投資のがっこう(5)
「お宝株」は本当に存在するのか~探索力の鍛錬
提供元:日本経済新聞社
問題です。
「いきなり!ステーキ」4900万円、「ZOZOTOWN」3500万円――。なんの数字でしょうか?
もちろんディナーや衣料品の値段ではありませんよ。社長の報酬でもないし、従業員1人あたりの売上高でもありません。
じつはこれ、低価格ステーキ店を展開するペッパーフードサービス社と、通販サイトZOZOTOWNを運営するZOZO社(旧スタートトゥデイ社)の株式を100万円分購入し、10年間保有したと仮定した場合のいまの資産価値なのです。
ちょっと驚きましたか?連載の最後は「お宝株」って本当に存在するのか、そんな銘柄を発掘するためにどのようなリテラシーを身につければいいのかを学びましょう。
株式資産が10年で10倍に
そもそも、お宝株とはなんでしょうか?
じつは定義などありません。しかし、類似の投資用語はあります。
「テンバガー」――株価や時価総額が一定期間で10倍になった銘柄群です。個人投資家の目線でより正しく言うと、トータル金融資産が10倍になった銘柄です。
配当や株式分割など様々な資本イベントを加味して結局、個人の手持ちの株式価値が累計で10倍以上になったか、を表す配当込み投資リターンです。
仮に100万円でA株を買って10年間で累計20万円の配当をもらい、値上がり率が50%だとすれば、投資リターンはざっくり70%になります。
この配当込みリターンが10年間で900%(1000万円)以上になった銘柄が資産10倍株、つまり通称「資産テンバガー株」になるわけです。
1000万円という金額は大きいですね。退職一時金などに相当する額かもしれません。老後の住居や過去のローン返済原資、ワンランク上の年金生活などあらゆる場面で応用が利く金額です。
このような「お宝株」を1社でも保有していれば人生100年の金融設計は劇的に変わります。
さて、ここで疑問が出てきます。
「お宝株とは文字通りお宝でしょ、砂漠で針を探すような途方もない作業ではないか」と。
資産「テンバガー」は宝くじの数千倍の高確率?
日本経済新聞社のオンライン株式投資情報サービス「日経会社情報PREMIUM」で検索すると、「資産テンバガー」は2018年9月末で驚くなかれ94銘柄見つかりました。
10年以上上場している企業は3000社あまりなので全体に占める実質的割合は3%です。
仮に100万円の軍資金で100円の宝くじをしこたま買いこんで1000万円の賞金を1回で当てるという確率を無理くり求めてみるとおおむね0.001%以下(宝くじサイトなどで概算推計、回収率とは異なる)でした。
これと比べると3000倍以上の高確率です。見つけようとする気がでてきましたか?
ちなみに上記グラフには日経平均株価も記入しておきました。日経平均株価に連動する上場投資信託(ETF)などを買うという前提ですが、これだと約3倍、100万円が300万円になる計算です。
預貯金では1000円増えるのがやっとなので、素晴らしいパフォーマンスなのですが、資産テンバガー株と比べるとかすんでみえますね。
資産テンバガーのような銘柄をGETできるかどうかはともかく、4倍や5倍程度のミニお宝株ならもっとザラに存在します。
みなさんがリテラシーを高め、発掘対象のハードルを引き下げることで優良株や有望銘柄との出会いのチャンスは一気に広がるのです。
で、近道は一定の条件で銘柄を絞り込むスクリーニングが挙げられるでしょう。業績指標や財務内容などを前提にし、条件を満たさない銘柄をふるい落とす作業です。
ではどんなアプローチがあるのか。
まずは「市場」です。
どこの国でビジネスをするのか、という話です。残念ながら「縮むニッポン」では成長が難しいからです。
そこで、ニッポンを代表するような企業や世界で稼ぐ企業にスポットライトを当ててみましょう。世界にブランドを築き、世界の成長を取り込める収益インフラを備えています。
当面日本の経済成長は年率1%前後といわれている一方、中国は減速懸念があるとはいえ5%以上が続くでしょうし、米国も当初の2%台から上方修正の観測すらでています(だから9月以降長期金利が上がっているわけですが)。
もちろん、世界の需要を日本に引っ張り込む「インバウンド」企業も有力です。
世界、安定性、ビジネスモデル--がカギ
次に「安定経営」がキーワードです。
ROEや配当が高い水準を保っている企業です。たまたま1期だけよかったのではなく、景気変動や環境変化に動じず何年間も一定水準以上の収益力や株主還元力を保てるのであれば、中長期で資金を託すにふさわしい条件とみなせます。
最後は「ビジネスモデル」。
過去の資産テンバガーがこれから先も10倍になっていくとは思えません。10年先にどのような姿を描くのか、いま芽吹いているような企業を投資家自身の目で見つめ、吟味することが大切です。
先に掲げたランキングでみると、上位にはインターネット上などで固有のビジネスモデルを展開している企業が目立ちます。
いまの業績や財務だけではなく、経営計画や企業トップのビジョン・実行力などが重要な示唆を与えてくれるでしょう。
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次回の掲載は未定ですが、こんなテーマを読みたい、今さら聞けない質問、ここが知りたい、などご意見ご質問をお寄せいただければ幸いです。
(日経会社情報PREMIUMコンテンツプロデューサー 田中彰一)