フィンテックで健康な生活をサポートする新しい保険
歩くと保険料の一部が返ってくる「あるく保険」
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自分の生活習慣を変えるのは、簡単ではない。健康やダイエットのために「今日からなるべく歩こう」と思いながら、定着しなかったりやめてしまったり……。一時的にチャレンジできても、それを継続して習慣化するような“行動変容”を起こすのは難しいのだ。
そんな中、保険分野におけるフィンテック(インシュアテック)の領域で、健康のために生活習慣を変えたい人をサポートする商品が生まれた。昨年11月に正式販売された「あるく保険」だ。
ひと言で言えば、「歩くと保険料の一部が返ってくる保険」。具体的にどのようなテクノロジーが使われているのだろうか。商品を販売する東京海上日動あんしん生命の橋本直樹氏に聞いた。
■ウェアラブル端末とアプリをもとに、1日の平均歩数を算出
入院や手術などの際に給付金を受け取れる「あるく保険」だが、最大の特徴はユーザーの歩数によって保険料の一部が返ってくる仕組みだ。
「歩数を計測できるウェアラブル端末をお客さまに装着していただき、専用のスマホアプリとペアリングします。お客さまの情報をアプリに登録した上で、毎日の歩数を計測。データをもとに一定期間の平均歩数/日を算出し、その結果に応じて保険料の一部を『健康増進還付金』として2年後にお渡しします」
ウェアラブル端末は腕に装着するタイプで、2種類が使用可能。Fossil社製の「MISFIT FLARE」を使うことを希望する場合は貸与される。ドコモ・ヘルスケア社製の「ムーヴバンド3」の使用も可能だ(本人が用意する必要あり)。「ペアリング後、ウェアラブル端末で計測された歩数データはアプリと同期され、私たちの会社にフィードバックされます」と橋本氏。それをもとに、還付金対象となるかを決める。
どのくらい歩けば、保険料の一部が返ってくるのだろう。「あるく保険」では、2年間を大きなくくりとし、さらにその中を6カ月ごとの4期間に分ける。そして、1日の平均歩数が8000歩を上回った期間(6カ月)の数に応じて、2年に一度キャッシュバックが生まれる。返ってくる金額の目安は、2年のうち4期間すべてで平均歩数が8000歩/日を上回れば、「おおむね保険料の1〜2カ月分が返ってくる」とのことだ。
ボーダーラインを1日平均8000歩とした理由について、橋本氏は「日本人の平均歩数をもとに、ちょっとした努力で習慣化できそうな、手の届きそうなところを考えた」と、その背景に触れる。
■テクノロジーは駆使しつつ、あえてシンプルな設計に。その理由は…
日々の生活習慣や行動によってキャッシュバックが生まれる保険は「日本初」だという。何より、この商品の目的はテクノロジーによって「日々の行動変容」を起こすことにある。
「医療技術の進化により平均寿命が延びる中で、お客さまにはいつまでも若々しく、健康で生き生きと長生きしてほしいという気持ちがこの商品につながりました。年1回の健康診断だけでは、なかなか日々の生活を見直すまでに至りません。では、どうすれば行動を変える『きっかけ』と、それを続ける『継続性』を生めるか。この2点を考えたんです」
こうした目的を達成する上で、「ウェアラブル端末とアプリにより、現状の生活を可視化できるようになったのが大きい」と橋本氏。これまでも歩数を計測する技術はあったが、それをアプリのように自動でデータ化することは難しかった。
「『あるく保険』のアプリでは、歩数の推移を週・月・年単位で見られるほか、該当期間における現状の平均歩数/日と、期間内に平均8000歩/日を達成するには『今後1日平均で何歩必要か』という情報も表示されます。これらにより、毎日続けて健康増進を行ってほしいのです」
また、歩数だけでなく、ウェアラブル端末からユーザーの睡眠状況なども計測可能。日々、健康へと意識を向けるための工夫をテクノロジーで実現している。
なお、歩数などのデータは細かく取れるものの、「アプリはお客さまの健康増進の取組みを継続的にサポートするために、シンプルで分かりやすい設計にした」と橋本氏。現代の様々なアプリは、複雑な機能を搭載したり、何度もアプリを開かせるよう仕組みを導入しているケースもあるが、そこには、できることが多くなったフィンテック時代にこそ参考にすべき考えがある。
「あまり複雑にすると、お客さまの気持ちがそれらに向かいすぎて、その機能に新鮮味を感じなくなると『飽き』が来てしまうからです。技術を使えば色々な工夫は可能ですが、健康増進活動の継続性を最優先にするためにアプリはあえてシンプルな設計にしました」
今後について橋下氏は、「医療技術の進化や、ウェアラブル端末などのIoTの進化はめざましいものがあります。つねにどの方法がベストかを考えて、最新技術を取り入れながら商品をアップデートしていきたいですね」と展望する。
日々の生活習慣を変え、“行動変容”を起こす。非常に難しいテーマだが、「あるく保険」の例を見ると、“攻略法”が生まれつつあるのかもしれない。フィンテックは、間違いなくその引き金となっている。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2018年5月現在の情報です