「切手代」「自動車保険料」などなど…
消費増税の影響を受けない「非課税取引」なのに値上げの理由
2019年10月から、消費税が引き上げられる。軽減税率などの例外はあるものの、基本的には8%から10%にアップ。増税前に買っておかなければ…などと思う人もいるだろうが、すべてに消費税がかかるわけではないので、影響を受けないものもある。
今回は、非課税とみなされるものを紹介しながら、税理士の新井佑介さんに、消費増税後の非課税取引に関する注意点を教えてもらった。
「非課税取引」と定められている17項目をチェック
「消費税とは、『国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等及び外国貨物の引取り』に対して課税されるものです。ただし、税負担を強いるにはなじまない性格のものや社会政策的配慮から、非課税と定められているものもあります」(新井さん・以下同)
非課税となる取引は、法令で明確に定められている。順にみていこう。
(1)土地の譲渡及び貸付け
土地には、借地権などの土地の上に存する権利を含む。ただし、1カ月未満の貸付け及び駐車場などの施設の利用に伴って土地が使用される場合は、非課税取引に当たらない。
(2)有価証券等の譲渡
国債や株券などの有価証券、登録国債、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などが当たる。ただし、株式・出資・預託の形態によるゴルフ会員権などの譲渡は非課税取引に当たらない。
(3)支払手段の譲渡
銀行券、政府紙幣、小額紙幣、硬貨、小切手、約束手形などの金銭が当たる。ただし、これらを収集品として譲渡する場合は非課税取引に当たらない。
(4)預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等
預貯金や貸付金の利子、信用保証料、合同運用信託や公社債投資信託の信託報酬、保険料、保険料に類する共済掛金など。
(5)日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の受渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡
(6)商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡
(7)国等が行う一定の事務に係る役務の提供
国、地方公共団体、公共法人、公益法人等が法令に基づいて一定の事務に係る役務の提供で、法令に基づいて徴収される手数料。一定の事務とは、例えば、登記、登録、特許、免許、許可、検査、検定、試験、照明、公文書の交付など。
(8)外国為替業務に係る役務の提供
(9)社会保険医療の給付等
健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療などが当たる。ただし、美容整形や差額ベッドの料金及び市販されている医薬品を購入した場合は非課税取引には当たらない。
(10)介護保険サービスの提供
介護保険法に基づく保険給付の対象となる居住サービス、施設サービスなどが当たる。ただし、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は非課税取引に当たらない。
(11)社会福祉事業等によるサービスの提供
社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業、更生保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供。
(12)助産
医師、助産師などによる助産に関するサービスの提供
(13)火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
(14)一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け
義肢、盲人安全つえ、義眼、点字器、人工喉頭、車いす、改造自動車などの身体障害者用物品の譲渡、貸付け、製作の請負及びこれら身体障害者用物品の修理のうち一定のもの。
(15)学校教育
学校教育法に規定する学校、専修学校、修業年限が1年以上などの一定の要件を満たす各種学校等の授業料、入学検定料、入学金、施設設備費、在学証明手数料など。
(16)教科用図書の譲渡
(17)住宅の貸付け
契約において、人の居住用に供することが明らかなものに限る。ただし、1カ月未満の貸付けなどは非課税取引に当たらない。
上記の17項目は消費税がかからないため、消費増税の影響を受けないはずだが、そう単純なものでもないようだ。
「保険料」「医療費」は値上げの可能性大
非課税取引の中に、「日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡」とあるが、切手は消費増税のタイミングでの値上げが発表されている。なぜだろうか。
「切手そのものは非課税なのですが、切手を使って郵送するサービスに課税されるため、切手を買う時点でその消費税を負担する形になっているんです。そのため、消費増税の影響もダイレクトに受けます」
新井さんの話によると、そのほかの非課税取引に関しても、消費増税に合わせて値上げするものは少なくないという。
「保険料は非課税ですが、自動車保険料の一斉値上げが話題になりました。その理由は、車の修繕費は課税取引となるから。修繕費にかかる消費税が8%から10%に上がれば、保険会社が支給する金額も上がります。その分を保険料に転嫁するため、値上がりするんです」
同じ理由で、医療費や介護サービス費、福祉サービス費も値上げが予想される。厚生労働省が、医療機関等の消費税負担を減らすため、増税のタイミングで診療報酬と薬科の値上げを実施するから。保険診療は非課税取引だが、医薬品や検査器具などの機器設備の購入は課税取引に当たる。つまり、医療機関は経費については消費税を支払うが、売上については消費税を受け取れない。増税分だけダイレクトに負担が増すことを防ぐため、制度的な手当てが必要なのだ。
同様に、居住用住宅の家賃も非課税だが、2019年10月以降の更新時に値上げされる可能性がある。大家や管理会社が管理のために支払う諸々の費用は、課税取引となるからだ。
「非課税取引に当たるものが値上げする場合、単純に増税分2%の値上げというわけではないでしょう。消費者としては、事業者ごとに価格をチェックする必要があります」
「商品券、プリペイドカード」は影響なし
「非課税取引の中で、消費増税の影響を受けないと断言できるのは、『支払手段の譲渡』『商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡』くらいでしょう」
土地の譲渡・貸付けも非課税だが、土地だけを購入することは少ない。土地に建てる上物の建築費や仲介業者に支払う手数料などは、課税取引となる。
有価証券も、そのものは非課税であっても、証券会社に支払う手数料は課税取引に当たるため、消費増税の影響を受けるだろう。
「地方公共団体のサービスは、消費税の影響を受けない可能性が高いのですが、絶対とはいえません。サービスのために必要な備品の購入費などは課税されるため、値上げされることも考えられます」
意外と多い非課税取引だが、世の中はさまざまな取引で成り立っているため、消費増税の影響をまったく受けないものは少ない。来る増税に向けて、ある程度は覚悟しておいた方がよさそうだ。
(有竹亮介/verb)
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新井佑介
AAG arai accounting group 代表。慶應義塾大学経済学部卒業後、BIG4系ファームを経て現職。MASコンサルティングや様々な融資案件に積極的に関与している。