健康保険、国民健康保険…各国と比べてみると…

パートでも病気で休んだら手当金がもらえる…!?「公的医療保険」をおさらい

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病気やケガの治療を受けた際に、病院で数十万、数百万円を請求される…ということはほとんどない。医療費が安く抑えられるのは、健康保険証を持っているから。これは公的医療保険に加入している証明になり、医療費の自己負担は3割(小学校入学以降70歳未満の場合)で済む。

日本は“国民皆保険制度”を導入し、国民は皆何かしらの公的医療保険に加入している。しかし、海外ではそうとも限らないようだ。

日本と同じタイプを採用しているのはフランスやドイツ。イギリスは国営医療モデルを展開しており、国民は基本的に無料で治療を受けられる。そして、アメリカでは高齢者、障害者、低所得者などの受給資格がある人のみが公的医療保険に加入でき、それ以外の人は民間保険に加入していないと、多額の医療費を自身で負担することとなる。

このように国によって制度は異なるが、日本の制度は世界最高水準といわれている。しかし、日本の公的医療保険制度について、あまりよく知らない人も多いのでは。そこで、特定社会保険労務士の吉田秀子さんに、日本の公的医療保険制度について聞いた。

日本の公的医療保険は「3つ」

「日本の公的医療保険は、大きく3つに分けられます。お勤めの方が加入する『被用者保険(※1)』、自営業や農業関係者など仕事をしているけれど、被用者保険の対象にならない方や無職の方などが入る『国民健康保険』、75歳以上の方などが入る『後期高齢者医療保険』です。また、同種の事業・業務の従事者で組織されている国民健康保険組合というものもあります」(吉田さん・以下同)

ひと口に公的医療保険といっても、いろいろな違いがあるようだが、75歳未満の労働者に関わってくるものは「被用者保険」と「国民健康保険」。ちなみに、「被用者保険」の中でも、一般的なものが「協会けんぽが管掌する保険(以下、健康保険)」とのこと。

※1 一般的にサラリーマンなどが入る協会けんぽ、一定の要件の企業に勤めているサラリーマンなどが入る健康保険組合、公務員や私学教職員が入る共済組合などが管掌する保険のこと

「健康保険」は週20時間以上勤務のパートタイマーが対象になる場合も

「『健康保険』は、正社員が入るイメージがあると思いますが、労働時間の長さによっては、派遣社員やパートタイマーなどの非正規雇用者も『健康保険』に加入する場合があります」と、吉田さんは話す。その基準が、「1週の所定労働時間」及び「1カ月の所定労働日数」が一般社員の4分の3以上であること。

例えば、一般社員が週40時間、1カ月に20日間働いている企業があるとする。この場合、週30時間以上、1カ月に15日以上働いている非正規雇用者は、「健康保険」に加入することとなる。

また、所定労働時間や所定労働日数が一般社員の4分の3未満であっても、勤め先が大企業(常時501人以上の特定適用事業所)の場合は、1週間の所定労働時間が20時間以上、賃金が月額8.8万円以上、雇用期間1年以上の見込みがあること、学生でないことという要件をすべて満たせば、「健康保険」に加入することになる。

「結婚している方は、年収130万円未満であれば、配偶者が加入している『健康保険』の扶養に入れます。しかし、130万円未満であっても、上記の労働時間等の要件を満たす場合は、自分で『健康保険』に加入する必要があります。扶養の範囲内に収めたい場合は、パート先の規模や労働時間、日数などを入社前に確認するようにしましょう」

同じ保険・条件でも、“地域”ごとに保険料は異なる

保険料の算出方法は、加入する保険ごとに異なる。「健康保険」は、都道府県によって料率が異なり、1カ月の賃金額に応じて保険料が決まる。自身の保険料は、「標準報酬月額表」を見るとわかるので、協会けんぽなど保険を管掌する組織のウェブサイトなどで確認してみよう。なお、「健康保険」の保険料は被保険者と事業主で折半となる。

「国民健康保険」の料率は、市区町村ごとに異なる。前年度の所得や家族の人数など、さまざまな要素が関連するため、個々に計算する必要がある。保険料は、被保険者が全額負担。

75歳以上は医療費の自己負担額が原則1割

75歳を超えた場合は、勤め人か自営業かに関わらず、「後期高齢者医療制度」に加入することとなる。

「保険料は都道府県によって異なり、医療費の自己負担額も年収によって異なりますが、原則1割です。65~74歳でも、寝たきりなど一定の障害があると認定された方は『後期高齢者医療制度』の対象になります」

「高額療養費制度」により自己負担額には上限がある

「国民健康保険」も「健康保険」も、病気やケガで治療を受けた際の療養費は、自己負担3割で済む。では、もし仮に1カ月に1000万円もかかる保険治療を受けた場合、自己負担額は300万円になるのだろうか?

「1カ月の間に病院や薬局で支払った自己負担分が一定の金額を超えた場合、超えた分のお金が戻ってくる『高額療養費制度』があります。上限額は70歳未満と70歳以上で異なり、所得や世帯構成によっても変化します」

例えば、70歳未満で年収約350万円の人の場合、1カ月の自己負担額の上限は世帯で5万7600円。70歳以上で年収約350万円の人の上限もこれと同額だが、70歳以上の場合は外来だけの限度額が定められ、70歳未満よりも給付が受けやすくなる。ちなみに、70歳以上で年収約350万円の人の1カ月の外来の自己負担額上限は、個人ごとに1万8000円となる。厚生労働省のサイトで上限額が調べられるため、参考にしよう。

また、原則として保険適用外の診療と保険適用の診療が混在する治療の場合は、保険適用部分も含め全額自己負担となる。しかし例外的に、厚生労働大臣が認めた一部の診療については、保険適用外との併用が認められ、給付が行われる「保険外併用療養費制度」もある。

その他にも「健康保険」「国民健康保険」では、入院時の食事や訪問看護などの費用、緊急時のタクシー代などの移送費、1児につき40.4~42万円支給される出産育児一時金、死亡した際の埋葬のための給付がある。

「健康保険」は治療のための休養や産休時の給与も一部カバー

「『健康保険』加入者だけが対象の給付もあります。例えば、被保険者が業務外の病気やケガで4日以上休み、報酬が出ない時に支給される傷病手当金。1日につき日給に相当する額(※2)の3分の2が、最長1年6カ月受け取れます。また、被保険者が産休を取り、報酬が出ない場合には、出産手当金として、傷病手当金と同等の計算方法で算出された額が、産前42日(多胎児の場合98日)、産後56日支給されます」

※2 支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30

傷病手当金や出産手当金は、基本的には「健康保険」の被保険者本人のみが対象の制度。「国民健康保険」加入者は、自分で備えておく必要があるだろう。

知っているようで知らない公的医療保険。どんな給付が受けられるのか、改めて確認しておくといざという時に慌てないで済むだろう。
(有竹亮介/verb)

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