IoT、ビッグデータ、SNSを使って安全に
企業の自動車事故を減らす「スマイリングロード」
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金融とテクノロジーを組み合わせたフィンテック。保険の分野でもその流れは顕著で、最近は自動車保険に最先端の技術を導入したサービスが生まれている。日本でその先駆けの1つとなったのは、IoTやビッグデータ解析など、現代のテクノロジーのキーワードとなる技術が詰め込まれた「スマイリングロード」だ。
2015年にリリースされたこのサービスは、企業向けのもの。「フリート契約」と呼ばれる、10台以上の自動車保険契約を結んでいる企業や個人事業主などが主な対象で、通信機能を持ったドライブレコーダーを車に搭載して社員のさまざまな走行データをリアルタイムで送信する。
そして、そのデータから各社員の安全運転度を診断したり、運転が荒い“要注意ドライバー”を表示したりする。これらを事故防止に役立てる仕組みだ。
ドライブレコーダーに通信機能を持たせたIoT技術と、運転のビッグデータ解析からなるこのサービスは、どう安全をもたらすのか。スマイリングロードを提供する、損保ジャパン日本興亜の荒井純一氏とSOMPOリスケアマネジメントの白井靖子氏に話を聞いた。
導入企業の事故件数が20%削減。安全につながる仕組みとは
スマイリングロードでは、ドライブレコーダーで収集するデータから、各ドライバーの安全運転診断を行う。「加速」「減速」「ハンドリング」といった項目それぞれの診断結果をチャートで表示したり、トータルの安全運転スコアを表示したりする。これらを各ドライバーや管理者がWEBやスマホで見られる仕組みだ。
加えて、急ブレーキや急ハンドルなどの危険な挙動を検知した場合は、管理者にアラート通知する機能もついている。
「車を頻繁に使う企業にとって、事故削減は重要な課題です。しかし、継続的に社員の安全意識を高めることは簡単ではありません。そこで、点数やアラート通知により運転を『見える化』し、ドライバーの安全意識や適切な指導に役立てられればと思いました」(荒井氏)
すでに全国で1000社以上が導入し、8割を超える企業で事故が減ったという。導入企業全体では、「導入初年度の事故件数が約20%削減した」と荒井氏は話す。
ここまで“安全”を実現する理由は「見える化」だけではない。点数をもとにした安全運転ランキングや、それまでの平均点から30点以上低下したドライバーを表示する機能などにより、管理者が指導すべきところがピンポイントでわかるのも大きいようだ。
自分から“安全”を心がける。そのカギはSNS
もうひとつ大きいのは、サービスで重視された「ほめる」仕組みだという。
「SNS機能がついており、ドライバー同士がタイムラインで他のドライバーの運転診断結果などに『いいね』を送ることができます。ドライバーには、運転診断の点数に応じて『マイル』と呼ばれるポイントが付与されるのですが、他の人に『いいね』をするだけでもマイルが貯まります。そのため、自然とドライバー同士がほめあう雰囲気ができていますね」(荒井氏)
そして、この「マイル」を使ってプレゼントに応募することが可能。また、全国の加入ドライバーの中で、安全運転スコアの上位10名には、ギフトを贈呈するなどの特典も設けているという。こういった“計らい”が、安全運転や人をほめるモチベーションとなる。
「これまでの安全指導は『怒る』ことが多かったかもしれません。それが『ほめる』になったことで、安全への取り組みが能動的かつ継続的になっていると感じます」(白井氏)
なお、このサービスは保険料を安くすることにもつながる。全車両で導入すると保険料が5%割引されることに加え、フリート契約は事故が少なければ割引率が上がるため、スマイリングロードで事故を削減すれば、同時に保険料が削減されるのだ。
IoT、ビッグデータ、そしてSNSを活用したサービスは、安全を生むだけでなく、企業の財政面にもメリットを生んでいる。
「そのほか、ドライブレコーダーから各車の現在地がGPSでわかるので、たとえば急に発生した業務をどの車が担当するか、適切に判断できるようですね。運転中は、ドライバーが電話やメールに対応できませんから」(荒井氏)
ちなみに、安全運転度のスコア化については、「人が乗っていたらヒヤッとする感覚をもとに、当社独自のアルゴリズムを使いながら点数化のロジックを作った」と白井氏。今後は、蓄積されたビッグデータを有効活用して、より安全につながる仕組みを作りたいと考えているようだ。
保険料だけでなく、テクノロジーを使ったサービスで安全を構築していく。スマイリングロードは、新たな保険のあり方を示すものといえる。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2018年8月現在の情報です