結局、米中間で何が摩擦しているのか

提供元:日興アセットマネジメント

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Composite of the Chinese and American flags

<ここがポイント!>

■ 摩擦の中身は、中国の不十分な知的財産権保護と国営企業優遇、補助金供与
■ 今後数年では解決が難しい理由
■ 本質的な解決は、中国が中所得国から脱却すること

 

摩擦の中身は、中国の不十分な知的財産権保護と国営企業優遇、補助金供与

4月3日~5日に、米国ワシントンで米中の閣僚級通商協議が開催された。協議終了後、ホワイトハウスは「建設的な会合であり、たくさんの重要な課題において進展があった」とのコメントをWEBサイトに掲載した。その後も、クドロー国家経済会議委員長は、通商合意に近づいており、電話会議などで協議を続ける、との前向きなコメントをしている。

ところで、「米中間で何が摩擦しているの?」と問われて、それに答えられる人は意外に少ないのではないだろうか。摩擦を懸念する、摩擦のせいで経済が悪化するなどのコメントは多いが、何が摩擦しているのかを知らなければ、分かったことにはならない。

米中間の貿易摩擦は過去20年以上にわたる米国の中国に対する不公正批判であり、トランプ大統領のアイデアではない。長い間、米国政府は中国の①米国企業などの知的財産権保護の不十分さ、②国営企業優遇による競争排除や低コスト生産を通じた輸出でのダンピング、③補助金供与による民間を含む企業の低コスト生産を通じたダンピング支援、を主に問題としてきた。トランプ大統領が新しいのは、”だから追加関税をかける”と主張して実行したことだ。

一方で、中国は自由貿易を支持するとしている。関税をなくした方が世界経済に良い、という経済理論は確かにあるが、それはお互いに公正な競争環境を維持する法令や政府機関などの仕組みが整備されている場合に限る。

仮に貿易相手国の生産が不公正で競争的でなければ、自由貿易が経済に良いとはいえなくなる。中国は01年からWTOに加盟し、独占禁止の法令なども整えているが、現実には不公正を正していない、と米国は主張してきた。

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米中貿易摩擦が激化したのは、18年3月ごろからだ。トランプ大統領は、500億米ドル相当のテクノロジー関連商品などに25%の追加関税、さらに2,000億米ドル相当の資本財などに10%の追加関税を課し、こちらは25%に引き上げる(通商協議中は引き上げないとしている)としていた。

興味深いことは、米国の経済がリーマン・ショックを過ぎた13年から16年に低迷した後、回復基調が鮮明になった17年ごろから、輸入額が急拡大していることだ。これは、米国の雇用拡大、賃金上昇、消費拡大を背景とした需要増によるものだ。貿易摩擦を懸念することは正しいが、現実に起きたことは、米国が中国も含めた他国からの輸入を拡大したことだ。

貿易摩擦の背後には、経済の拡大とトランプ政権の関税政策の緻密な計画があったとみる。500億米ドル相当のテクノロジー製品に追加関税を課す時には、プリンターやディスプレイなど消費者の目に触れる商品を除外し、続く2,000億米ドル相当の時にも、消費財をできるだけ除外して資本財の比率を引き上げた。

これは、資本財の影響を受けやすい企業の収益は、法人税率の引き下げで相殺される面があったからだ。もちろん、追加関税がまったくかからない方が企業収益は高くなると思うが、経済全体で見れば、トランプ政権の経済運営は拡大的になっている。

今後数年では解決が難しい理由

貿易摩擦は解決する方が望ましいし、米中通商協議はまとまるかもしれない。しかし、今後5~10年で本質的に解決することは簡単ではないとみている。なぜなら、前述した貿易摩擦が起きた3つの要因は、目先の政策対応で解決することが難しいからだ。0888

まず非常に興味深いことは、トランプ政権発足前(少なくとも15年ごろ)に、米国の要求している3つの要因について、中国が改革しようとする政策の中に、すでに組み込んでいることだ。中国が貿易摩擦問題で比較的穏健な(大人の)対応をするのは、ごく自然なことだ。

では、なぜ摩擦が続くのか。中国自身が守りたくなるような知的財産権が十分になく、「世界の工場」でしかない中国が他国と競争するために国営企業優遇や補助金供与による産業保護が必要だ、という現状が本質的な理由といえる。

80年代の日米貿易摩擦では、日本の電気製品が攻撃の対象となったが、その当時は日本を代表するたくさんの電気製品や自動車のブランドがあり、その意味で守るべき知的財産権もたくさんあった。今の中国で世界を席巻しているブランドは指折り数えることも難しい。

今後10年程度のうちに3つの要因を解決することが難しいとすれば、それより短い期間においては、政治サイクルが重要になる。17年に米大統領に就任したトランプ氏は、その年を通じて中国への批判を抑えていた。しかし、中間選挙の年となった18年はきわめて強く中国を批判し、追加関税をかけて米国の雇用を守ると宣言した。中間選挙後の19年は、中国との交渉に乗り出し、知的財産権保護の譲歩を獲得しようとしている。

本質的な解決は、中国が中所得国から脱却すること

中国製造2025という政策は、米国の目の敵にされる一方で、中国が早くとも2025年ごろにならなければ、守るべき知的財産権や世界に打って出る(国際競争力のある)民間企業が育っていないと見ている、と解釈できる。

今後、中国において民間企業が競争に磨かれ、さらに高い付加価値を生み出せるようになれば、中所得国の罠から脱却して良い消費国となり、貿易摩擦も解消していくことになるだろう。

 

(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)

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