お金を語るのはカッコいい・『インベスターZ』でお金の価値観が変わった / 工藤 里紗
投資ドラマ『インベスターZ』プロデューサーが語る、人生とお金の話
提供元:FROGGY
- TAGS.
7月13日から放送を開始した話題のドラマ『インベスターZ』。FROGGYは、原作者の三田紀房さんや作中に登場するユーグレナの出雲充社長のインタビュー記事を掲載したり、マンガの主人公たちが投資用語を解説する「マンガ中1でもわかる投資用語!」を連載するなど、何かと『インベスターZ』とご縁があります。今回は、ドラマのプロデューサー・工藤里紗さんに、ドラマ制作の予算からご自身の価値観の変化まで、幅広くお金についてのお話をうかがいました。
実在の社長が、本人役で登場する異例のドラマ
——工藤さんと『インベスターZ』との出会いは?
2年前くらいに、夫に勧められて読みました。すごくおもしろくて、ぜひテレビ東京でドラマにしたい! と思いました。読んでいるうちに、マンガのコマの流れが頭のなかで動画として動き出したんです。
『インベスターZ』は、ストーリー漫画にはめずらしく、ユーグレナの出雲社長やZOZOの前澤友作社長など、実在の経営者がたくさん登場します。テレ東も「カンブリア宮殿」や「ガイアの夜明け」など、経営者が出演する番組が多い。そこに親和性を感じたんです。現実とフィクションが交差するような実験的な内容も、テレ東深夜のドラマに合っていると思いました。
——ドラマ版には、原作には出てこない経営者も登場しますね。
原作は2013年6月にスタートしたので、その頃とは経済状況も変わってきています。ビットコインなんて、その頃はみんな知らなかったでしょう。そのため、登場する経営者も今の経済状況に合わせて、アップデートさせています。
ユーグレナの出雲社長、メルカリの社長兼COO・小泉文明さん、研究者であり自分の会社も経営している落合陽一さん、メタップスの佐藤航陽社長、SHOWROOMの前田裕二社長と、話題の経営者が次々登場しますよ。
——工藤さんはプロデューサーで、ドラマ制作全体の予算管理をしていらっしゃる立場です。ドラマ制作ってどのくらい予算があるものなんですか? できる範囲でお答えいただければ……。
いえいえ、大丈夫ですよ。予算は、作品によって深夜帯に放送だと1話300万くらいから。他局でゴールデンタイムに放送する作品だと4000万くらいまで、幅があります。
実はもっと低い予算で撮ったことも。テレ東は、全体的に予算が少ないんですよ。他局の半分、ときには3分の1くらいの予算で制作することもあります。制作期間が長引けば長引くほど費用がかかるので、スケジュールをどう短縮するかという部分は工夫の見せ所です。
例えば、通常2、3ヵ月かけて撮るところを、1ヵ月で撮るとする。その場合は、ロケの移動や設営の時間を極力なくすために、いろいろな場面を一箇所のセットで撮ったり、登場人物の頭のなかで展開する“妄想”としてイメージ映像にしたりします。
——『インベスターZ』でも、投資についての説明部分などはイメージ映像が効果的に使われていますね。
原作でも、説明の描写としてローマ時代や江戸時代が出てきたり、悪魔のようなものが登場したり、ジェットコースターから急降下したりするんですよ。そのためドラマ版でも、スタッフ内では「〇〇劇場」と呼んでいるのですが、少し劇的な表現をしています。
場面の工夫でいうと、ドラマ「アラサーちゃん 無修正」のときは、オフィスビルのワンフロアを借りて、撮影に必要な部屋、ラブホテル、カフェなどのセットを全部そこに作りました。部屋のセットは、ベッドシーツとカーテンとテーブルを取り替えて、女の子の部屋から男の子の部屋に早替えしたり。
このような、どう作るとお金が節約できるかという小技にかけてはちょっとした自信があります(笑)。
でも、役者さんは作品における一番大事な要素なので、そこを節約しようとは思いません。理想でいったら誰がいいかをまず考え、キャスティングしていきます。
——今回、主役の財前孝史役に清水尋也さんをキャスティングしたのは、何が決め手だったのでしょうか。原作の財前は背が低かったので、185cm以上ある清水さんの起用は意外でした。
原作の財前は中学1年なので、背も低く、子供っぽさが残っています。ドラマでは高校1年という設定にしたので、もう少し成長したイメージで選びました。あんなに背が高く存在感のあるルーキーが入部したら、投資部におもしろい化学反応が起こりそうだと思ったんですよね。
また、財前は一見普通の子ですが、内には得体の知れないものを秘めている。それは、財前のルーツにも関わっています。清水さんはコメディタッチの中に、秘めた「只者じゃなさ」を出せる役者だと思ってオファーしました。
ベンチャー経営者は「お金第一」ではなかった
ーー『インベスターZ』は財前が投資部に入ってお金や社会について学び、成長していくストーリーです。工藤さんご自身は、『インベスターZ』のドラマ制作を通して、考え方が変わったところはありましたか?
働くことに対する価値観が変わりましたね。出演いただく社長さんの会社を、撮影前に下見したんです。そこで、けっこうなカルチャーショックを受けました。
勢いのあるベンチャーって、社員の年齢層やオフィスのレイアウトなども含め、社内の空気感が旧態依然とした大企業とはぜんぜん違う。性善説に基づいている、という感じがすごくしました。
——性善説、ですか。
例えばメルカリでは、ディスプレイケーブルなどがばーっと置いてあって、必要なら勝手に借りていいんです。申請とか手続きはいりません。他のベンチャーでも自販機の飲み物がタダだったりと、管理しないと社員がズルしたり、悪事を働いたりすると考えられていない。社員に対する信頼をベースに成り立っている経営なのだと思いました。
——ではいま工藤さんが学生だったら、ベンチャーに就職したいですか?
そうですね……もういっそ、就職しないのもありじゃないか、と思っています。特に映像制作の世界は、個人のチャンスがかなり広がっています。個人で本格的な映像が作れるし、それを発表するプラットフォームもYouTubeをはじめとして世界に開かれている。もう映像の監督やプロデューサーになるには、AD(アシスタントディレクター)から始めて下積み経験を積まなければいけない、という時代ではありません。
また、テレビ局にいるとその局のコンテンツしか作りませんが、これからはプロジェクト単位でいろいろなところの映画やドラマを作る、という働き方が主流になるかもしれませんね。
——お金についての考え方は変わりましたか?
ベンチャー経営者って、とにかく収益を上げることが第一、みたいかなと思っていたんです。でも実際にお話を聞いてみると、皆さん全然お金に執着していない。お金を稼ぐことを目標としてないんですよね。
「あなたにとってお金とは?」と質問しても、「コミュニケーションの手段かな」「なにかする時に必要な道具です」といった答えが返ってきました。
——昔は、「ヒルズ族」と呼ばれたりして、ベンチャー経営者といえばお金持ち、みたいなイメージが一部でありましたよね。
でも、違うんですね。その頃から本当の姿は違ったのかもしれませんが。
もちろん経営者ですから、皆さんお金の大切さは実感されています。でも、お金はあくまで手段や道具なんです。
皆さん口をそろえて、「お金のために働いている人は、逆にお金で失敗する」といったこともおっしゃっていましたね。入社や仕事の目的がお金だけになってしまうと、結局うまくいかなかったり、お金に裏切られてしまうんだそうです。
成功している経営者にとって、本当に大事にしているゴールはお金と別にあり、その旗を掲げるからこそ応援する人たちが集まる。そういうものなのだ、と知りました。
子育ては一種の投資だと気づいた
——ベンチャーについて知ったことで、ベンチャー投資を始めようと思われましたか?
『インベスターZ』にもありますが、ベンチャー投資って投資初心者には難しいですよね。だから、「ベンチャー投資で資産を増やす」という目的で始めることはないでしょう。
でも、気になるサービスや技術を開発している企業があって、その企業を応援してあげたい、と思った時に「株を買う」という選択肢はあるんだな、と思いました。
——ドラマ版の「インベスターZ」には、「ほとんど利子もつかないのに貯金して、自分のお金を引き出すのにATMで手数料取られて損してる。とんだドMだ」といったセリフが出てきます。工藤さんご自身は貯金と投資、どっち派ですか?
子供の頃は、まさに貯金“命”でしたね。父親の釣具を入れるプラスチックケースをもらい、そこにピシーっとお金を並べて、大事に保管していました。そのケースの隙間が埋まっていくのが楽しみだったんです。
社会人になってからも、趣味は通帳記入。ボーナスもほとんど貯金して、通帳の数字が増えていくのを眺めてニヤニヤしていました。投資部メンバーに呆れられる、典型的な日本人です(笑)。でも、子供を産んでから変わりました。
——それは、子供関連でどうしても出費があるから?
それもあるんですけど、子育ては一種の投資だと気づいたんです。
教育や習い事、旅行、遊び、下町の飲食店でワイワイ楽しむことも、ちょっといいお店で気張って食事をすることなどもすべて、子供の未来への投資ですよね。この子がこれからの日本、そして世界を担っていくときに、どんな経験をしていたらより豊かに生きられるのか。そういう風に考えて、お金を積極的に使うようになりました。
——お金は、使うことで豊かさを生むんですね。
お金って生活に密着している存在ですよね。一見、株とかFXというと数字ばかりの無機質な世界かと思えますが、本当はすごく生々しいもの。だからこそ、『インベスターZ』は人間ドラマになっているわけです。
私は関西出身で、お店で値切ったり、お金の話をしたりするのは当たり前の文化で育ったんですけど、東京に来たらぜんぜんそういう話がされていなくて。みんな、もっと身近な人とお金の話をしたらいいのにな、と思います。『インベスターZ』がそのきっかけになってくれたら、うれしいですね。
(提供元:FROGGY)
【著者プロフィール】テレビ東京プロデューサー。「マツコ、昨日死んだってよ。」「アラサーちゃん 無修正」「極嬢ヂカラ」「老い愛で子さんのご自愛ください。」「大竹まことの金曜オトナイト(BSジャパン)」など、時代に斬り込む演出作品が多い。「ナイトヒーローNAOTO」、映画「ぼくが命をいただいた3日間」監督。「昼めし旅」「ソレダメ!」プロデュース他。ドラマ25「インベスターZ」でもプロデューサーを務める。