不安定化する世界経済
当面はインフレ、人民元の動向などに警戒か?
提供元:アイザワ証券
2018年10月9日に、IMFが最新の世界経済見通しを発表した。この見通しは、3か月に1度、IMFが、世界の国、地域別の当面の成長率見通しを発表しているものだ。
今回発表されているのは、2018年と2019年のGDP成長率見通しだが、米中貿易摩擦の影響の拡がり、中国の景気低迷などによって、多くの国、地域において、前回7月の見通しから下方修正されている。
IMFは、これまで比較的楽観的な相場見通しを示すケースが多かったが、今回の予想をみる限り、IMFは世界経済の先行きをかなり不安視している、とみてよいだろう。
IMFの見方が100%正しいというわけではないが、世界的に経済が不安定化していることは明白だ。そのようななかで、当面の世界経済、株式市場における注目ポイントなどについて確認しておきたい。
まず、米中貿易戦争だが、世界経済にマイナス影響を与えている最大要因のひとつだ。
特に中国は多大な影響を受けているが、同年10月12日に発表されている9月の中国の貿易関連統計をみると、輸出が前年同月比14.5%増、輸入は同14.3%増と良好な状況を保っている。
これだけをみると、あまり影響を受けていないようにみえるが、今回は、関税発動前の駆け込み輸出入があった可能性があり、あまり手放しで評価できる状況ではないといってよいだろう。
ただ、その一方で明確に影響が出てきているのが物価動向だ。これまで中国の物価は低位安定していたが、同年10月16日に発表された9月の消費者物価指数は、前年同月比+2.5%と、4か月連続で加速している。
このたびの関税措置の対象には、大豆やトウモロコシなど飼料用穀物が多く含まれているため、これらの価格上昇によって、畜産価格の上昇、物価押し上げにつながっている。
まだ、危機的な状況というほどのレベルではないものの、明らかに中国の物価に影響を与えているといえよう。
加えて、物価に影響を与えているのが人民元の下落だ。今年は世界的には新興国通貨の下落が目立っているが、そのひとつが、人民元だ。
中国は、ほかの売られている新興国とは異なって、経常黒字国だが、中国の景気の先行きに対する懸念、貿易戦争長期化に対する警戒感などによって、人民元安となっている。
実際、2018年初から9月末までの人民元の騰落率は、対米ドルで5.6%下落となっている。人民元安による輸入物価の上昇につながっている。
直近2018年10月17日に米国が為替報告書を発表したが、そのなかで、中国人民元の為替操作国認定が見送られた。しかし、その後も人民元は低迷が続いている。
今後、中国の先行きに対する弱気見通しが劇的に変化するとは考えにくく、当面、通貨安トレンドが物価押し上げ要因になる、という流れが続くと予想される。
米中の貿易戦争に関しては、米国が仕掛けて、中国がそれに対して報復関税を発表する、という応酬が続いていたが、直近は、中国が独自の対抗措置を打ち出すケースが目立っている。
中国当局は、7月以降、自動車や衣料品、家電など1585品目に対する輸入関税を引き下げたほか、大型減税、預金準備率引き下げなどの政策を実施している。明らかに、自国民へ配慮する姿勢をみせているといえよう。
今後も、中国は新たな措置で米国の関税発動に対抗する、という流れが続きそうだ。
なお、同年11月6日には米国の中間選挙実施が予定されている。今のところ、上院では共和党が過半数を獲得できるものの、下院では民主党が優位、という見方が一般的だ。
貿易交渉の実施の有無に関してはまだ流動的だが、いずれにしても、状況が大きく変わる局面は近づいている。
引き続き、米中の今後の政策、交渉の行方などに注目したい。
(提供元:アイザワ証券)