オペレーターが家計簿の入力を代行
古いようで新しい、人力を融合した「Dr.Wallet」
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レシートの画像は分割され、オペレーターが手入力
フィンテックというと「自動化」や「機械化」のイメージが強いが、手作業や人力を大切にし、デジタルとの融合を進めているサービスもある。
そのひとつが、家計簿アプリの「Dr.Wallet」だ。レシートを撮影するだけで支出の金額はもちろん、「食費」や「日用雑貨」といったカテゴリ分類も自動で行い、アプリ上の家計簿に反映してくれる。金融機関の口座とも連携し、口座残高や利用履歴も自動で取得。こちらも家計簿に反映される。
では、どのような部分で手作業とデジタルが融合しているのだろうか。アプリを運営するBearTailの鍋本真吾氏はこう説明する。
「レシートのデータ化を手作業で行っています。お客さまが撮影したレシート画像について、専門のオペレーターが目視で入力。そのため金額や支出項目は正確であり、カテゴリ分けの精度も高いのです」
Dr.Walletは、ユーザーがレシートを撮影すると、そのデータが契約する在宅ワーカーに送られて入力作業が行われる。「レシート撮影から最低でも24時間以内にはアプリに反映されます」とのことだ。
こう聞くと、自分のレシートデータが他人の目に触れる恐れを抱いてしまうが、その点は心配ないようだ。というのも、撮影した1枚のレシートはいくつかに分割され、別々のオペレーターが処理。最後に連結される。このため、匿名性が高くセキュリティ面でも安心という。
とはいえ、デジタル化や自動化が進む中で、なぜ手作業を重視するのだろうか。大きな理由として「私たちが想定しているお客さまは、一般家庭の方や家計簿をつけ始めようとするライトユーザーだからです」と鍋本氏は言う。
「その方たちに使っていただくには、日々の買い物をいかに簡単にアプリへ反映できるかが重要。そして日々の買い物は、キャッシュレスが進んでいるとはいえ、まだ現金中心。レシートのデータを入力することが求められます。カメラで撮影するとアプリが自動入力するサービスもありますが、まだ精度が低く、最終的には自分で修正しなければなりません。であれば、撮るだけでオペレーターが正確に入力する方がお客さまの課題解決になると考えています」
独自に培った、オペレーターの作業コストを下げるノウハウ
アプリに付加された機能には、日々の買い物を楽しめる工夫が見られる。たとえば「あなた専用クーポン」は、ユーザーの購入履歴から、よく行くお店やよく買う商品に近い商品のクーポンを発行。「指定商品を買ってレシートを投稿すると、アプリ内でポイントがプレゼントされます」という。「特別なものでなく、いつもの買い物をより楽しんでいただきたい」と鍋本氏は付け加える。
アプリの利用者は女性が6割で、年齢層も60代以上がやや少ないことを除いては、ほとんど人口分布通りだという。ユーザーから特に好評な点は、やはり手作業の入力による“正確性”。「毎月の支出を細かくカテゴリに分けて、前月との比較ができるのですが、カテゴリ分けの間違いが少なく、支出の動向を把握しやすいとの声が多いです」と話す。
Dr.Walletの核は、やはりレシート部分の手入力であり、それがユーザーを引きつける魅力にもなっている。ただ、オペレーターに作業を依頼するのは、当然ながらコストの問題も出てくるはず。
「アプリの開発・運営において、とにかく注力してきたのがオペレーターの作業をいかに簡易にするかです。詳細なノウハウは紹介できないのですが、より早く簡単にオペレーターが入力できるシステムを作り上げ、彼らの入力を補完するレコメンド機能も構築。労力やコストをなるべく下げることに成功しました」
その結果、手作業とデジタルの融合は、会社の強みにもなったようだ。実際、同社が提供する別サービス「Dr.経費精算」でも、ビジネスパーソンにとって煩わしい領収書の精算などを、手作業でオペレーターが代行する。ユーザーは写真を撮るだけでほぼ完了する仕組みだ。
最近は、コンピューターに人間の認識や判断を組み合わせる「ヒューマンコンピュテーション」といったワードが聞かれるが、実はその分野のノウハウも蓄積されているようだ。そんな「人力と機械の融合」を生かしながら、今後もアプリを進化させていく。
「Dr.Walletについては、さらにクオリティを上げて、より広く使っていただきたいですね。また、特定の医薬品を購入すると所得控除が受けられるセルフメディケーション税制などが始まり、レシートのデータを申告する機会が増えています。そういった中で、Dr.Walletの技術が生かせればいいですね」
人力や手作業という言葉からは、どうしても未来や最先端をイメージしにくいもの。しかし、それらと機械やデジタルの融合こそ、未来に価値を持つのかもしれない。その視点でも、Dr.Walletは興味深いサービスだ。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2019年3月現在の情報です