定価を超える額でのチケット転売で懲役1年以下もしくは罰金100万円以下!?
東京五輪でも対策続々!「チケット不正転売禁止法」とは
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2020年に開催される東京オリンピック。その観戦チケットの抽選申し込みが5月9日から始まり、6月20日に抽選結果が発表された。国民の注目度は高く、かなりの激戦となった。
しかし、高額転売されているというウワサは耳にしない。その理由は、公式販売サイトが転売しにくいシステムを導入したからだ。さらに、抽選結果が出る直前、6月14日に施行された「チケット不正転売禁止法」の効果も大きい。
改めて、「チケット不正転売禁止法」とはどのような法律なのか、骨董通り法律事務所の松澤邦典弁護士に聞いた。
業として行う定価を超える額での転売は違法
「『チケット不正転売禁止法』は略称で、正確には『特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律』。その名の通り、チケットの不正転売を禁止する法律です」(松澤さん・以下同)
不正転売禁止の対象は、あらゆるチケットというわけではなく、「特定興行入場券」という次の3つの条件を満たすイベントチケットに限られる。
(1)興行が行われる日時・場所および座席(または入場資格者)の指定券であること
(2)販売時に興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨が明示され、券面にもその旨が明記されていること
(3)販売時に購入者(または入場資格者)の氏名と連絡先が確認され、券面にもその旨が明記されていること
「開催日時・場所や座席、(2)(3)の注意事項が、券面に記載されていて、見ただけで不正転売が禁止されているものとわかるチケットが対象になるというわけです」
ところで、法律の名前にも入っている「不正転売」とは、どのような行為を指すのだろうか。
「『不正転売』とは、興行主の同意を得ずに業として行う、販売価格を超える価格での有償譲渡のこと。つまり、定価を超える額での転売はダメというわけです。『業』とは反復継続の意思をもって行うことを意味するので、不正転売目的で大量に買い占めるといった行為は違反ですし、1回の転売でも反復継続の意思をもって行えば、違反となりえます」
販売価格以下での譲渡であれば、違法にはならない。ただし、「チケット代は定価だが、送料は1万円」など、チケット代以外で高額請求することや、「1万円のチケットと2万円のチケットの交換」など、販売価格を超える額の有償譲渡と同等とみなされることは、不正転売したことになる可能性が高いそうだ。
「これまで不正転売の温床となってきた転売サイトは、現状のままだと、不正転売の共同正犯あるいは幇助犯に当たる可能性があります。特定興行入場券かどうかはチケットの外観からわかることから、これが定価を超える額で出品されている場合には即時に削除されるなど、ルールは厳格化されていくべきでしょう」
ちなみに、「チケット不正転売禁止法」を違反した場合の罰則は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金。刑事罰の存在は、一定の抑止力になりそうだ。
“入場時の本人確認”が不正転売防止のカギ
不正転売を防止するため、チケットの販売方法も変化してきている。
「電子チケットや、AIを利用したダイナミックプライシング(市場の需要に応じて価格を変える方法)などが取り入れられています。今回の立法を受けて、本人確認の徹底を本格的に検討し始めている興行主も出てきていますね」
これまで入場時の本人確認は、技術的なコストがかかり、人員配備の面でもハードルが高かった。しかし、本人確認を徹底することで、販売時に氏名確認を行う「特定興行入場券」の有効性が増す。
「購入者と入場者が原則同一人物であることの確認が徹底されれば、不正転売の防止につながります」
五輪チケットは転売サイト出品で自動無効化
万が一、予定していたイベントに行けなくなった時に、転売そのものができないと不便を感じることもありそうだが?
「興行主にとって、公式リセール(定価でチケットを再販できるサービス)の場を作っていくことが課題といえます。東京オリンピックの観戦チケットに関しては、販売サイトに『2020年春以降、公式リセールサービスを設置する』と明記されています」
さらに、東京オリンピックの観戦チケットを、特定の転売サイトやフリマアプリで出品した場合、そのチケットは自動的に無効化されるという措置も取られている。
「公式リセールとチケットの無効化の2つが大きな柱となって、不正転売を抑止しているように思います。また、販売サイトではIDの不正使用が禁止されていて、大量仕入れがしにくい仕組みになっています。不正転売を防ぐには、買い占めさせないことも重要です」
ちなみに、観戦チケットは親族や友人、知人には、直接譲渡してもいいことになっている。
「『友人、知人』がOKであれば、『実際は不正転売されるのではないか?』という疑問は生じます。しかし、チケットを売った側は、不正転売禁止法に基づいて、刑事罰が科される可能性があります。また、チケットを買った側も、チケットが無効になり、入場できないかもしれません。友人や知人を装った不正転売は違法行為であり、購入者にもリスクがあります」
「チケット不正転売禁止法」施行によって、チケットの購入方法や入場方法が一気に変わっていきそうだ。
(有竹亮介/verb)
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松澤邦典
弁護士。骨董通り法律事務所For the Arts所属。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。2015年から弁護士として、アートやエンターテインメント等の分野を中心に扱う。共著に『わかって使える商標法』『Q&A引用・転載の実務と著作権法〈第4版〉』。