中国訪問:改革の進展と痛みからの脱却に期待続く

提供元:日興アセットマネジメント

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<ここがポイント!>

■ 「量から質へ」、デレバレッジ政策と景気下支え政策
■ 過去に戻らない、古い産業から新しい産業に資金を振り向ける
■ 貿易摩擦の功罪

 

「量から質へ」、デレバレッジ政策と景気下支え政策

2019年1月8~12日に中国の北京・深圳市を訪れ、金融機関や自動車メーカー、インターネット企業などに加え、中国経済・市場の専門家や学者から、中国の経済改革および成長戦略などについて幅広くヒアリングする機会を得た。

中国・深圳にて(2019年1月)03

2018年の中国は、「デレバレッジ(負債減らし)」政策に揺れた。

政策の趣旨は、経済成長の中身を「量から質」に変化させることを重視することにあり、方向性は正しい。別の観点で見ると、古い産業から新しい産業への構造転換でもある。

例えば、鉄鋼やアルミニウムなど従来型の素材産業への融資を増やさない、あるいは非効率な産業や企業への融資を減らし、経済成長をけん引する付加価値の高い産業への融資を積極的に行うことが、デレバレッジの考え方だ。

一方で、この転換が行き過ぎて景気を悪化させるのではないか、との懸念も高まっていたが、18年秋以降、人民銀行が銀行の預金準備率を引き下げたり、政府が積極的な財政政策や大規模な減税を実施するなど、景気下支えに軸足を置く姿勢を鮮明にしている。それゆえ、19年の経済成長をあまり懸念しすぎる必要はなさそうだと感じた。

過去に戻らない、古い産業から新しい産業に資金を振り向ける

では、財政政策が拡張的になり、低金利が維持されるのであれば、以前と変わらず非効率な産業が勢いを増してしまうのだろうか・・。

いや、そのようにはならないだろう。そもそも、習近平政権が地方の腐敗防止を掲げた背景は、地方政府が中国全体の発展を考えず、目先の手をつけやすい政策(例えば鉄を作る、入居が見込めない住宅を作るなど)に走ったことにある。

地方の身勝手の芽を摘んだ今となっては、過去に戻ることは考えにくく、古い産業から新しい産業に資金を振り向けることが明確になると感じた。景気刺激を目的とした政策は、無秩序に拡大してしまった鉄鋼などの生産力の再拡大には向かわないだろう。

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中国の実質GDP成長率の項目別寄与度(以下、寄与度)をみると、2018年に投資は総じて低下したことが分かる。民間企業の投資が増えたとはいえ、国営企業が重要な役割を占める中国では、投資の低迷は政府の意思だと考えられる。

これが「デレバレッジ」の成果だ。経済成長を犠牲にしてでも、無用な投資を抑え、新しい産業への投資に集中してきたといえる。

しかし問題は、新しい産業への資金の振り向けが必ずしも効率的ではないようにみえる部分があったことだ。経営が順調な国営企業を強化した結果、民間企業が出る幕を減らされてしまう、といった懸念の高まりが株価低迷に影響しているのだろう。

貿易摩擦の功罪

引き続き、米中貿易摩擦の影響は懸念される。2018年通年の中国のGDP成長率への輸出寄与度はマイナスとなり、いかにも貿易摩擦の影響があったようにみえる。

しかし、訪問先の民間エコノミストは、明確に「マイナス寄与のごく一部は貿易摩擦(追加関税)の影響を受けているが、多くは輸出サイクルが低下したことにある」と説明してくれた。

本来であれば、関税引き上げ前の駆け込み需要があったはずだが、事実、輸出のマイナス寄与は第1四半期から続いており、輸出サイクルが低下したとみてよさそうだ。

もちろん、輸出の低迷が関税引き上げの影響をまったく受けていないとまではいわないが、それほど重大と考えるほどではない。デレバレッジ政策による投資の削減を、他の要因でカバーできなかったとみる。

さらに、自動車購入時の優遇税制の廃止などで、いわば消費も抑えられたといえそうだ。株価の値動きをみても、この時期の低迷はデレバレッジへの懸念の高まりで説明できそうだ。一言で言えば、貿易摩擦の罪は、中国のGDP成長率における輸出の貢献を低下させてしまったが、少々大げさに扱われすぎている。

一方、貿易摩擦の良い点について、中国の学者が指摘したことは、中国の改革を後押ししてくれることだった。米国の主張は、不十分な知的財産権保護、国営企業優遇、補助金供与、といった不公正の是正にある。実は、この不公正が是正されることは、中国も期待していることでもある。

中国の専門家らも、いつまでも補助金や非効率な国営企業優遇が続くとは考えていないし、そのように政府へも伝えているようだ。産業の高度化が進めば、自国の知的財産権を保護する必要もあるだろう。

つまり、中国も米国も、本質的には同じ目的を持っているのだ。米中貿易摩擦は、そのタイミングのずれ(中国は簡単に産業の高度化を進めることはできないし、米国はそのようなことはお構いなしに不公正を減らしたい)から発生している。

中国にとっては、米国の圧力を国内でやるべきことをやるための口実に使うことができそうだ。そのような意味で、貿易摩擦は中国の長期的な発展にとって良い効果をもたらすと期待できる。

2019年は米国が貿易摩擦問題について妥協点を探りながら、中国との交渉を継続するだろうが、本質的な解決は難しい。しかし、米国と目的が同じ中国は、 “大人の対応”を続けていくことになるだろう。

(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)

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