「利回り向上VS元本追加」。フツーの人の投資で大事なのはどっち?

提供元:トウシル

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売り買いだけでお金を増やすイメージは実は誤り

未経験者や初心者がなんとなく投資に対して抱いているイメージの最右翼としては、「売買だけで儲ける、できれば1億くらい」というものがあります。

これはけっこう根深い問題で、普通の人の抱く投資のイメージと強く結びついています。一般紙の取材などでときどき「会社員や主婦が投資で1億円作る方法」の依頼を受けたりします。

いかにそれがリスキーなことであって現実的にはなかなか困難なことかを話すことになるわけですが、ほとんど記事にはなりません。そこで、今回はちょっとそういう話をしてみたいと思います。

実は、普通の人がチャレンジする運用を考えたとき「価格上昇による売却益」よりも「追加入金を継続することによる投資元本の追加」のほうが資産を大きく増やすエンジンになるのです。

売買だけでお金を増やそうとすると、高リスクでの連勝が必要、仕事とプライベートに悪影響

売買だけでお金を増やそうというのは、そう簡単なことではありません。

最初に元本を10万円投入して、これを売買だけで100万円まで増やすとします。税引き後の利益で5%を確保する売買を繰り返すとして、20万円まで増やすために必要な連勝数は15勝です。142連勝に成功すれば1億円の財産が得られます。

ただし、これは連勝した場合。一度でも失敗すれば必要な勝利数はもっと必要になります。連敗すればそれを取り戻すためにまた勝利数が必要になります。

こういう話をして142連勝は無理でも「5%の利益を15連勝くらいできるでしょう」と思う人が結構多いのですが、そういう人はオーバーコンフィデンス(自信過剰)の罠に陥っています。

軽く考えている人は、この数字を稼ぐために費やすリソースを軽視しています。全額を集中的に特定の銘柄に投入し短期的に利益を積み重ねていくためには、相当の時間を必要とします。「ちょっといい銘柄を選べばいい」くらいに思うのでしょうが、事前に銘柄を選び、購入のタイミングを検討し、売却のタイミングも伺う必要があります。想定外にマイナスに動いたときはどう対処するかも考えなければなりません。投資に要する時間が仕事やプライベートを相当浸食することになるでしょう。

仕事の隙間時間に投資をしているつもりが、しょっちゅうスマホ相手にトレードして仕事の集中をなくしてしまうことはよくあることです。とある上場企業の人事部長と話をしていたら、そういう社員はけっこういて、バレバレなのに本人は気付かれていないと思っている、とのことでした。仕事も中途半端なので人事評価はさえず、むしろボーナスや翌年度の人事処遇で損をしていて「毎年何十万円も『人的資本における運用損』を出しているのに気がついていないのだ」と評していました。それは積み重ねれば、会社員生活で何百万円、あるいは1,000万円規模のもの「損」をしていることになります。

プライベートの時間を浸食することも、あまりおすすめできません。夜のトレードに精を出していては、本来は休息をして翌日の仕事に集中できる体力を養うべき貴重な時間を使ってしまいます。日中まじめに仕事をしていた人は集中力も落ちています(ワークライフバランスの先生によれば、残業時間の集中力は酔っ払いと大して変わらないとも言われます)。

トレードで家族とのコミュニケーションをはかる時間も削っている場合、家庭内不和の元凶となることもありますし、あなた自身が家族との時間で得られる喜びもまた失っていることになります。

こうした投資スタイルのさらによくないところは、短期的な高い利回りを期待しすぎることです。分散投資を意識しつつ(これは大きく負けるリスクを抑制することでもある)、経済成長の果実を資産形成のリターンとしようとすれば年率3~4%が適当なところであるはずです。

期待リターンを一週間あたりで5%くらいに設定するものですから、なおさらリスクも高まり、相場を見誤ったときのダメージも大きくなってしまいます。

追加入金で元本を上積みすることで、リスクを抑え日々の投資負担を軽くできる

普通の人が投資において重視するべきは、追加元本の定期的な投入です。

先ほどの連勝街道を目指すことより、毎月一定額を追加入金することのほうが資産額を増加させる確実な方法です。先ほどの例でいえば、毎月1万円の追加投資を設定できる人は10カ月後には確実に残高が20万円に達しますし、毎月1.5万円を追加入金できるなら、7カ月後に残高は20万円を超えます。運用利回りを低く設定しても(といっても定期預金よりは高い利回りになると思われますが)、元本の追加にさらに運用利回りが加わることで残高はより多くなります。

運用による実現利率を「年4%」とし、120カ月、つまり10年の積立を続ければ、元本10万円+月1万円の積立も、162万円の力となります。ボーナスごとに6万円ずつ追加入金できるなら、10年で308万円の資産形成に成功します。

年4%の運用益獲得だけを目指すのであれば、運用コストを極力低くしたバランス型の投資信託やETFを長期保有することだけで十分な実現可能性があります。これなら投資をするための「あなたの人的コスト」はほとんどかかりません。自動積立の設定をしておけば毎月の購入の手間すら軽減されます。

これならば、仕事にも集中、家族とのプライベートな時間も失うことなく、投資で資産形成をすることが誰でも目指せるわけです。

利益5%の売買だけで増やす、という先ほどのシチュエーションで308万円を超えるためには、71連勝(失敗するほどゴールは遠ざかる必要勝利数が増える)が必要ですが、そのために必要なリソースと比較すれば、「普通の人の投資スタイル」としてどちらが向いているかははっきりしているのではないでしょうか。

といっても、私たちはついつい自分を過信してしまうと…

こういう解説をしても、投資未経験者と初心者にはなかなか受け入れられないのも事実です。「うまくやっている人もいるではないですか」という反論はいつも受けますし、自分を過大評価することは第三者的には否定しにくいものです。

しかし投資初心者ほど、確実な資産形成の手段として「定期的な追加拠出」を大事にしてほしいと思います。

仕組みとしては投資信託のつみたてがもっとも簡単ですし、税制優遇も得ようとするなら2つの制度が選択肢になります。まず2018年1月からスタートしたつみたてNISAは運用益が非課税です。iDeCo(個人型確定拠出年金)であれば積立元本そのものに所得控除の非課税メリットと運用益非課税の2つが得得られます(ただし、iDeCoは60歳まで原則解約不可であることに注意)。

つみたてNISAとiDeCoは、運用の選択肢もすでに絞り込まれていることもメリットです。運用コストが低い商品を選んで、堅実な資産形成を行いたいものです。

 

(フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー  山崎 俊輔)

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