年金は60歳からでも、70歳からでも受け取れる
老後の年金は何歳から受け取るのがオトク?
老後の年金は、原則65歳から受給開始となるが、実は60歳から受け取る(繰り上げ)、または最大70歳になるまで待ってから受け取る(繰り下げ)こともできる。単純に受給開始年齢が変わるだけではなく、受け取る金額も変わるようだ。
繰り上げ、繰り下げにはそれぞれどのようなメリット、デメリットがあるのか、年金分野を専門とする社会保険労務士の清水典子さんに聞いた。
受給開始年齢繰り上げで年金額は最大30%カット
「60歳まで繰り上げて受け取るメリットは、早く受け取り始められることです。ただし、早く開始するほど、年金は減額されます」(清水さん・以下同)
年金受給開始が、65歳になる月から1カ月早くなるごとに、0.5%ずつ減額率は高くなっていく。受給開始の年齢別に見ると、以下のようになる。
60歳0カ月 30.0%減
61歳0カ月 24.0%減
62歳0カ月 18.0%減
63歳0カ月 12.0%減
64歳0カ月 6.0%減
64歳11カ月 0.5%減
例えば、65歳から受け取る年金が年額100万円だとして、60歳に繰り上げると、年額70万円に減ってしまう。減らされた年金額は生涯続いていくため、本当に繰り上げて問題ないか、慎重に判断する必要があるだろう。
また、老齢年金を受け取り始めると障害年金を受け取る権利を失うことがあり、繰り上げた後にケガや病気で働けない状態になったとしても、障害年金は請求できない。
「年金額が高い方は、繰り上げることで年金が課税対象になる場合があります。65歳以上だと課税対象は158万円以上なのですが、60~64歳の間は108万円以上で課税の対象とされてしまうんです」
例えば、65歳から受け取る年金が年額150万円だとして、61歳0カ月まで繰り上げると、24%減で年額114万円となる。この場合、65歳から受け取れば全額非課税だが、繰り上げると税金がかかる可能性がある。
「65歳まで働けるならば、繰り上げない方がいいでしょう。ただし、60代に突入してから余命宣告されるなど、やむを得ない状況であれば繰り上げて、少しでも受け取った方がいいと思います」
1年以上の繰り下げで年金額は8.4%以上アップ
では、逆に繰り下げて受け取るメリット、デメリットはどこにあるのだろう。
「繰り上げとは逆に、繰り下げると年金額は増えます。66歳0カ月から1カ月繰り下げるごとに、0.7%ずつ増額率が上昇。ただし、上昇するのは70歳0カ月までです。65歳の時点で繰り下げの手続きをする必要はなく、受け取りたいと思ったタイミングで申請すれば、その時点の増額率が適用されます」
受給開始年齢ごとの増額率は、以下の通りだ。繰り上げと同様に、一度決まった増額率は生涯変わらない。
66歳0カ月 8.4%増
67歳0カ月 16.8%増
68歳0カ月 25.2%増
69歳0カ月 33.6%増
70歳0カ月 42.0%増
「繰り下げの場合、増額するのは66歳0カ月からです。つまり、66歳にならないと、繰り下げの請求はできません。働いていなければ、65歳からの1年間は収入がゼロになるので、生活費を備えておく必要があります」
また、一度受給を開始した老齢年金は停止できない。「受け取り始めたものの、やっぱり余裕があったから、再び繰り下げたい」ということは不可能だ。
「繰り下げによる増額率は保証されたものなので、投資と考えれば、5年後に42%増しはかなりオトクです。ちなみに、65歳で受け取り始めたケースと70歳まで繰り下げたケースの年金額を比較すると、81歳11カ月以上生きた場合、繰り下げた方が年金総額は大きくなります」
繰り下げ年齢は75歳に引き上げ…?
清水さん曰く、「繰り下げ年齢は、今後上がっていく可能性がある」とのこと。
「“100年総活躍時代”といわれている今、元気な高齢者も多いことから、繰り下げできる年齢を75歳まで引き延ばそうと審議しているところです。原則の受給開始年齢は65歳で変わらないと思いますが、増額率が上がる可能性はあるでしょう」
60歳を過ぎてから「受け取りたい」と思ったタイミングで受給開始を申請できる柔軟性は、制度自体のメリットといえる。金額面に加え、人生設計を考えて判断していくものといえるだろう。
(有竹亮介/verb)
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清水典子
社会保険労務士、年金アドバイザー、「オフィス・椿」所長。大手百貨店、生命保険会社に勤務した後、社会保険労務士の資格を取り、2003年に開業。年金分野に特化し、2万件を超える年金請求、調査等の実績を持つ。『図解 いちばん親切な年金の本 18-19年版』の監修なども務める。