G20後も米中テック・ウォーは続こう

提供元:日興アセットマネジメント

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3D isometric Dice with America and China flag pattern, Trade war

<ここがポイント!>

■ 米中がテクノロジーで争うテック・ウォーと貿易摩擦とは視点が違う
■ 安全保障と覇権争いでは大事なところが違う
■ 総じてセクターの問題、中国の成長戦略が重要

米中がテクノロジーで争うテック・ウォーと貿易摩擦とは視点が違う

G20大阪サミットを機に米中首脳会談が行われ、米国による対中制裁関税第4弾の発動が先送りされたことで、市場に安心感が広がった。さらに、米国企業によるファーウェイへの部品販売を一部容認する姿勢を示したことから、テクノロジーに関する米中覇権争いの緩和期待も膨らんでいる。

米中のテクノロジー摩擦(テック・ウォー)部分は、知財権保護など貿易摩擦の問題もあるが、そもそも安全保障上の問題の方が大きい。また、貿易摩擦の根幹である中国の不公正(不十分な知財権保護、国営企業優遇、補助金供与)とは別に米国が問題視しているのは、中国企業による、米国企業に対する技術移転の強要や米国企業買収時の不適切な技術移転などだ。

まず、米国が中国企業の生産した通信機器を使うことに安全保障上の問題があるという考えが強まってきた。米国の軍事施設が中国の通信設備を使って通信傍受を楽にしてあげることは合理的ではない。サイバー攻撃についても、他国の商品を使えば脆弱になるかもしれない。

また、米国が世界に対して、軍事以外でも技術力で優位(覇権)を維持することは自国経済にとって有益なので、中国が先に進むことを戦略的に阻止するという考えもある。

米国企業は半導体などハードウエアのみならずソフトウエアでも多くの分野でリーダーであり、デファクト・スタンダードを握ることで高い利益率を享受してきた。技術やアイデアの優位性は米国の経済力の重要な要素だ。現状、ほとんどの分野で米国の”力”の方が中国に対して圧倒的に強い。中国が5G(第5世代移動通信システム)などで強みを持つといわれるが、米国は将来の覇権の維持を目的の一つとしているようだ。

このように、米中貿易摩擦に関わるとはいえ、テック・ウォーは、軍事・ハイテクの安全保障を含む覇権戦争と呼ぶこともできる。米国が中国製造2025を目の敵にしたのは、ハイレベルな情報技術などを不正・不適切な手段で集めて米国を抜き去ることは容認しがたいからだ。公正な技術競争ならば仕方ないが、そうでなければ関税や取引禁止などで制御せざるを得ない、との考えが米国のテック・ウォーの背景にある。

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実は、中国は技術立国とはいえない。中国を代表する上海/深圳CSI300指数の業種構成比をみると、300銘柄のうち情報技術に属するのは34銘柄(構成比8.0%)でしかない。中国の資本財や消費財にもある程度インターネット関連企業があるだろうが、米国S&P500指数に占めるGAFA(インターネット・テクノロジー企業群)の大きさや影響力と比べればまだ小さい。

ファーウェイという企業が特別に世界的なブランドと通信関連技術で高いシェアを持っているのであって、中国全体からみると例外だ。だからこそ、米国も中国もその扱いにこだわっているといえる。

安全保障と覇権争いでは大事なところが違う

安全保障上の理由は、中国による米国の軍事や警察の通信傍受が可能になりやすいことにある。中国が強みを持つ通信設備について、単に部品を組み合わせたハードウエア部分だけではなく、動かすために重要なソフトウエアの仕様がブラックボックスになりやすい。遠隔操作で通信内容を第三者に漏洩する機能を秘密裏に実装されても発見しにくいだろう。もっとも、米国や同盟国の企業へも同様の仕掛けができるかもしれないが、インセンティブが低いし、当局が情報も集めやすく、犯罪として罰しやすいと考えられる。

安全保障の観点から、いざという時にコントロールしにくい国・地域で生産した製品を使うことは避けたいと考えることは、合理的、かつ経済的にはコストが小さいだろう。

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一方で、主要国では外国為替及び外国貿易法(外為法)などで製品を列挙して(米国は輸出管理法に基づくエンティティ・リスト)ハイテク製品などの特定国への輸出を制約しており、敵対する国や地域での核を含む武器製造能力を高めることがないようにしている。(上図)米国はこれを使ってファーウェイへの技術移転を止めようとした。今回の米中首脳会談の後、トランプ政権は米国企業のファーウェイへの部品販売を一部容認したように、一般に米中のテクノロジー企業の相互依存度は高い。

また、ファーウェイに限らず、テクノロジー産業の日本企業なども含めたバリューチェーンは世界中に広がっており、一部を止めてしまうことは望ましくない。

米国は、安全保障では中国の製品の一部を輸入しないようにするが、覇権争いでは中国への輸出を制御することになる。いずれについても、中国の不公正から来る貿易摩擦とは別の話だ。

総じてセクターの問題、中国の成長戦略が重要

今後、米中のテック・ウォーは、セクター内の問題として残るだろう。折に触れて米国が批判したり輸出管理の対象にするだろう。一方で、中国のテクノロジー産業への投資の観点からは、あまり悲観することはないだろう。現時点、中国のテクノロジー企業の技術などは、広い意味で米国の影響下にある。独自技術などがあるというよりも、中核部品を集めて良い製品にする能力を使って、世界の市場に乗り出している。ドローンで有名な企業は、特別な技術を使っているというよりも、先進国で設計された部品を使ってドローンを制御している、といった例が分かりやすい。ファーウェイが米国の部品供給を制約されると困る、ということも同様といえよう。

しかし、今後の中国は、そもそも米国の部品で洗練された製品を作るだけでは十分ではない。組み立てるだけでは付加価値が低いからだ。ファーウェイのように、端末アイデアなどで世界のブランドに伍することができる企業を多く育てなければ、中国の成長戦略は成功したことにならない。この意味で、中国は部品などを自国で内製化できる国にならなければならない。中国のテクノロジーが本当の意味でハイテクになるために、「これがなければ世界が困る」といえるようなアイデア、製造技術などが確立されることが待たれている。

国営企業のような従来型の方法では、イノベーションが起こらないことを中国は知っている。中国の成長戦略では、例えば深圳のエンジニア・ボーナス(エンジニア人口の増加)がアイデアやビジネスの新しいイノベーションを起こすと期待される。中国の大きな消費市場を背景としたイノベーションは、米中関係とは別のところで起こるはずだ。

 

(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)

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