掛かりな釣りを一人で行うのは大変ですが、ETFはそれを叶えて、しかも保有コストが安い。1社1社の情報を日々くまなく見る必要もないのです」
――投資初心者もチャレンジしやすいかもしれませんが、当然価値が下がる心配もありますよね…?
「もちろん、ETFにも価格変動のリスクはあります。大切なのは、その波に慣れること。短期の時間軸では大きい波でも、長期で見れば影響は小さくなります。毎日見ていると3%や5%の変化が気になりますが、1年の周期で見ればまた違う。その見方に慣れ、長期の時間軸で自分の資産形成をすることが大切なんです」
――もうひとつセミナーで印象に残ったのは、“上場していること”のメリットです。改めて教えていただけますか?
「様々な指数と連動した投資信託はたくさんあります。ただ、上場していない投資信託は、マーケットが閉じてから1日1度だけ値がつき、売買できるのも閉場後。ETFは上場しているので、他の株と同様に日中はつねに値動きしますし、マーケットが開いている時間はいつでも取引できます」
――日中にいつでも取引できるのは、やはり大きなメリットでしょうか。
「アメリカでブラックマンデーが起こった際、株価は日中にドンドン下がりました。でも、投資信託はマーケットが閉まるまで売れませんから、投資家は暴落するのを見ているだけだったんです。ETFが上場している理由のひとつは、この時の経験から。投資家の様々なニーズが形になってできたものがETFなんです」
2000年以降、急速に世界中で銘柄数を増やしたETF。価値がゼロになるリスクが少ないことや、様々な国に手軽な投資をできることなど、人気の秘訣は多数。今後何十年の人生を考えるうえで、資産形成の基盤としてETFを学んでみるのも良いかもしれない。
(有井太郎)
記事提供/『R25』
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カン・チュンド
晋陽FPオフィス代表。2003年よりマネーの缶詰めスクール代表講師。自所セミナー回数は200回を超え、東京証券取引所、野村證券、松井証券、SBI証券など多数の講演実績を持つ。日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなどへのメディア出演も多数。『日本人が知らなかったETF投資』(翔泳社)などの著書がある。