教えて、お坊さん!“遺産”運用説法

悲劇ばかりじゃないんです!

お坊さんが語る、相続にまつわるちょっといい話

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人が生きるということは、いろんなことを積み重ねていくということ。心もお金も、次の世代に引き継ぐべき大事な資産です。

とかく敬遠しがちなお金についても、先々を見据えてキチンと向き合うことは、この時代に必要な努め。上手に運用し、賢く次の世代に遺すには? 現役僧侶がわかりやすく説き明かします。

相続とは、避けるべき辛い事件ではありません

相続にまつわる話は、たいていが苦労話や悲劇だと思いませんか? 人の不幸はなんとやらですし、人の行動を駆り立てるには煽るのが手っ取り早いという理屈もわかります。

しかしながら、相続とはとんでもない難しさで、親族の仲を引き裂くやっかいな大事件だと考えてしまうのは時期尚早です。ちゃんと遺産を引き継げたことで、みんなが幸せを得る結末だって、難しいことではないのです。

そこで、過去に実際にあった幸せな相続の事例から、“いい相続”のあり方について考えてみましょう。

  • ケース1
    遺言書をキチンと残し、メッセージも添えていた

「何をどうすべきかわかった。おかげで家族の結束が強くなりました」

もっとも理想的なケースがこれです。然るべき方法で法的に認められる遺言書を残すとともに、そこに「なぜそうしたのか」と付け加えておくことで、相続者の納得感はまるで違います。

そして相続者全員で遺言書を読むとき、故人に対するいろんな思いが溢れ、そのことで気持ちもひとつになります。遺産額の評価など、相続には手がかかる作業が待っていますが、相続者全員が一枚岩であれば、揉めごとなんてまず起こりませんよ。

  • ケース2
    生前に故人が葬儀の準備をすべて整えてくれていた

「葬儀やお墓に至るまで、こんなに準備して…。父さんありがとう」

残された人に迷惑がかからないように、葬儀やお墓を用意しておくというのも、実は立派な相続です。葬儀費用や墓や仏壇、仏具などの故人を弔うものに対しては、実は相続税がかかりません。超高額な仏像などとなると話は変わってきますが、いいたいのは相続にはいろんな形があるということなのです。

評価額が低くなる可能性のある株式にしたり、不動産にしてみたりと、遺産はお金というパッケージでしか遺せないわけではありません。次の人への真心を示すという意味でも、“遺し方”について考えておきたいですね。

  • ケース3
    相続の結果、家族の輪が再び繋がった

「いろいろ話した結果、次男が母親の面倒を見て家を継ぐことになったんです」

年老いた奥さんや旦那さんが残されてひとりぼっちになってしまうのは、あまりいいことではないと思います。健康の不安はないか、詐欺被害に遭わないかなど、離れて住むお子さんや親族としては不安でしょう。円満に同居ができるなら、それに越したことはありません。

相続とは、お金のみならず家や土地、それにまつわる人間関係も引き継ぐということです。相続の話し合いは、離れて住む親子の気持ちを確認する絶好の機会です。故人が残したそんな機会で最期の親孝行ができるとしたら、素晴らしいことではないでしょうか。

  • ケース4
    相続でペットを幸せにすることができた

「ペットに財産を残したくて、世話をしてくれる人にお世話を条件に相続しました」

少子高齢化で単身の高齢者が全国的に増えています。自身の心を支えてくれる最愛の存在に「全てを残したい」という気持ちを持つ方も少なくないでしょう。しかし法律上、残念ながらペットに相続をすることはできません。

ただ、誰かにペットと遺産を渡すことはできます。負担付遺贈という仕組みです。これは、「ペットの面倒を見てくれるかわりに、遺産を遺しますよ」と宣言する制度。相続者は遺言執行者に見守ってもらい、ペットの面倒を見なければ相続権を失ってしまいます。ペットの幸せを願うなら、面倒を見てくれて信頼できる人を探すところから始めましょう。

相続とは、「お金がどれくらい得られるのか」だけではないライフイベント

相続というのは、「お金にするとどれくらいで、どれくらい得られるのか(分けられるのか)」という点で捉えられがちです。しかしこの点だけでものごとを判断してしまうと、不幸が訪れる可能性が高くなります。

人はもともと裸一貫、何も持たずに生まれてきたということを示す禅の言葉です。自身で築いたものでもないのに、多くを得ようとするのはどうなのでしょう。人として寂しいと思いませんか?

ここで取り上げたケースの多くは、資産と一緒に目に見えない価値を相続できた人たちです。たとえば残された家族にとっては、小さいころ旅行に行って楽しかったといった思い出だって、大切な財産だと思うのです。そこで得られた経験は、その後の人生で大きな意味を持ちます。

最期に思い出を残すという意味で、相続というライフイベントを豊かな経験にする。旅立つ人の最期の贈り物であり、残された人にとってはお金以上の意味を持つかもしれない。相続がそんな機会になるとすれば、本来無一物で生まれた人が、成熟を重ねる大きな機会になると思うのです。

 

(取材・執筆:吉州正行、イラスト:石井あかね)

 

【Profile】

僧侶・吉州正行
埼玉県で寺院を運営する現役僧侶。数多くの葬儀を引き受けるなかで、相続の問題を数多く目の当たりにし、僧侶の視点から終活の資産運用について考えることを奨励する。団塊世代が高齢化する今後、相続問題が全国的に多発することを危惧する。

監修:岡野雄志
日本トップクラスの相続税還付実績を誇る、正確な土地評価と税務署との交渉力が強みの相続税専門の税理士事務所「岡野雄志税理士事務所」代表。日本全国で数多くの相続税の案件に携わってきた相続税申告、相続税還付や相続税対策など、相続に関するスペシャリスト。
https://www.souzoku-zei.jp

 

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