住んでいる地域の福祉サービスこそ活用すべき
親の介護費用は「公的介護保険」でカバーできるの?
世界トップクラスに高齢化社会が進んでいるといわれている日本。なかでも大きな課題となっているのが、親の介護だ。近年、家族の介護のために仕事を辞める「介護離職」も問題になっており、もはや他人事とはいえないだろう。
今の時代、介護に関する公的保険や助成制度の内容は、必要になる前から知っておいて損はない。『これで安心!入院・介護のお金』の著者であるファイナンシャルプランナーの新美昌也さんに、公的介護保険でカバーできる範囲について教えてもらった。
介護サービス利用も福祉用具購入も最大3割負担
そもそも公的介護保険とは、40歳以上の国民全員が加入して保険料を納め、介護が必要になった場合に所定の介護サービスを原則1割負担で受けられるというもの。65歳以上の利用者負担は、所得に応じて1~3割と変化する。
公的介護保険では、どのような介護サービスが対象となるのだろうか。
「在宅での介護であれば、自宅にヘルパーや看護師が来てくれる訪問介護や訪問看護、介護施設に通うデイサービス、介護施設に短期間宿泊するショートステイなどの『居宅(在宅)サービス』が対象となります。自治体によっては、訪問介護・デイサービス・ショートステイのサービスを総合的に提供している小規模多機能型居宅介護という『地域密着型サービス』も利用可能です。ただし、滞在費、食費、日常生活費などは自己負担となります。所得や預貯金額が一定以下の方には自治体から『介護保険負担限度額認定証』が交付され、ショートステイに限り、滞在費と食費の自己負担額が減額される仕組み(補足給付)があります」(新美さん・以下同)
そのほかにも、車いすや介護ベッドなどの福祉用具のレンタル・購入費、住宅改修費もカバーされる。要介護によっては、介護保険施設への入所時にも保険が適用される。介護保険施設の居住費・食費にも、「補足給付」は適用される。
すべての料金が1~3割負担で済めば、そこまで費用面の心配はなさそうな気もするが、注意点があるという。
「居宅サービスを利用する場合、要介護度に応じて支給限度額が設けられていて、限度額を超えた分は、すべて自己負担となります。ただし、支給限度額内の自己負担額が一定額を超えた時は、申請により超過分が後から払い戻される『高額介護サービス費支給制度』があります」
居宅サービスの支給限度額は以下の通り。
「認定の有効期間の途中で、医師の診断で要介護度が変わった場合は、いつでも区分変更ができます。要介護度が上がることで使える介護サービスの種類が増えることもありますが、同時にサービス料金が上がることもあるので、必要に応じて区分変更しましょう」
在宅介護の平均額は約300万円超
支給額はわかったものの、そもそもサービス利用にはどの程度の費用がかかるのだろうか。
「ほとんどの自治体で配布している介護保険に関するパンフレットに、具体的な費用が書いてあることも多いので、参考にするといいでしょう。例えば、東京都練馬区の場合、訪問介護(身体介護中心)を30分から1時間未満でお願いすると、1回511円(自己負担1割の目安)。デイサービスを受ける場合は、要介護度によって負担額が異なりますが、要介護5で1回1320円(自己負担1割の目安)です」
1回の費用で見ると安価な気がするが、介護は毎日のこと。サービスも定期的に利用することになるため、利用回数分増えていくことになる。
「施設によっては、早朝・夜間・深夜の利用で別途費用が加算されることがあります。利用する前に、ケアマネジャーに確認しておくと安心です」
では、介護費用はどのくらいかかるのだろうか。
生命保険文化センターの『平成30年度 生命保険に関する全国実態調査』によると、在宅介護に絞った場合、介護期間が平均53.1カ月。介護費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)が、住宅改修などの初期費用で平均67万2000円、月々の費用で平均4万6200円。これらをすべて足すと、313万円程度となる。
「この金額はあくまで53.1カ月間、在宅介護を行った場合の平均値です。実際は、介護期間がもっと延びる可能性がありますし、よりよいサービスの利用や介護施設への入居を考えるとさらに費用は上がります。『300万円あれば大丈夫』と油断せず、ちょっと多めに見積もっておいた方がいいでしょう」
積極的に活用すべき「高齢者福祉サービス」
新美さん曰く、「自治体が提供している高齢者福祉サービスを活用すると、介護費用を抑えられるかもしれません」とのこと。
「自治体によって内容は異なりますが、練馬区の場合、要支援・要介護認定を受けていなくても、車いすや介護ベッドを最長6カ月間借りられて、住宅の手すりの取り付けや引き戸への取り替えなどの工事費用も20万円まで給付されます。また、65歳以上の一人暮らしの方は、安価で配食サービスを受けることもできるんです」
要介護認定を受けた人向けの高齢者福祉サービスもある。同じく練馬区の場合、要介護1以上であれば紙おむつまたはおむつ代が支給され、要介護3以上であればリフト付きタクシーの予約・迎車料が助成される。
「自治体の高齢者福祉サービスはあまり周知されていませんが、必要に応じて利用すればかなり費用を抑えられると思いますよ。自分で調べきれない場合は、お世話になっているケアマネジャーに相談すると、有益な情報を教えてもらえるかもしれません」
数百万円単位で必要になってくるであろう親の介護費用。ある程度は資金を備えつつ、親が住んでいる地域の情報を仕入れておくことも重要といえそうだ。
(有竹亮介/verb)
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新美昌也
ファイナンシャルプランナー、T&Rコンサルティング代表。民間介護保険に詳しいFPとして、取材・執筆活動や、介護のお金をテーマにした講演会を行っている。著書に『これで安心!入院・介護のお金――知らないと損する48のこと』。