アジアREITの魅力
提供元:日興アセットマネジメント
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<ここがポイント!>
■ REITの魅力は、長期で安定したキャッシュフロー
■ アジアの不動産への長期投資が持つリスク・リターン比較
■ 物件の選別はプロに任せる
REITの魅力は、長期で安定したキャッシュフロー
先日、FRB(米連邦準備制度理事会)が10年半ぶりの政策金利引き下げを行うなど、世界的に低金利環境が続きそうだ。その中で、REIT(不動産投信)の相対的魅力が注目されている。まずは、REITの商品性を知ることが重要だ。
REITは株式と異なり、利益を内部留保して成長投資に回すという仕組みではない。増資などで投資物件を増やすことはできるが、家賃として受け取った収入は、コストを除いた後、原則としてほとんどが投資家に分配される。
例えば、東京・丸の内の「大家」さんが持つ不動産(オフィスビルなど)をREITにすれば、基本的に家賃から得られる収入がREITに分配される。しかし、仮に「大家」さんが株式会社であれば、その収入の大部分を成長のために留保し、横浜辺りの開発などに回し、株式会社の株主には分配されないかもしれない。
逆に言えば、REITは償還期限がないという意味で株式に似ているが、利回りを重視するという意味で債券と似ている。このように、基本的に分配する仕組みであることは、成長よりも安定を志向するということだ。
アジアREITを代表するシンガポールREITは、高い分配金利回りを維持している。シンガポールの金利水準が高いこともあるが、同程度の金利水準である米国と比べて利回りは高い傾向にある。
アジアの不動産への長期投資が持つリスク・リターン比較
REITは、不動産保有による独特のリスクがある。「大家」としてのリスクは、まず空室リスクだ。空室リスクについては、まず経済が安定的に成長しており、店子(テナント)候補が増えていることが望ましい。
シンガポールや香港を中心としたアジア主要国は、経済的に先進国レベルの生活水準であり、住宅にせよオフィスにせよ安定した経済を背景に、成長が見込まれる中国に近接するメリットも享受できる環境にある。
興味深いことに、シンガポールと香港のREIT(指数)のリスクに応じたリターンの程度は比較的高い。同程度のリスクがある日本のREITや日経平均株価に比べ、リターンは(2005年12月から2019年7月の期間)高い傾向にある。REIT市場が整備され成長していく一方で、安定的に成長する経済への信頼も反映したとみている。
変動の大きかった過去5年(2014年8月~2019年7月の期間)だけをみると、香港REITは、18.5%のリターンに対してリスクは15.5%の投資成果を示した。NYダウ工業株30種はリターン10.4%、リスク12.2%とリターンが高い分リスクも高かったが、シンガポールREITは、リターン9.5%、リスク9.7%と投資成果の高さを示している。
リスクとリターンの関係が他の市場と異なることで分かるように、アジアREITは他資産との併せ持ちにも適している。例えば、日経平均株価とNYダウ工業株30種のリターンの相関は0.66と高いが、REIT同士(シンガポール、香港、日本、米国)はおおむね0.34~0.58と低めだ。また、シンガポールREITと日経平均株価の相関は0.58で分散対象になりそうだ。(数値はグラフと同期間、月次)
ここでの分析は、すべて現地通貨建てで為替の影響を含めていない。シンガポール・ドルについては、通貨バスケットに対して固定的に運営されており、基本的に米ドルと同方向に動くと想定される。香港ドルについては、米ドルとペッグ(固定的に運用)されているので、基本的に米ドルと同様に動く。
香港ドルと米ドルとのペッグをやめる時が来るのか、といった質問を受けることがあるが、中国にとっては香港が世界的な金融センターであることが一国二制度の理由の一つでもあるから、香港を人民元だけの市場にする可能性は低い。仮にユーロや人民元を含む通貨バスケットになる日が来るとしても、一時的な変動を抑える工夫はなされるはずだ。
物件の選別はプロに任せる
さて、REITの経営については、不動産経営と同様、住宅用マンションやビルであれば、ロビーなど共有部分のリノベーションなどで空室リスクを抑えようとするだろう。また、良い物件を選び、建物寿命が短い物件や周囲の環境が悪化した物件などを売却するなども、REITの運用で行われる。シンガポールでは政府の不動産供給の情報なども重要だ。
香港のデモやゼネストが話題となっているが、長期的な問題となる場合は、REITの運用者が個別の不動産の評価を継続的に行い、必要に応じて入れ替えなどを検討・実行することになろう。一般に民主化運動が、商業施設や住宅、オフィスなどが長期的な家賃収入の低下に見舞われるほどの問題に拡大するとは今のところ見ていないが、仮に不測の事態となれば、REIT運用者が適切な判断を下すことになろう。
このように、REITへの投資は、日本在住者が香港の不動産に直接投資するよりも、適切な判断がなされると期待できる。
(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)