世界共通語「ESG/SDGs」

今年も東証IRフェスタが開催!

大盛況の特別企画「ESG投資の今」講演をレポート

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2月22日・23日の2日間にわたり、東京国際フォーラムで「東証IRフェスタ2019」が開催された。個人投資家と上場企業が直接コミュニケーションできる貴重な機会とあって、毎年たくさんの人で賑わいをみせるイベントだ。

フェスタでは、出展ブースにおける経営トップやIR担当役員などによる会社説明会が実施されたほか、金融や経済のトレンドに精通した専門家による講演会も行われた。なかでも、キャンセル待ちが出るほど盛況だったのが、日本取引所グループとロンドン証券取引所グループの特別企画「ESG投資の今」と題した基調講演とパネルディスカッション。

ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの。この3要素は、企業の長期的な成長のために必要な観点として、企業価値の分析指標で用いられている。2017年6月には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESGに着目した投資を始めたことでも話題となった。

この記事では、個人投資家の投資判断材料としても、ますます熱視線が注がれているESGをテーマにした基調講演とパネルディスカッションのハイライトをお届けしたい。

ESG投資はサスティナブルな地球環境にリンクしている――基調講演

基調講演には、ロンドンに拠点を置き、株価指数の算出をはじめとする投資情報を提供する大手プロバイダーでロンドン証券取引所グループ会社である「FTSE Russell」のアジア・パシフィックESGヘッドを務める、岸上有沙氏が登壇。「ESG投資の世界的な潮流」というテーマで、ESGの現状を考察した。

FTSE Russell アジア・パシフィックESG ヘッド 岸上有沙氏

「世界の年金基金をはじめとする機関投資家の多くは、『環境・社会・ガバナンスの情報を重要な投資判断とする』と明確に宣言しています。日本でも、私たちの年金の積立を管理しているGPIFなどがESGを考慮したアセット・オーナー17機関に含まれております。つまり、年金に加入している我々も、間接的にESG を考慮した将来の資産形成を行っているということです」(岸上氏)

岸上氏によると、各国の機関投資家は、ESGのなかでもとりわけ「E」に該当する気候変動を気にする向きがあるという。

「資産運用を行ったとしても、私たちの住む社会環境自体が悪化しては本末転倒です。そのため、長期の資産運用においては、その資産の安定性のみならず、地球環境の安定性を同時に配慮した運用を求めたいということで、ESG投資への関心が高まっていると考えられます。よって、ESG投資では化石燃料などCO2排出量が高い企業への投資ウエイトの減少、逆向きの企業はウエイトが増加する、というかたちで投資を通して気候変動への配慮を行えるようになっています」(岸上氏)

業績などの財務情報からは見えない企業経営の持続可能性を、非財務情報であるESGで捉えようとする動きは、日本でも広がり続けている。岸上氏は具体的な事例として、GPIFも選定している「FTSE Blossom Japan Index」というESG指数を挙げる。

「ESGの観点で取り組んでいる優良企業約150銘柄で構成されているインデックスです。『ESG投資は株価リターンへの影響が悪化するのではないか』という懸念を耳にすることもありますが、リターンの著しい劣化は見受けられず、優良企業の割合がより高まっているという付加価値が見てとれます」(岸上氏)

ESGの調査や情報収集、実際の投資判断などの歴史はまだまだ浅いが、世界全体のESG投資額は2,500兆円を超える(GSIA隔年調査2016年末データより)。これからは、業績に加え、ESGへの取り組みにどれだけコミットできているかが、企業価値を見極める判断材料になることは間違いなさそうだ。

ESG投資の手法そして今後の展望――パネルディスカッション

基調講演に続き、岸上氏がモデレーターとなり、「個人の資産形成とESG投資」をテーマに有識者のパネルディスカッションが行われた。パネリストは、大和証券投資信託委託株式会社の佐口文章氏、マネックス証券株式会社の大槻奈那氏、ファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏、東京証券取引所の三木誠氏の4名。それぞれの知見から、ESG投資の今と今後の見通しが語られた。

左から岸上氏、深野氏、佐口氏、大槻氏、三木氏
左から岸上氏、深野氏、佐口氏、大槻氏、三木氏

まず、ESG投資の手法について、大和証券投資信託委託株式会社の佐口氏は、次のように説明する。

「非常に簡単なやり方としましては、ESGの観点から問題のある企業を投資対象から外す運用方法です。弊社の例ですと、ファンドマネージャーが銘柄を選ぶアクティブ運用につきましては、クラスター爆弾の製造に関わる企業の投資を一切見送っております。逆に、ESGの観点から優れている事業企業を投資対象にする運用手法もあります。そうした観点で組入銘柄を選定しているESG関連のETFが東証に上場していますが、個人投資家の皆様にとっては手軽なESG投資の手法だと思います」(佐口氏)

また、ESGと一括りにするのではなく、テーマごとに設定された投資信託も登場しているそう。

「女性の活躍により成長が期待される企業に着目した女性活躍応援ファンド(愛称:椿)など、テーマに特化したアクティブファンドも運用しております。また、地球環境を考慮したエコファンドも増えています」(佐口氏)

ESGの取り組みを含めて企業価値の向上を目指し、投資対象企業と対話しようという姿勢がアクティブ運用だけでなくパッシブ運用にも浸透しているという。

「アクティブ運用の投資対象には、以前からファンドマネージャーやアナリストが出向き、対話を重ねていました。しかし、長期に保有し続ける可能性の高いパッシブ運用こそ、対話を通じて企業価値を高める必要性があるということで、受託者責任という観点からも以前に増して、幅広い企業に対する、直接あるいは間接的な対話の取り組みが進んでいます」(佐口氏)

大和証券投資信託委託株式会社 パッシブ運用部長 兼 運用企画部 スチュワードシップ・ESG推進課長 佐口文章氏
大和証券投資信託委託株式会社 パッシブ運用部長 兼 運用企画部 スチュワードシップ・ESG推進課長 佐口文章氏

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佐口氏のESG投資の手法に関連して、東京証券取引所の三木氏による、「個人投資家にとってのETFの魅力」についての次のような考察が続いた。

「ETFは、昼休みを除いた9時から15時まで株式同様にリアルタイムで売買できます。特定のインデックスに連動するように設計されているので、自動で分散投資ができる点がメリットです。現状、東証ではESGを前面に出しているETFは5銘柄あります。この中には顕著に売買高が伸びている銘柄も見受けられます。実際にマーケティングを担当していると、まだまだ増加の余地があると感じているところです」(三木氏)

資産形成層の裾野拡大をミッションに掲げて活動する三木氏は、投資未経験者が投資を始めるきっかけとして、従来には見受けられなかった新しい潮流が生まれてきているという。

「今まで投資したことがなかった方にESG投資の存在をお伝えすると、『そうした観点なら投資を始めてみようかな」とおっしゃる方が一定数いらっしゃるのは新鮮な気付きです」(三木氏)

東京証券取引所 金融リテラシーサポート部課長 三木誠氏
東京証券取引所 金融リテラシーサポート部課長 三木誠氏

また、モデレーターの岸上氏より投げかけられた、「果たしてESGが企業の魅力とリンクしているのかどうか」という問いに、マネックス証券の大槻氏が次のように答えた。

「弊社では、投資家の皆様を対象に『ガバナンスがいい会社に投資をしたいかどうか』というアンケートを取りました。同時に『ESG投資をしたいか』についても聞いてみたところ、いずれも3分の2から半数は『したい』とお答えいただきました。ちなみに皆さんいかがですか?(会場、半数近くが挙手)。やはり世界でも最近この傾向は強いです。特にアメリカでも若い層に、利益に現れにくい非財務情報もしっかり見ていきたいという傾向が見られます」(大槻氏)

ただし、株価が上がるかどうかを注視している投資家の目線に立つと、ESG投資は難しさもはらんでいるという。

「ESGに注力している会社は、さらにガバナンスが良くなったからといって、株価が上がることを期待するのは難しくなるわけです。なので、どちらかというとESGで見劣りがする会社をスクリーニングし、投資の候補から外すというツールとして活用するのも一案でしょう」(大槻氏)

また、昨年ESGの投資対象企業に値するかを判断するための情報開示ルールが少し厳しくなってきたことについて、次のように続ける。

「たとえば、役員の報酬の決め方を開示すること。また、代表者をどうやって選ぶのか、、どうやって辞めさせるのかというのも開示せよということなどです。まだ、開示は絶対ではないので、会社によってバラツキがあります。とはいえルールが決まったら、すぐに導入する会社をガバナンスがいいと認める流れができれば、よりお金が集まることになると思います」(大槻氏)

ちなみに、最近は開示がものすごく増えていることから、プロの機関投資家やアナリストでも分析をするのが日々大変なのだそう。

「ガバナンスについては、開示されているIR担当の電話番号に電話をかけて、『これってどういう意味でしょうか?』と積極的に聞くことをおすすめします。これは非常に勉強になりますし、良い情報が得られると思います」(大槻氏)

マネックス証券株式会社 執行役員 チーフ・アナリスト兼マネックス・ユニバーシティ長 大槻奈那氏
マネックス証券株式会社 執行役員 チーフ・アナリスト兼マネックス・ユニバーシティ長 大槻奈那氏

また、「ESGに関してのアドバイス」について、ファイナンシャルプランナーの深野氏は現状をこう語る。

「FP歴30年のなかで、さまざまな金融商品を見てきました。ただ、現状は日本の個人投資家がESG投資に情報のアンテナを張っているかというと、数は非常に少ないです。歴史を振り返ると、過去に社会的責任投資のSRIファンドもありましたが、一過性のブームで終わりました」(深野氏)

懐疑的ではあるものの、ESG投資ブームの潮流についてはプラスに捉えているという。

「やはり個人投資家の皆様が、金融取引をブームで終わらせるのではなく、根付かせるという意識を持つことが大切。とはいえ、個人が直接株式投資をされる場合、さまざまな会社のコーポレートガバナンスを調べて、これという銘柄を見つけて応援していくのはなかなか難しいと思います。それであれば、ESGのETFを購入するのも選択肢のひとつではないでしょうか」(深野氏)

ファイナンシャルリサーチ 代表 ファイナンシャルプランナー 深野康彦氏
ファイナンシャルリサーチ 代表 ファイナンシャルプランナー 深野康彦氏

1時間にわたる特別企画「ESG投資の今」は、全体を通してESG投資時代の幕開けを予感させる内容だった。これからは財務や業績だけではなく、ESGの観点から企業を見る姿勢が、個人投資家にもますます必要になりそうな兆しが感じられた。

数年前から徐々に関心が高まり、目下ムーブメントになりつつあるESG投資。今回、東証IRフェスタでこのような講演が実施され、たくさんの人が集まったのは、時代を先取りした出来事なのかもしれない。

(末吉陽子/やじろべえ)

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