ポイント好きの日本人だからこそ、簡単にできる
投資を日常に埋め込む「JRE POINT投資体験チャレンジ」
Suicaなどのポイントを使い、資産運用を味わう
欧米に比べ、資産運用をする人が少ないと言われる日本。寿命が延び、公的年金だけで老後を賄うには少々不安が残るなか、これからの日本人は、より自分の資産を自分で運用することが求められていくだろう。
とはいえ、資産運用に馴染みのない人が、どうやってそのハードルを越えるのか。「いきなり失敗するのが怖い」「勉強が大変」という心理的な壁を、乗り越える方法はあるのか。あるいは、投資を“特別な存在”ではなく、人々のインフラや生活に入り込ませ、距離を近くすることはできるのだろうか。
実は、その突破口となりそうなサービスが、フィンテック領域で登場している。JR東日本の「JRE POINT」を使った「JRE POINT投資体験チャレンジ」だ。
このプラットフォームを提供するのは、AIを活用したロボアドバイザー「THEO」を運用するお金のデザイン社。Suicaなどで貯まるJRE POINTをこのサービスで擬似的に“投資”をすると、THEOの投資信託の基準価額に連動してポイント数が増減する。資産運用を体験できる仕組みだ。
「日本人のほとんどは、カードなどのポイントを何かしら保有しています。特にJRE POINTは、Suicaと共通化するなど、多くの人が日常的に接することが多いポイントですよね。そのポイントを投資体験として活用し、生活やインフラといった“当たり前の日常”に金融サービスを埋め込めればと思いました」
サービスを開発した理由についてこう語るのは、お金のデザイン 代表取締役社長の中村仁氏。実はこの企画、JR東日本がビジネスアイデアを募った「JR東日本スタートアッププログラム」に同社が応募し、採択されて3月からスタートした。まずは、今年9月までテストマーケティングとして運用される。
“投資体験”の始め方はきわめて簡単だ。JRE POINTの会員であれば、サービスサイトにログインするだけでいつでも投資体験をスタートできる。実際のお金が対象ではないので、本人確認などの手続きはいらない。ログインのみのワンクリックでスタートする「シングルサインオン」となっている。
中村氏は、このシングルサインオンが「サービス設計の大きなポイント」だと話す。少しでも面倒な手続きがあれば、ユーザーの離脱率は増す。サービスの趣旨を考えたとき、「いかにハードルを下げて『ちょっとやってみようか』と思えるかが大切」であり、そのハードル下げにこそ「テクノロジーが使われている」と力を込める。
このサービスは、日本人がみな投資家になるためのヒント
ログインした後は、100ポイントから運用に当てられる。よりポイントを増やしたい「アクティブコース」と、リターンは少なくてもリスクを取りたくない「バランスコース」の2つから選択可能。その後は、運用状況を見ながらいつでもポイントを追加・引き出しできる。
さらに、もしこのサービスでポイントが減っても、マイナス分は最終的に補填される。つまり、実際にはポイントが減少することはない。あくまで“投資体験”をするためのサービスだ。
「投資に無関心の人に『やってみましょう』とメッセージを投げかけても、なかなか自発的に始めてもらえません。いかに不安なく、気軽な気持ちでチャレンジしてもらうかが大切です。一方、気軽にチャレンジした結果、まだ経験の浅いうちに大金を投じて損してしまえば、二度と再チャレンジしてもらえません。そういった意味で、誰もが持っていて、大きなリスクなく楽しめるポイントを活用するのは、投資の入り口としてベストだと考えています」
しかも、JRE POINTなどは生活行動と密着している。だからこそ、投資と紐づけることで生活に資産運用を埋め込める。そういった「新しい発想のプロダクトこそ、今のフィンテックの本領」という。
実は、この形のサービスが、ほかにも直近で生まれている。NTTドコモの「dポイント」を使った「dポイント投資」だ。こちらも同様に、THEOの基準価額に連動してdポイントが増減する。ローンチ以来、想定以上のペースで参加者が増えるなど、反響は大きいようだ。
「私は、自分の目標として『日本人総投資家計画』を掲げているのですが、ポイントによる投資体験は高い可能性を感じます。今や、誰もが当たり前に携帯電話や交通ICカードを使っていますよね。そのポイントで投資体験ができるということは、みんなが投資家になる機会があると言えますから」
さらに、体験をする中で「投資に関するコラムなどを発信し、より投資に興味を持ってもらいたい」と中村氏。まずは体験して、その上で学ぶというサービス設計だ。
この狙いについて、比喩を交えながら中村氏が説明する。
「自転車に初めて乗るとき、その『乗り方』を勉強するよりも、実際に乗ってみる方がずっと近道ですよね。投資も同じで、まず体験した上で学ぶのがベストです。かといって、最初から何百万も投資に使うのは、自転車に乗ったことのない人がいきなり大型バイクに乗るようなもの。それはうまくいきません。私たちは、正しい順序を提供したいんです」
最後に、中村氏はこう言う。「圧倒的な発想の切り替えと、質の高いプロダクトで、日本の資産カルチャーを変えていきたい」。フィンテックはまさにその象徴。日本人と資産運用の距離を縮める突破口は、間違いなくここにある。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2018年6月現在の情報です