仮想通貨のニュースで最近よく聞くけれど…
「高い透明性」を実現するブロックチェーンの可能性とは
多くの人が、どこかで「ブロックチェーン」という言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。「仮想通貨に関係のある技術」として認識する人もいれば、言葉は知っているが「実際の仕組みはよくわからない」という声もあるだろう。
「ブロックチェーンは取引を記録する技術で、外部から改ざんすることが難しいといったメリットが多く、仮想通貨以外にも有効なものです。たとえばガーナでは、ブロックチェーンの技術を土地の登記に使う企業が出ていますね。政府の不正や、政権が変わる際に土地の登記が塗り替えられることが多いため、取引の履歴を記録でき、かつ改ざんが難しいブロックチェーンの技術が使われています」
こう話すのは、ブロックチェーン推進協会の技術応用部会長を務める、インフォテリアの森一弥氏。今話題のブロックチェーンとは、そもそもどんなものなのか。その実像を聞いた。
仮想通貨の流出騒動とブロックチェーンの関係は?
2009年に仮想通貨の先駆けとなるビットコインが発行された際、それを支える技術としてブロックチェーンが使われた。簡単に言えば、ユーザー間でのビットコインの取引をすべて記録するもので、実際に誕生以来の全取引が記録されている。そしてその記録は、ブロックチェーンエクスプローラーと呼ばれるサイトで確認できる。
ほとんどの仮想通貨の基盤として、ブロックチェーンはなくてはならない技術となっている。
「今年1月、NEMという仮想通貨がコインチェック社から不正に引き出される事件が発生しました。NEMにもブロックチェーンが使われていましたが、事件の根本原因はブロックチェーンではなく、交換業務を行う会社内のシステムや体制の問題です。なお、流出した580億円相当のNEMについても取引記録が残っており、その足取りを追うことができます」(森氏、以下同)
不正に出金した仮想通貨の足取りは追えるものの、ネット上のアカウントから人物を割り出すにはハードルがあるため、まだ誰が不正出金させたかという特定には至っていない。だが「仮想通貨の足取りを追うこと自体、現金ではできなかったものであり、ブロックチェーンの強み」だと森氏は言う。
では、ブロックチェーンとはどんな仕組みなのだろう。基本的には、いくつかの取引を、まとめる単位である「ブロック」として順次記録し、そのブロックをチェーン状につなぐように記録を残していくもの。これが名前の由来だ。この仕組みは外部からのデータ改ざんが難しく、匿名性が高いという特徴を持つ。森氏は「ブロックは取引のデータをまとめたものです。一般の方でも携帯電話で使われている『パケット』なら聞いたことがあると思いますが、似たようなイメージです。最近は1ブロックにつき2000〜3000件の取引記録が保存されています」と説明する。
こうしたある種のデータベース(台帳情報)は、今までなら大抵1つの大きなサーバーに集約されていた。しかし、ブロックチェーンでは、インターネット上でデータを共通化して、それぞれのサーバー(ブロックチェーンでは「ノード」と呼ばれる)内に同一の台帳情報を保有している。加えて、取引記録はつねにネットワーク内で監視される公開情報であり、透明性が高い仕組みといえる。
「大きな特徴は、システムを立ち上げた運営者でさえ取引記録を改ざんできないということです。データを変えるには、途方もなく膨大な計算が必要となり、実質的に不可能です。そのほか、24時間ダウンタイムなしに稼働すること、各社が大規模なシステムを作る必要がなく、運用も必要ないことなどのメリットがあります」
流通や口座開設、さらには「投票」にも使われる?
こういったメリットを持つブロックチェーンは、仮想通貨以外にも多くの分野で応用されることが期待されている。
「わかりやすい例のひとつが、野菜や薬の流通です。ブロックチェーンを使えば、どこの誰が取引したか、足取りをすべて改ざん無く残せますよね。もし薬の流通において、特定のロットに問題が発見されても、工場の出荷から小売店までの経路を細かくさかのぼれます。野菜も生産地からの流通経路が明確になり、消費者の安心やブランドイメージの確保につながります」
森氏の所属するインフォテリアでは、昨年6月にブロックチェーンを使った株主総会決議の実証実験を行ったという。株主総会の議案に対し、参加者が賛成・反対の投票をブロックチェーンの技術を使って行うのだ。ここでは投票内容が台帳に記録される。
「ネット上の投票では、同じ人物による二重投票や、アカウント操作による不正投票が付き物です。今回もそうした不正をしようとした形跡がありましたが、ブロックチェーンによって全ての投票が台帳に記録され、管理されます。残高がないのに送金できないように、特に追加開発の必要もなく、それらの不正が最終結果に反映されることはありません。こうしたことができるのもメリットです」
海外でも活用が進んでおり、エストニアは国外からオンライン上で銀行口座の開設や会社の設立登記を実現するにあたり、ブロックチェーンの技術を応用している。ブロックチェーンを利用することで、改ざんが厳しく匿名性を高めることができる。こうした安全面の“担保”があるからこそ、一度もエストニアを訪問しなくても海外から登録ができることを可能としている。
「ブロックチェーンを使えば、住民票の取得や公的選挙などもオンライン上でできるかもしれません。本人確認さえ取れれば可能で、仮に不正を行おうとしても、基盤として難しいことに加え、取引情報が残るのですぐに判明、追跡することができます。ブロックチェーンは『仮想通貨に付随するもの』というイメージが強いですが、別個の技術としてさまざまなシーンに使われることになるでしょう」
森氏は「今後、一般の方がブロックチェーンを意識すること無く、ブロックチェーンの恩恵を受けられるサービスがどんどん普及していくのでは」という。“透明性の高い取引”を支えるシステムとして、今後どこまで広がるのか見ておきたい。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2018年3月現在の情報です