東証マネ部×インベスターZ
ベンチャー投資のプロが語る“投資条件”。成功企業を見極めてきた人の判断基準とは?
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全国屈指の進学校・道塾学園に全教科満点で入学した財前孝史が入った部活は、「投資部」なる怪しげな極秘活動。そこで稼いだ途方もないお金は、授業料無料という学園の運営資金になっていた。戸惑う財前だったが、やがてその才能を開花させていく…。そんな“金言だらけの名作”として知られる本格投資漫画『インベスターZ』が、このたびテレビ東京でドラマ化する。
原作漫画の大きな特徴は、第一線で活躍する社長や経営者といった「実在の人物」がストーリーに出てくること。それはドラマでもバッチリ再現され、ビジネス界の英雄が次々に出演する。特に8月10日放送の第5話では、メルカリやSHOWROOMといった有名ベンチャー企業の関係者が続々登場。リンクアンドモチベーションの麻野耕司氏もその一人だ。
麻野氏は、組織や人事のコンサルティングで急成長中の同社で、ベンチャー投資の事業を立ち上げた異色の人。そんな彼は、このドラマや投資の魅力をどう感じているのだろうか。
ベンチャー起業家たちの言葉を聞けるのも、このドラマの魅力
第5話では、ある理由から財前が起業家たちのセミナーを訪れる。そこではメルカリの小泉文明氏(取締役社長兼COO)、メタップスの佐藤航陽氏(代表取締役社長)、SHOWROOMの前田裕二氏(代表取締役社長)が登壇し、パネルディスカッションを行う。麻野氏は、この三者を取り仕切る司会者役として出演する。
「今回の撮影は本当に面白かったんですよね。僕の出演シーンは一瞬だと思うんですが、撮影のときにこの4人で1時間、ガチのパネルディスカッションをしたんです。実際にお客さまも入れて。それがすごく盛り上がって、僕自身も勉強になりました」
俳優陣も、ベンチャー起業家たちの話を聞いてドラマに生かすため、そのパネルディスカッションをすべて見学したという。討論のテーマに掲げられたのは「これからの時代のキャリア」。しかし「なにせこのメンツですから、始まってすぐに『どうすれば世界を変えられるか』を話し合ってました(笑)」と、麻野氏は振り返る。
ドラマに出てくるベンチャー起業家たちは、本当に「世界を変えよう」としてきた人たち。そして、それぞれの分野で成功している。そんな人たちの言葉を聞く意味でも、「このドラマを見てほしい」と麻野氏は話す。
「日本は海外に比べて開業率が低く、就職の人気企業ランキングを見ても上位は歴史ある大手企業が多いですよね。でも、日本の経済成長や発展を考えると、もっと起業への野心を持つ人やベンチャーに憧れる人が出てきてほしい。このドラマは、投資の魅力はもちろん、ベンチャー企業や起業家の魅力も知れるので、その点でも楽しんでもらいたいですね」
ベンチャー投資で成功。見てきたのは経営者の「ビジョン」
そんな麻野氏も、組織や人事のコンサルティングを行う会社にいながら、ベンチャー企業向けの投資事業を立ち上げた。2013年のことだ。理由は「会社組織のモデルケースとなる企業を作りたかったから」であり、「そのためには“出資”という形で強固なパートナーシップを築き、より長期的にサポートする必要があった」という。
これまでに出資したベンチャーは22社。そのうち3社が上場した。それだけ投資先のビジネスが成功しているわけで、「投資だけのパフォーマンスを見ても、良い結果が出ている」と麻野氏は言う。一体、これまでどんなポイントを見て投資先を選んできたのだろう。
そんな質問をぶつけると、「ほとんどは経営者で判断する」という答えが返ってきた。麻野氏がまず見るのは、経営者がどんなビジョンを持っているかだ。
「新しいビジネスを作る際、今はサービス業などのソフトビジネスが多いですから、事業計画を立てたり資金を集めたりする前に、まず優秀な人を揃えることが大事。これが成功の鍵です。では、優秀な人を揃えるのに必要なものは何か。それは『この人のもとで働きたい』と思えるような、経営者の魅力的なビジョンだと思うんです」
魅力的なビジョンを詳しく分解すると、「空間」と「時間」の2軸があるという。描いているビジョンに対して「社会や人々のニーズが増えていて、しかも競合がアプローチできていない」という空間的な条件と、描くビジョンが「経営者や企業の過去・現在・未来という同一線上にある」という時間的な条件だ。この2つを満たすと魅力的なビジョンになるという。
だからこそ、経営者のビジョンを聞いて投資を“即決”することもあった。たとえば、ダイエットアプリなどのモバイルヘルスケアを開発するFiNC(フィンク)。代表取締役社長である溝口勇児氏と初めて食事をしたとき、わずか1時間ほどで「出資したい」と感じた。
「彼にはモバイルヘルスケアによって、健康寿命をのばして社会を豊かにしたいという明確なビジョンがありました。そして、それをインターネット領域でやっている企業は少なかった。これが空間的な条件を満たしていましたし、溝口さんはもともとスポーツトレーナーとしてキャリアを積んでいて、その人生とビジョンにつながりが見えました。時間的な魅力も感じたんです」
経営者のビジョンを一緒に応援する。その体験は、投資ならでは
ビジョンのほかに、「経営者を信頼できるかどうか」も大切だという。判断のポイントは「約束と実行」で、「言ったこと、約束したことをきちんと実行しているか。その繰り返しで経営者の信頼は大きくなる」という。
ビジョンと信頼。経営者が持つその2つを見て、これまで投資先を決めてきたのだ。
では、麻野氏にとって投資の楽しさはどこにあるのだろうか。もちろん、投資によって利益を得たり、チャートを分析したりすることもひとつかもしれない。しかし、麻野氏は別の要素を一番に挙げる。
「経営者の魅力あるビジョンを、出資という形でサポートして一緒に実現していく。それって本当に面白いことだと思うんです。いろんな会社と夢やビジョンを共有して、応援して、その一員として道のりを味わえる。その体験は、何物にも代えがたいのではないでしょうか」
自分が社員として働ける企業には限りがある。だが、「投資という関わり方なら、いろんな会社の一員として、ビジョンを追いかけられる」と麻野氏は話す。
「もし投資に興味を持ったら、各社の利益やチャートを分析するのも良いですが、経営者のビジョンや夢を知って、それを応援するのもすごく楽しいはず。ぜひそういう向き合い方をお勧めしたいですね」
取材・文/有井太郎
撮影/林 和也
株式やFX、不動産投資といった資産運用をコミカルに学べるドラマ作品。主人公の財前孝史を清水尋也が熱演。ヒロインの藤田美雪に早見あかり、不敵な投資部部長・神代圭介に柾木玲弥など、フレッシュな顔ぶれが揃った。そして作中には、今をときめく実在企業の社長たちもキャスティング。お金の見方が変わること間違いなしの、この夏の注目ドラマだ! テレビ東京ほか「ドラマ25」で7月13日からスタート。毎週金曜深夜0時52分~1時23分放送。初回は深夜0時57分から放送