ETF誕生25周年に思うこと

提供元:トウシル

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アイデアとしてのETFの価値

今年は、ETFが誕生してから25周年になる。第一号ETFは、1993年1月29日に、アメリカン証券取引所に上場された現在のステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの「SPDRS&P500ETF」である。思い返してみると、意外に歴史が浅い。

筆者が株式市場に直接関わるようになったのは1986年のことだが(投資信託のファンドマネージャーだった)、この頃はまだETFが存在していなかった。その後、1987年に起こったブラックマンデーに驚き、1980年代末の日本株バブル絶頂期、さらに1990年代に入ってバブル崩壊を迎えるわけだが、この時点でもまだETFは存在していない。

当時、ファンドマネージャーとして、株価指数先物取引と現物の株価の裁定取引にともなうプログラム取引にはおおいに注目していたが、これと似た仕組みでインデックス・ファンドが半ば自動的に運用できるというアイデアには思いが及ばなかった。

裁定取引が始まった当初のプログラム取引は素朴なもので、たとえば日経平均の225銘柄を1,000株、あるいは2,000株くらいずついっせいに成り行きで発注するようなものだった。企業年金の資金を運用するアクティブ・ファンドのファンドマネージャーだった筆者は、「ご苦労なことをするものだが、儲かるからやるのだろうな」というくらいに思っていた。自分自身のお金儲けに熱心なら、外資系の証券会社にでも転職して、裁定取引を見物する側から自分でやる側に回るのが良かったのだろうが、当時、おもしろい仕事だとは思えなかった。

一方、米国では、ブラックマンデーがなぜ起こったのかについて、かなり真剣な検討が行われていたようだ。

筆者を含めて、当時の日本のファンドマネージャーの理解は、ポートフォリオ・インシュランスという現在の元本確保型投資信託で使われているようなテクニックが急に普及して、たまたま株価が下落した際に(外的原因はドイツの金融引き締めだった)、ポートフォリオ・インシュランスのプログラムが連鎖的に発動されて、行き過ぎてしまったのだろうというものだった。おおよその理解としてそう間違っていないのではないかと思うが、先物市場と現物市場に連鎖的な売り注文が入って株価に行き過ぎが生じたときに、なぜこれが途中で止まらなかったのかということに関してさまざまな議論があったようだ。

こうした検討の中で、米国のSEC(証券取引監視委員会)は、S&P500のような指数の銘柄をまとめて取引して、この取引に流動性を与えるマーケットメーカーが存在するといいのではないかと考えていた。

先般、筆者は、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのETFビジネス担当の取締役デイビット・コリンズ氏に、ETF誕生の際のエピソードをお聞きする機会があった。ETFのアイデアのきっかけになったのは、商品取引の倉庫保管受領書だったのだという。確かに、小麦でもトウモロコシでも、物品を直接的に受け渡すのではなく、倉庫に保管してある商品の引換券をやり取りする方が便利だ。そうした証券の「中身」を現物の商品から株式に代えるという発想はあってもいい。

そして、この引換券の価格と中身の株式の価格に差が生じると、裁定取引が起こるわけだから、引換券が欲しい場合は現物株式のポートフォリオを渡して引換券を手に入れ、逆に現物株式が欲しい場合は引換券を渡して現物株式を受け取る仕組みがあるといい。

加えて、この取引に参加してくれる指定参加者(証券会社)にマーケットメイクを担わせ、この引換券を投資信託として、その設定・解約を市場に半ば自動的にやらせたらいいのではないかというところまで思いつくと、今日のETFの仕組みにたどり着く。これなら、かなりローコストに運用ができる。

このポートフォリオの引換券自体を証券市場に上場したものがETFということになるが、誕生までには、規制のクリアなどでかなりの時間を要したようだ。SPDRを世に出したステート・ストリート銀行は当時から証券の保管預かりの大手であったから、この案件を取り扱いやすかったという面もあったのだろう(同社が保管の機能を自社で持っていることは、今後のインデックス・ファンドのコスト競争でも有利な要素だろう)。

もっとも、今や、資産残高が30兆円を超え、さらに毎日の売買代金が時価総額最大の株式であるアップルの数倍にも及び世界の証券市場で最も活発に取引されている銘柄と言えるSPDR(ティッカー・コードは「SPY」)も、スタートからしばらくの間、なかなか出来高が増えずに苦労した時期があったらしい。

ETFの利用のされ方

登場の経緯からいって、ETFは当初、トレーダーが先物と現物の裁定取引をしたり、株式のバスケット取引をしたりする際に利用可能なトレーディングのツールとしての用途が期待されていたようだ。

しかし、その後、ETFは、極めて低コストにインデックス・ファンドを運用できることから、長期的に資産を形成したい、個人投資家を含む投資家が、長期的に保有するための資産形成向け投資のツールとしての役割が大きくなってきた。投資家がもっぱら注目するのはこの側面であり、運用資産残高と取引量が増えて、ETFの取引価格と純資産の価値(NAV:Net Asset Value)との価値の乖離が縮小して安定してくると、ETFは個人投資家にとっても使い勝手が良くてローコストな運用の選択肢となった。

これらに加えて、たとえばSPDRでは、現在、年金基金やヘッジファンドなどの機関投資家の保有が増えて、現在では、資産残高の7割程度が機関投資家の保有なのだという。

年金基金のような機関投資家の立場で考えると、たとえば何らかの事情で資金の流入があった場合、米国株式の代表的なベンチマークであるS&P500のエクスポージャーを手軽に取ることができる手段があると便利だ。ファンドを解約して、別の運用会社に任せる場合に、ファンドが保有していた株式の売却代金を一時的にS&P500のETFの形で保有しておくといった、委託資金を移行する際の手段にも使える。

また、ヘッジファンドや高速取引(HFT)業者は、先物、現物株式、ETFの間で裁定取引の機会をうかがっているので、流動性の大きなETFは、彼らにとって便利なツールであると同時に、取引のターゲットでもある。

ETFの今後に何を期待するか?

日本の投資家の立場で、ETFに期待することをいくつか述べてみよう。

まず、東証でのETF売買がもっと活発化するといい。

この点で、東証に重複上場していてS&P500を円建てで上場株式のように売買できる「SPDR S&P500 ETF」(コード番号1557)は、良い素材だが売買が活発になるよう、マーケットメイクに力を入れて欲しいし、投資家ももっと注目するといい。本国で大きな時価総額を持っているので、ファンドが償還されてしまう心配はほぼない。これ以外の外国株式ETFについても、重複上場して、活発に売買されるようになるといい。

もっとも、バンガード社の通称「VT」を通常の公募の投信に仕立てて投資しやすくした「楽天全世界株式インデックス・ファンド」のような商品もあるので、個人の投資は環境が好転している。

ETFの商品については、アクティブ運用のETFとともに、「運用に特化した株価指数」に連動する低コストで良心的なETFの登場を期待したい。

考えてみると、日経平均もS&P500も委員会形式で銘柄の採否が検討される人的判断によるポートフォリオ運用だが、これらは先物取引の対象になったり、銘柄入れ替えがトレーダーに狙われたりする弱点を持っている。加えて、コスト面では、インデックス・ベンダーに支払うコスト(たとえば資産残高の3ベイシス・ポイント)も無視できない。

委員会形式で銘柄とウェイトを決める運用本位の指数を作り、これに対してETFを組成するような形で、資産形成用のポートフォリオをETF化できないだろうか。

未来の運用?

株式を例に、過去の運用の変遷を振り返ると、

1.個別銘柄の会計分析的ピックアップ
2.割引現在価値の考え方による理論株価
3.分散されたポートフォリオでのリスク低減
4.アクティブ運用のための研究と応用
5.インデックス(市場平均)運用によるコスト優位
6.ETFによる運用の半自動化

といった事柄が、完全に時系列順ではないにしても、1つの流れとして把握できる。

たとえば、将来、ネットによる情報網と仮想通貨のような支払い手段が普及して、「株式」が資金調達や資産運用の中心ではないような時代が到来する可能性がないとは言えないが、その場合でも、上記と似たようなことが起こるのではないだろうか。

個人や企業が、多様な手段で個別に「価値」のやり取りをするような世の中になったとしても、人はやがて分散投資によるリスク低減の有用性に気付くだろうし、投資ポートフォリオの組成にはおそらく何らかのAIが使われることになるだろうが、当初は「儲かるAI!」をアピールするビジネスが登場し、しかしその後に他のライバルAIの平均を保有する言わばインデックス運用のようなAIが優位に立つだろうし、最終的には、自動的に運用ができるETFに相当するようなサービスができるのではないかと、筆者は空想している。

「お金」、「株式」、「債券」、などの価値がすっかり変わっても、人間は、「価値」を稼ぐ量と支出する量が時間的に一致する訳ではないので、計画的な生活と「運用」に対するニーズは未来の世の中でも、今と変わらずに存在するのではなかろうかと考えている。

ETFの話から飛躍してしまったが、資産運用におけるETFの誕生のようなイベントを将来も見てみたいものだと、ETF生誕25周年の今、改めて思う。

 

(楽天証券経済研究所  客員研究員 山崎 元)

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