教えて、お坊さん!“遺産”運用説法

“どこに何があるか”すらわからないケースも

故人の銀行口座からお金が下ろせない!?資産が“塩漬け”になってしまったら?

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人は生きているからこそ、働けるし、子を育てられるし、社会的な活動ができるのです。これは言うまでもないこと。

さらに実は、お金についても同じことがいえるのです。何も対策を講じずに亡くなってしまった結果、故人の資産を動かせなくなったり、行方がわからなくなったり、分けられなくなったり、いわゆる“塩漬け”になってしまうケースは少なくありません。

家族も親族も、故人の銀行口座からお金が下ろせない!

もっともよくあるのが、銀行口座です。金融機関は、口座名義人の死亡がわかると、相続人などが勝手に口座から引き落とすことのないように口座を凍結してしまいます。

遺言書さえあれば引き出せますが、もしもない場合、まず相続人全員で遺産分割協議をします。話がまとまったら遺産分割協議書を作成し、故人の出生から死亡までの戸籍謄本に加え、相続人全員の実印と印鑑証明書、現在戸籍が必要となります。それら全てを金融機関に提出することによって、ようやくお金の引き出しに応じてもらえます。

この一連の流れを見ただけでも、いかに手間のかかる作業であるかがおわかりいただけたでしょう。当然、葬儀費用を故人の口座に頼ろうと考えてもまず間に合いませんし、死亡後10カ月に発生する相続税の納税にも間に合わないかもしれない。

私も困り果てている遺族を多く目にしてきました。しっかりとした遺言書さえあれば、こんなことにはならないのです。

遺言書がなく、生前に財産の在り処を聞いていない場合、 預貯金の情報だけでなく他の財産についても“どこに何があるか”すらわからないケースだってあります。

タンス預金はもちろん、銀行の貸金庫にある資産はどうでしょう。誰も知らないまま、ひっそりと忘れ去られてしまうこともあるのです。

そもそも貸金庫も凍結されてしまうので、もし仮になかに遺言書が入っていたとしても、空けられるのは遺産分割協議が終わった後になってしまいます。

分けたいのに分けにくい、不動産という遺産

また塩漬けという意味では、“分けられない”場合も同じといえます。その最たるものが不動産。建物のない更地であれば話は別ですが、家やビルなど上物がある場合、うかつには分けられませんよね。そういった場合は、以下の方法で分割を試みます。

現物分割
財産目録の項目ごとに分ける、シンプルで一般的な遺産分割方法
換価分割
分けられない資産をお金に換え、分割する方法
代償分割
不動産など分けられないものを誰かが相続し、替わりに相当額のお金を支払う方法
共有分割
分けられないものを分けずに相続人の“共有財産”と見なす方法

これらの方法を駆使して上手に分けられればいいですが、いさかいが起きそうなニオイがしませんか? 実際に建物の分割相続はトラブル事例が山ほど多くあります。その逆で、「相続したくない」と考えて不動産を押しつけ合うなんて事態もあるのです。

誰も「相続しない」という悲しい事態も続発

受け継ぐべき土地を代替わりで手放すなんて寂しいことですが、未相続物件として放棄を選び、所有者がいなくなった結果、“誰のものでもない土地”と化してしまうケースは数多くあります。

そしてこの事態が全国的に多発している現在、社会問題になっています。そうなるくらいならいっそ売ってしまったり、自治体に寄付してしまうのもひとつの手です。

あるいは証券についても然り。長く保持してきた証券を、故人の意志に反して現金化したり、代がわりして証券会社や懇意の担当者との繋がりが切れてしまうのは仕方のないことでしょうか。人の縁が途切れてしまうのは、悲しいことでもあります。

これは禅語で、人が生きるこの世界において、人生の灯火は大きな光である反面、無常にも一瞬のできごとであるということを示しています。ゆえに何ごとも急がねばならないのです。

人生100年時代を迎え、寿命が仮に10年延びたからといって、それが幸せに繋がるわけではありません。命が無限に続くわけではないのです。

ご自身が、あるいは親の世代がいつまでも元気であるというのは幻想です。ならばこそ備えがいかに大切か、論を待たない事実です。ちゃんと考えてちゃんと繋ぐ。かけられる時間が長ければ長いほど、その大仕事は楽になるのです。

 

(取材・執筆:吉州正行、イラスト:石井あかね)

 

【Profile】

僧侶・吉州正行
埼玉県で寺院を運営する現役僧侶。数多くの葬儀を引き受けるなかで、相続の問題を数多く目の当たりにし、僧侶の視点から終活の資産運用について考えることを奨励する。団塊世代が高齢化する今後、相続問題が全国的に多発することを危惧する。

監修:岡野雄志
日本トップクラスの相続税還付実績を誇る、正確な土地評価と税務署との交渉力が強みの相続税専門の税理士事務所「岡野雄志税理士事務所」代表。日本全国で数多くの相続税の案件に携わってきた相続税申告、相続税還付や相続税対策など、相続に関するスペシャリスト。
https://www.souzoku-zei.jp

 

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