一歩先を行くアメリカ
老いる世界、そのときアメリカは
提供元:岡三証券
日本でたびたび話題となる少子高齢化問題。ただ高齢化は、日本だけを取り巻く話ではない。国連が高齢化を「21世紀における大きな社会変革」としたように、医療技術の発展や経済水準の向上を背景に、昨今、世界では急速に高齢化・長寿化が進んでいる。2015年時点で8.3%だった高齢者(65歳以上)の割合は、2060年には約18.1%まで上昇する見通し。高齢化が進行してきた先進国はもとより、新興国においても高齢化が急速に進展することが見込まれており、高齢化は世界が直面する問題の1つといえよう。
世界一の大国といわれる米国にも高齢化の波は押し寄せている。国勢調査局によると、米国では2035年までに65歳以上の年齢層が初めて未成年者(18歳未満)を上回る見通しとなった。背景としては、第二次世界大戦後(1946年から1964年)に生まれた「ベビーブーマー世代」がシニア世代を迎えたほか、直近の出生数が伸び悩んでいることが挙げられよう。現在、「ベビーブーマー世代」は1日当たり1万人のペースで65歳の誕生日を迎えており、2050年には米国の高齢者数が日本の高齢者数の2倍以上になると予想されている。
もっとも、高齢者が急速に増加する傍ら、米国の総人口に占める高齢者の割合は2015年時点で14.8%と、他の先進国と比べ低い水準に留まっている。その背景には移民の存在が挙げられよう。米国は「人種のるつぼ」とも言われる多民族国家で、毎年多数の移民が流入している。2015年時点では米国の人口のうち、約14%を移民が占めており、住宅や衣料、食料などあらゆる分野で新たな需要を生み出している。「アメリカンドリーム」や、「豊かな生活」、「高い教育レベル」を求めて移住する人も多く、米国の人口構成比は先進国の中でも相対的に若い。結果、15~64歳の労働力の中核をなす年齢の人口層(=労働生産年齢人口)が増え続けており、経済のパイが着実に拡大している点が日本や欧州とは異なっている。
一部では、トランプ米大統領による移民規制政策が警戒されているものの、長期的な移民流入トレンドが変わらない限り、高齢化が進む中でも、人口の増加で労働市場の活力が保たれる米国では、経済の拡大が続きそうだ。
また、米国では遺伝子解析を活用した予防医学や、SNSやスマートフォンなどを活用したデジタルヘルス、高齢者向け商品、高齢者への労働トレーニングなど、高齢化の進行をチャンスとした新たなビジネストレンドが生まれ始めている。2018年の予算教書では、メディケア(高齢者向け公的医療保険)とメディケイド(低所得層向けの医療保険)の効率化が提案されるなど、高齢化社会に向けた政府側の取り組みも本格化し始めた。多くの先進国が高齢化社会への対応策に翻弄される中、人口増加による経済拡大トレンドに加え、官民共同で高齢化社会の「向こう側」を見据える米国に対する評価は一段と高まろう。
(岡三証券株式会社 投資戦略部 グローバル株式戦略グループ 大下 莉奈)
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