定期預金から投資信託へ、投資歴20年の大ベテラン
投資ブロガー・イーノさん「資産運用は統計と確率論で説明できる」
投資を始める際に参考にする人も多いであろう「投資ブログ」。なかでも初心者に分かりやすいと評判なのが、イーノ・ジュンイチさん(50代男性、都内在住)が運営する「投資信託のブログ ファンドの海」。2004年から始まったブログには、投資信託との上手な付き合い方を分かりやすく解説する「投資信託のガイド」など、ためになるコンテンツが盛りだくさんだ。
投資信託への投資歴がほぼ20年という大ベテランだが、イーノさんにも投資初心者の頃があったはず。一体どんなきっかけで投資信託を選び、運用してきたのか、話を聞いた。
定期預金→投資信託。ベテランブロガー・イーノさんが“初心者”だった頃
イーノさんが投資に興味を持ち始めたのは20代後半の頃。会社に入って3年目、25歳で定期預金を始めたが、それ以外にも資産を積み立てていく方法がないか考えていたという。
「そのときはまだ定期預金以外にどんな金融商品があるのか知らず、銀行の窓口で『定期預金以外に何かありますか?』と聞いて『ありません』と冷たく返事をされ、がっかりしたことを覚えています。ただ、このときはまだバブルの余韻が残っていた頃で、金利は1桁パーセントありました」
現在は銀行や日本郵便でも販売されている「投資信託」だが、実は銀行による直接販売(窓販)が解禁されたのは1998年。それ以前は、定期預金の金利で資産を増やすのが当たり前の時代だった。しかし、イーノさんが30歳を過ぎるころには、バブルが崩壊して金利も大幅に下落。銀行に預けたお金が増えなくなってしまった。そこで本格的に雑誌や本を読み、投資について勉強を始めたという。
数カ月後には、地元の証券会社で口座を開設し、投資信託を購入。最初は雑誌の後ろの方に載っている値上がりランキング上位の商品や、オプション付きの外貨建て債券を買って、“やけど”をしたこともあるそう…。
「本や雑誌を読むまでは、証券会社は何をしているところなのか、定期預金以外にどんな金融商品があるのかも全く知らない状態。そんな状態で最初から金融商品をちゃんと選べるわけもなく、初心者がやりがちな間違いにあちこちはまりました。始めてからしばらくは、価格の変化が気になってチェックするたびに一喜一憂したりして。投資元本が3~4割減った時期もあり、『やっぱり投資なんかしないほうがよかったんじゃないか』と肩を落としたこともあります」
それでも、その後も情報を集め続け、「信託報酬が安い方がいい」「分散投資すべき」という投資の基本を少しずつ学んだというイーノさん。2004年には、投資情報を発信する「ファンドの海」をスタート。それ以降は投信ブロガーとの交流も始まり、集まる情報もどんどん増えていったそうだ。
「私が投資信託を始めた頃は、ブログもSNSもなかったので、本や雑誌だけが唯一の情報源。しかし、ブログを始めて、インターネットを通じて投資に関する似たような経験、感情や考え方、状況を共有する人たちによるコミュニティができたことで、証券会社や運用会社もブロガーへの情報提供とネットでの情報公開に積極的になった。そして、投資が自分の中で資産運用だけではない広がりを持つようになったんです」
「資産運用の結果はアセットアロケーションで決まる」を裏打ちする出会い
ブログのほかにも、実はもう一つ、投資との向き合い方に大きな変化をもたらした大きな“転換点”があったという。
「2008年ごろに、『資産運用の結果の大半はアセットアロケーションで決まる』という学説があるのを知り、それを調べていくうちに、有名な『Determinants Of Portfolio Performance(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因)』という論文に辿り着きました。英語の論文でしたが頑張って読み込んで、資産運用は統計と確率論で理屈が説明できる、数学を基盤として考えることができるものだ、と知りました。私はもともと大学で数学を学んできた人間なので、この論文と出会い、資産運用を以前より、より身近に感じるようになったんです」
それからは、“金融工学”にも関心を広げ、現代ポートフォリオ理論を始めとするさまざまな理論や数式を学んだ。そして出来上がったのが、投資ブロガーの中で利用している人も多い「アセットアロケーション分析」を始めとするツールだった。
そんなイーノさんの現在のポートフォリオは7~8年前に決めたもの。積立投資を始めてからはほとんどほったらかしだという。
「その代わりというか、10年前から有志で行っている投資信託関係のブログに関わり始め、今は毎年1月に行われる『投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year』と、7月に行われるイベント『インデックス投資ナイト』のスタッフとして活動を続けています。投資信託関係では、もはやブロガーというよりも、イベントを準備して開催する裏方さんだったり司会役だったりで、一年中活動しているかんじです」
「50歳を過ぎたら増やすだけでなく、守りや現金化の戦略も」
昨年、マンション購入に際して持っていた個人向け国債を現金化したというイーノさん。「50歳を過ぎ、資産と呼べるものがある程度できてきたので、これからは増やすだけではなく、資産を守ることや金融資産を現金化していくことについての戦略を考えなくてはと思っています」と語る。
最後に、投資信託と長年向き合い続けているイーノさんに、これから投資を始める人に向けてのアドバイスをもらった。
「僕が始めた頃と違って、今は書籍や雑誌、ネットの情報が充実していて、ちゃんとした知識を身に付けるのは簡単だと思うので、ぜひいろいろ情報を集めてみてください。ただ、自分のお金が相場によって増えたり減ったりするときに自分がどう感じるかは、実際にやってみないと分からないと思うので、まずは少額から始めて、自分の感情を分析してみてください。そこから自分に合ったリスクの取り方や、好みに合う金融商品を探しながら、経験を広げていくのがいいのではないかと思いますよ」
(周東淑子/やじろべえ)