フィンテックの最前線を追う!

「現場の悩み」を解決する多数のアイデア

相続×フィンテックを実現した「レタプラ」

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世の中には、いつか自分が当事者となり乗り越えなければならない法制度がある。たとえば「相続」もそのひとつ。できれば早いうちから理解しておこう……と思うものの、何せ複雑でわかりにくい。大抵は、まだ“一般論”を学ぶ基礎のところで自分ゴトにできず離脱してしまう。

そんな問題を解決すべく、相続のフィンテックサービスが登場している。相続・贈与のプラットフォーム「レタプラ」だ。

「相続を考えるタイミングの多くは、家族が高齢になったり、体調不良や認知症という問題を抱えたり、対策が困難になってから。それでは遅いため、時に相続は家族が揉める『争族』になってしまいます。レタプラは、なるべく早くから相続を自分ゴトで考え、家族で話し合うためのサービスです」

そう話すのは、レタプラを開発したFP-MYSの工藤崇氏。もともとファイナンシャルプランナー(FP)として活動していた工藤氏は、現場を知るからこそのアイデアをこのサービスに注ぎ込んだという。その詳細を追っていこう。

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概算を出して専門家とチャット。相続を「自分ゴト」にする仕組み

レタプラでは、スマホで簡単に相続税を計算できる。まずは現金や土地・建物、生命保険など、相続税の対象となる資産について、各項目の金額を埋めていく。次に行うのが家族構成の登録。相続税では家族構成が重要で、それにより控除額が変わる。ただし、そういった知識は必要なく、レタプラでは家系図の画面を開き、自分の家族構成をタップするだけで完了する。

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この作業をするまでに、ほぼ1分もかからないだろう。実は、これだけで相続税の概算が出てくるのだ。

「ただし、これはレタプラの“入り口”に過ぎません。重要なのは、この結果を税理士などの専門家と共有し、レタプラ内でチャットを行えることです。あくまで“概算”なので、専門家が細かな詳細を聞いてブラッシュアップ。そしてアドバイスを行います。こうして、相続を自分ゴトとして捉え、早めに考えるのが本当の狙いです」

この構造こそがレタプラ最大のポイント。相続税などの複雑なシステムは「一般論から個々の状況に応じた個別具体論に移行しようとしても、自分ゴトにならず離脱する」と工藤氏。それがいきなり個別の話からスタートし、専門家が1人1人に合わせて話していけばもっと早くから真剣に考え始める。「そういうシーンを作りたかった」と続ける。

「空き家」をはじめ、さまざまな社会課題の解決を

ちなみに、相続に悩む人がレタプラを使いたいとネットを検索しても、すぐにサービスを使えるわけではない。レタプラは、税理士などの専門家が2000円でライセンスを買い取り、彼らのもとを訪れた相談者に紹介して初めて使える。BtoBtoCのモデルだ。先ほど「チャットでつながる」と言った専門家が、レタプラの紹介者となる。

「相続に関する情報はデリケートなもので、知らない専門家にいきなり共有されるのはリスクもあります。レタプラは関係のある専門家とつながるので安心ではないでしょうか。また、専門家としても、資産や家族構成を聞き出す作業は重要でありながら大変なもの。そこをサポートするシステムでもあります」

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チャットには3人まで専門家が入れる形で、たとえば税理士の専門ではない問題が出てきたときに、信頼できる弁護士を入れるといったことができる。あるいは、他の立場の専門家を入れて、セカンドオピニオン的にアドバイスをもらうことも可能だ。

「また相談者は、レタプラの概算結果などを家族とLINEで共有できます。相続はその世代だけでなく、“二次相続”をはじめ次の世代にも関わるので、長期的な視点が必要。子や孫の世代まで問題を共有することが、専門家にとっても相談者にとっても重要です」

さらに、レタプラには音声のレコーディング機能もある。これは遺言づくりにもつながるもので、「公的な遺言を書こうとしても面倒で進みません。そこで、いったん音声で『明日もし自分が亡くなったらどうするか』などを自由に話していただきます」と工藤氏。それを専門家が聞いて、アドバイスしていく。

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現場の悩みや課題に即したサービスと言えそうだが、それを可能にしたのが工藤氏のキャリアだ。FPとして活動しながら、あるときフィンテックのハッカソン(※事業やサービスの技術・アイデアを競うイベント)に参加。それを契機に相続のフィンテックに目をつけた。FPとして実情を知る中で「現場の悩みをテクノロジーで補完する。それができると思いました」と言う。

「今は全国で空き家が増えていますが、これも相続や家族の将来を話す機会が遅れたために対策できなかったケースが多々あります。しかも今は、家族が離れて暮らしていることも少なくありませんから、顔を合わせて話すのは困難。だからこそ、チャットなどを使って家族が相談できる状況を作りたいんですね。それはさまざまな社会課題の解決にもつながると思っています」

なるべく早いうちから、相続を考える。それにより、家族の争いを未然に防ぐ。レタプラには、現場を知るからこその視点と工夫が詰まっている。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2019年3月現在の情報です

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