相続法大改正!今話題の「配偶者居住権」ってナニ?妻と子に溝も

提供元:楽天証券(トウシル)

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※この記事は2018年10月29日にトウシルサイトで公開されたものです。

今年夏に法案が通った民法の相続関連大改正。中でも注目が集まっているのが「配偶者居住権」。配偶者の権利強化につながるものですが、よく理解しておかないと相続のときにトラブルの原因となるかも知れません。

「配偶者居住権」って一体どんなもの?

民法の一部を改正する法律が2018年7月6日に成立、7月13日に公布されました。相続法の分野については、1980年以来約40年ぶりの大きな改正であり、残された配偶者(例えば夫が亡くなった場合の妻)の権利を保護することが大きな目的の一つとなっています。

改正の目玉の一つが、「配偶者居住権」の新設です。簡単に言えば、相続により残された配偶者が、自ら住んでいた家に引き続き住むことができる権利のことです。この配偶者居住権は、登記をすれば第三者に対抗もできる、かなり強い権利となっています。2020年7月12日までに適用が開始されます(開始時期はまだ未定です)。

配偶者居住権には、正確には短期居住権と長期居住権の二種類がありますが、一般に「配偶者居住権」といえば、長期居住権のことを指します。本コラムでも、長期居住権を前提に話を進めていきます。

なぜ「配偶者居住権」を認める必要があるのか?

なぜ残された配偶者にこの「配偶者居住権」を認める必要があるのでしょうか?

それは、相続が起きたことをきっかけとして、配偶者が住んでいた家を売却する必要が生じたり、家に住み続けることはできるが現預金の相続ができず、老後の生活費を確保できない、というケースが生じることが多いからです。

例えば相続財産の多くが自宅の土地、建物であり、現預金や株などの金融資産が少ない場合は、次のような二つのケースに当てはまることが多くなります。

ケース1
相続人:妻と子A、子B
相続財産:自宅土地・建物5,000万円、金融資産1,000万円
妻は今まで通り自宅に住み続けたい、一方子A、子Bは自分の家を既に持っているので自宅ではなくお金が欲しい。

法定相続分どおり妻2分の1、子A・子Bがそれぞれ4分の1ずつ相続すると、子Aや子Bが法定相続分に見合った金融資産(子A、Bの2人で3,000万円)を相続するためには自宅を売却して換金する必要があります。そのため、妻は今まで住んでいた家から出なければなりません。

ケース2
相続人:妻と子A、子B
相続財産:自宅土地・建物3,000万円、金融資産3,000万円

この場合、妻が自宅3,000万円、子Aおよび子Bがそれぞれ金融資産1,500万円ずつを相続すれば、妻が自宅にそのまま住み続けられます。しかし、妻は金融資産を全く相続できないので、今後の生活費が不足してしまうという心配があります。

配偶者が高齢の場合、それまで住んでいた家を引っ越さざるを得ないというのは非常に負担となります。また、例えば夫が亡くなった場合、残された妻にとってはその後の生活費を確保できないのはとても不安なことです。

自宅を配偶者居住権と所有権に分解することで問題解決が可能に

そこで、ケース1、2の事例で、配偶者居住権を活用すると次のような解決策が可能です。なお、ケース1、2とも、自宅土地建物の配偶者居住権は、評価額全体の50%とします。

ケース1
妻の相続財産:自宅土地建物の配偶者居住権2,500万円、金融資産500万円
子Aの相続財産:自宅土地建物の配偶者居住負担付所有権1,250万円、金融資産250万円
子Bの相続財産:自宅土地建物の配偶者居住負担付所有権1,250万円、金融資産250万円

ケース2
妻の相続財産:自宅土地建物の配偶者居住権1,500万円、金融資産1,500万円
子Aの相続財産:自宅土地建物の配偶者居住負担付所有権750万円、金融資産750万円
子Bの相続財産:自宅土地建物の配偶者居住負担付所有権750万円、金融資産750万円

自宅の土地建物を配偶者居住権と配偶者居住負担付所有権に分解することで、ケース1では自宅を売却することなく相続財産を分けることができ、妻が自宅に住み続けることができます。

ケース2では、妻が自宅に住み続けることができ、かつ生活費として十分な金融資産を受け取ることができます。

配偶者居住権のついた所有権は実質的に無価値?

ただ、ケース1、ケース2とも、妻にとっては良い結果となりますが、子Aや子Bにとってはどうでしょうか。配偶者居住権のついた不動産を、他の第三者が購入するとは思えません。妻が亡くなれば売却等は可能ですが、それまでは実質的には無価値と言っても過言ではありません。

さらに、配偶者居住負担付の所有権は、相続税の課税対象となります。お金が入ってこない財産を相続し、相続税は支払わなければならないわけですから、子がケース1やケース2のような遺産分割に納得しないことも十分考えられます。

配偶者居住権は、遺言にて配偶者に遺贈する、もしくは遺産分割で相続人全員の同意を得るなど限られた要件を満たさなければ設定することができません。

当面の間売却による換金ができず、それでいて相続税がかかるものを、果たして子が素直に受け取ってくれるしょうか?そうではなく、自宅の売却をして換金したり、妻に自宅を全て相続させるかわりに金融資産は子に相続させるようにと主張する可能性が高いのではないのでしょうか?

さらには、妻の年齢が若ければ、配偶者居住権が自宅価額のうちかなりの割合を占める(70%~80%など)ことも想定されます。配偶者居住権を所有権から分離すること自体にあまり意味がなくなります。

トラブルを起こさないためには生前にしっかりと準備を

おそらく、遺産分割がまとまらなければ家庭裁判所が妻に対し配偶者居住権を認めることも少なくないでしょう。それにより妻の住む場所の確保はできますが、配偶者居住負担付の所有権ではなく金融資産が欲しかった子との間に溝が生じてしまう恐れは否定できません。

それまで仲の良かった家族が、相続をきっかけとして口も聞かなくなるのでは、あまりにも寂しすぎます。配偶者居住権が創設されたからといって、相続をめぐるトラブルが完全に回避されるとは思わない方がよいでしょう。

金融資産が妻、子双方に十分にわたるよう、生前に生命保険に加入して原資を確保する、妻の老後の生活を保障するために、子は法定相続分より少ない相続財産となることを夫の生前からよく説明して納得してもらう……。

結局は、配偶者居住権があってもなくても、スムーズな遺産相続が行われるよう、生前の対策が重要であることに変わりありません。専門家のアドバイスをもらいながら、幸せな家族関係を継続できるようにしてください。

 

※この記事は2018年10月29日にトウシルサイトで公開されたものです。

 

(足立公認会計士事務所代表 公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー 足立 武志)

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