三田紀房×藤野英人対談(後編)
「日本人はお金が大好き!」お金をタブー視する人たちのホンネ
提供元:コルク
中学生が投資する学園漫画『インベスターZ』を連載中の三田紀房さん(写真右)と、「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さん(写真左)。「日本人はお金が大好きなのに、本心を隠している!」というのが2人の共通認識だ。私たちを取り巻くお金と経済について、前編(「天下統一だってカネのおかげだ!」私たちが知らない経済史について話そう)に引き続き目からウロコの対談をお送りする。
三田:投資についてのマンガを連載していて思うんですけど、日本人ってお金の話に対してアレルギーがありますよね。真正面から向き合わず、避けているというか。
藤野:じゃあ嫌いかというと、そうじゃない。実際、日本人ってお金が大好きなんですよ。
三田:藤野さんは著書でその話を書かれていますよね。「日本人はお金が大好き」って、読んだときに「なるほど!」と思いました。なぜそう思うのか、詳しく教えてください。
藤野:まず貯金が好きでしょう。個人金融資産1700兆円以上のうち、現預金が900兆円以上もある国なんて他に類を見ません。あと会社の内部留保だって、300兆円以上ある。
よく「日本には2匹のタヌキがいる」って言うんです。1匹は穴倉にお金を貯め込む個人で、もう1匹は株主にも従業員にも投資にもお金を回さずに抱え込む会社。2匹で1200兆円以上ものお金を持っている。これ、浅ましくないですか? というのが私の主張です。
三田:むしろ守銭奴に近い。
藤野:そうそう。消費も投資もしないでお金を貯め込んで、大好きなのに認めようとしない。欧米人をハゲタカとかお金で動くとか言うけど、自分たちこそそんなにお金を貯め込むのが美しい生き方といえるのか。貯金をするなとは言いませんが、お金の話をタブー視する人たちに対しては、もう少し自分の姿を正しく認識してもいいのにと思います。
三田:日本人のお金の使い方も変だなと思うことが多くて、民間がぜいたくなビルを建てたりして派手にお金を使うと叩かれるのに、政府や自治体のような官が使うことに対しては割と寛容ですよね。ムダな公共工事を山ほどしても、あまり叩かれない。
藤野:なんだかんだ言って、日本人は国や官に素直に従いますよね。ファンドは嫌われやすいですよ。個人のお金を集めて民間に投資をするというのは、官を一切通しませんから。
いったん資金を集めて再分配するというのは、本来は権力者がやることなんですね。でもファンドは個人投資家からお金を集めて同じことができる。ファンドは官とは違った形で、民間の活力ある世界を生み出す素晴らしい仕組みだと思うのですが、官にべったりの思考だと「けしからん」ってことになります。
三田:日本人の「お上意識」の強さをどう変えていくか。私が『インベスターZ』を描くときにはそれも意識していて、もっと民間が自分たちで自立していける社会になればいいなと思っています。将来のためにはいまの子供たちに期待するしかなくて、子供がもっと投資を知って関わって、社会を変えてほしいという願いも込めています。
藤野:私が好きな話の一つに「旗振り山」っていうのがあるんです。江戸時代、大阪の堂島は米取引の中心地でした。そこで決まる取引価格が江戸や各地で重要な情報になるわけですが、当時は電話もメールもない。じゃあどうやって伝播されたかというと、米飛脚と呼ばれた幕府の天下りの人たちが走って伝えたんですね。
しかし民間人の中には、米飛脚より早く価格を伝えて儲けようと思う人がいて、手旗信号の仕組みを作ったんです。山から山へ手旗信号で情報を伝えて、なんと堂島から和歌山まで10分で伝達したとか。彼らが使っていた望遠鏡が山の上から出土されることがあって、これは手旗信号の回数を減らすためのブロードバンドなわけです。
三田:へえ~。面白い。
藤野:しかし政府は手旗信号を禁止したり、軍隊を出して邪魔したりする。そうすると次は民間人が鳩を飛ばして対抗し、さらに政府がハヤブサを大量に放って殺しちゃったり……。だから今も昔もやっていることは変わりませんね。今でいうビットコインの問題も、貨幣の流通を管理したい国家と、介入されずに自分たちだけで運営したい民間企業がぶつかっている。まさに官と民との戦いです。
三田:いや、本当にそうですね。情報によって資金の流れが決まり、それをどう出し抜くかという競争が起きる。古今東西、そしてこれからもこの仕組みは変わらないでしょうね。
藤野:インターネットとかバイオテクノロジーとか、技術は変化しても基本的な仕組みは変わらない。それをマンガで描いている『インベスターZ』は、本当にすごいと思います。
三田:経済がどういう仕組みで動いているのかを、日本のビジネスマンはもっと知るべきだと思います。ときどき電車に乗って周囲を見回すと、スーツ着たおじさんたちがスマホでゲームしているんですよね。グローバル化で企業間競争が厳しくなるとか言っているけど、こんな風で勝てるのかなあと思ってしまいます。日本人が勤勉って、本当なのかなあと。
藤野:「お金が嫌い」とか「働くのが好き」とか、日本人のイメージって実は真逆だと思います。本当はお金を貯めるのが大好きだし、会社も労働も好きじゃない。もっとその自覚を持って、素直に「お金が好きだから、どう生かすかを研究しよう」「今は会社に行くのが嫌だけど、じゃあどうすれば仕事が好きになれるかを考えよう」という前向きな変化が起きればいいと思います。
そのためにも、『インベスターZ』のようなマンガが果たす役割って大きいと思うんです。これからもどんどん経済や投資の世界で面白いネタに斬り込んでいってください!
三田:ありがとうございます!
記事提供/『コルク』
(関連書籍1)インベスターZ
(関連書籍2)投資家が「お金」よりも大切にしていること
関連リンク
<プロフィール>
三田紀房
マンガ家。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「モーニング」「Dモーニング」にて〝投資〟をテーマにした『インベスターZ』を、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』を連載中。
藤野英人
レオス・キャピタルワークス代表取締役社長・最高投資責任者。日米の大手投資運用会社を経て、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネジャーとして豊富なキャリアを持つ。運用する「ひふみ投信」は4年連続R&I優秀ファンド賞を受賞。JPXアカデミー・フェロー、明治大学商学部兼任講師も務める。著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『ヤンキーの虎-新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社)など多数。