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AIなどの最新技術で、手作業からの解放を

「ロボット投信」が進める、投資信託の自動化

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最新情報はAmazon Echoが答えてくれる

さまざまな銘柄の株や債券を組み合わせ、1つの金融商品にして運用する投資信託。日本に数千本あるとされる投資信託において、ロボットやAIの技術を使ってその管理を自動化し、より契約者に寄り添ったサービスの具現化を目指す企業がある。ロボット投信だ。

同社が取り組む“自動化”の領域は幅広い。たとえば昨年11月、AIを搭載したスマートスピーカー「Amazon Echo」に対応した投資情報の提供サービスを、三菱UFJモルガン・スタンレー証券がローンチした。利用者がスピーカーに話しかけると、株価や投資信託の基準価額を答えるもので、その開発にはロボット投信が携わっている。

みずほ証券では、昨年12月からコールセンターにおける投資信託や市況情報の電話自動応答サービスを始めた。利用者の電話問い合わせを自然言語処理でテキストに変換し、リアルタイムで人工音声が自動回答する。これも、ロボット投信が提供するシステムを使いサービス化した例だ。

「投資信託の利用者は、販売額ベースでは対面の総合証券が大部分を占めることから年齢層が高く、情報を取得する手段は主に電話や対面のコミュニケーションです。ネットを経由する利用者は前述の販売額で見ると約5%前後とも言われるほど。その中で、今まで人がやっていたコミュニケーション業務を自動化したのがこれらのサービスです」

こう話すのは、ロボット投信の代表取締役社長を務める野口哲氏。この業界では特殊な用語や特有の言い回しも多く、通常の音声認識では自動で聞き取って回答するのは簡単ではない。それらの精度を上げるよう、金融の専門職を歴任してきたメンバーが独自の“辞書”を作っているという。

とはいえ、ロボット投信は音声認識のサービスだけを提供しているわけではない。領域は投信管理“全体”に及ぶ。一例が、大和住銀投信投資顧問が5月から提供しているLINEを使った情報提供サービスだ。

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株式では当たり前だが、投信では実現できていない任意の期間における運用成績やその分析結果をSNS経由で利用者に送るなど、情報提供のスピード化と自動化に成功した。これもロボット投信との協働で生まれたものだ。

「投資信託は、商品ごとに運用状況やその分析レポートを定期的に発行しています。しかし、それらの多くは手作業で行われており、本数も多いため、作成に時間がかかることがありました。月1度、月末基準のデータを翌月2週目にレポートとして出すだけのケースも珍しくなく、最新版といっても1カ月前の情報……ということもあります。その作業を自動化することで、より“即時性”のある情報提供を実現しています」

RPAによる改革は、若い人にメリットをもたらす

野口氏は、自動化サービスが利用者に2つのメリットをもたらすと考えている。1つは、知りたい情報をより早く提供できる“即時性”の実現。もう1つは、スマホ時代における情報の見やすさ、“閲覧性”の向上だ。

「従来の投資信託のレポートは、1枚の紙やPDFにまとめられることが多く、スマホで見ると字が細かくて見づらい印象がありました。一方、LINEのサービスでは、情報カテゴリごとに見られるので、特定の情報やグラフ、レポートをピックアップするなど、閲覧性が上がっています」

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野口氏は、もともと投資信託のデータ解析や分析業務を行っていたが、「テクノロジーの活用が少なく手作業が多い」という業界の実態に疑問を感じたという。そして、その疑問はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション。ロボットによる業務の自動化・効率化)などの最新技術で「解決できる」と考えた。

投資信託は多くの株や債券を組み合わせるため、構造が複雑で分析や情報提供が難しい。だからこそ手作業が多かった部分もあるが、ロボット投信のサービスはそこに真っ向から挑んでいる。結果、販売業務などを行う人の業務負荷を大きく下げることに成功した。

「音声認識やLINEによる情報提供など、広い領域のサービスを開発する理由は、業界全体の常識を変えたいからです。それをやるには、1つのジャンルを自動化しただけでは足りません」

そう言い切る野口氏だが、サービスを作るモチベーションは、あくまで「利用者のため」だという。

「自動化によって即時的に見やすい情報を提供できるのは、利用者の大きなメリットになるはずです。そして、提供する情報のUIやUXが劇的に変われば、どんな年齢の人にも便利になるでしょう。私たちが目指すのは、テクノロジーを使って金融コミュニケーションを最適化すること。それにより、多くの人が投資に興味を持ち、“貯蓄から投資へ”という動きを作れればいいですね」

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野口氏は、「つねに考えるべきは“このサービスが誰のためのものか”ということ」と言う。そして、「あくまで投資信託を利用する人の目線で、より良いものを考えたい」と続ける。広い領域で自動化を実現する数々のサービス。それは、利用者と投資の距離を近づけるためにある。tom3896

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2018年8月現在の情報です