長く仕事を休んでも、無収入になるわけではない!
病気やケガ、長期の入院…国や会社はどこまで助けてくれるの?
仕事中の事故で療養が必要なほどのケガをしたり、持病が悪化して入院を余儀なくされたり、長期的に仕事を休まなければならない状態に陥ってしまったら…。配偶者が専業主婦(夫)だった場合、収入がなくなり、路頭に迷わせてしまうかもしれない、と不安になることもあるだろう。
しかし、そこまで心配する必要はない。ケガや病気で長期的な休業が必要な場合、国や会社の制度によって、給料の6~8割程度が補償されるのだ。
保険に関する有料相談を行っている「保険相談室」代表の後田亨さんに、いざという時の補償内容について教えてもらった。
仕事中のケガでの休業時は、給料の80%を支給
「通勤中や業務中に負ってしまったケガや病気によって休業する場合は、労災保険の『休業給付』または『休業補償給付』+『休業特別支給金』が適用されて、給料の80%が支給されます」(後田さん・以下同)
労災保険とは、会社が労働者(会社員)のために加入し、保険料を負担しているもの。休み始めて4日目以降から、休業1日につき給付基礎日額の80%が、最長で1年6カ月支給される。
保険給付を受けるためには、休業している本人かその家族が、「休業給付支給請求書」または「休業補償給付支給請求書」に必要事項を記載し、所属している会社の所在地を管轄する労働基準監督署に提出する。この時、医療機関に傷病名や療養期間の証明を、所属している会社に事業主の証明を、その請求書に記載してもらう必要がある。
仕事以外が原因のケガでの休業時は、給料の60%強を支給
「業務以外のことが原因でのケガや病気で長く休業する場合は、健康保険の『傷病手当金』が適用され、給料の3分の2程度が支給されます」
健康保険は、会社員が加入するもので、月々の給料から保険料が天引きされている。労災保険と同様に、休み始めてから4日目以降に、休業1日につき標準報酬日額の3分の2が、最長1年6カ月支給される。「付加給付」がある健保に所属している会社では、支給額が標準報酬日額の80%、給付期間が3年になることもあるそう。
保険給付を受けるためには、必要事項を記入した「傷病手当金支給申請書」を、所属している会社から保険者(協会けんぽ、健康保険組合)に提出してもらう。この時、医療機関に「傷病手当金支給申請書」の意見書の記入、所属する会社に事業主記入欄の記入を行ってもらう必要がある。
ちなみに、労災保険・健康保険ともに、休業が長期に渡る場合は、通例として1カ月単位で給料の締切日ごとに申請する。また、復職した日から2年以上が経つと、給付を受けられなくなってしまうため、早めの申請が肝心だ。
医療費が抑えられる「高額療養費制度」
「もし、医療費が高額になりそうな場合は、『限度額適用認定証』を利用することをおすすめします。健康保険の窓口で発行してもらい、診療を受ける病院の窓口に提出すると、請求される医療費をあらかじめ抑えることができます」
そもそも健康保険には「高額療養費制度」という制度があり、月々の医療費の自己負担額が抑えられる仕組みができている。年収により限度額は変わるが、例えば年収400万円であれば、ひと月当たりの自己負担限度額は8万100円+(医療費-26万7000円)×1%となる。つまり、ひと月の医療費が8万円+α以上にいくことはない。
医療機関で支払った後に保険者に申請し、限度額の差額を払い戻す方法もあるが、いったん自分で負担しなければならない。しかし、「限度額適用認定証」を活用すれば、医療機関の窓口で精算されるのだ。
健康保険には、加入者の死亡保障も
「健康保険に加入している本人や、その扶養家族が死亡した場合、埋葬料が支給されます」
被保険者本人が亡くなった場合は埋葬料、被扶養者が亡くなった場合は家族埋葬料が、葬儀を行ったかどうかに関わらず支給される。
また、厚生保険に加入中、あるいは受給中の本人が死亡した場合、遺族には「遺族厚生年金」が支払われる。18歳以下の子どもの有無や、配偶者の年齢によって遺族年金の種類は異なる。
「会社員として加入している保険は、手厚い補償を用意してくれています。ただ、制度を知らないと、いざという時に活用できません。労災保険や自分が加入している健康保険にどのような制度があるのか、必要になる前に確認しておき、頭の片隅に置いておきましょう」
大きなケガや病気をしても、急に大金が出ていってしまうわけではない。一定期間は給付金などが元の給料に応じて支払われるため、会社員であればそこまで不安に思う必要はなさそうだ。
(有竹亮介/verb)
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後田亨
オフィス・バトン「保険相談室」代表。日本生命にて営業職を約10年勤めた後、保険代理店に転職。2012年に独立し、現在は保険の有料相談、執筆、講演等を通じて、情報発信を行う。著書に『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』など多数。