給与額のアップダウンは勤める企業の努力次第
2019年4月施行「働き方改革」で給与は増えた?減った?
2019年4月から、順次施行されている「働き方改革関連法」。時間外労働(残業など)の上限規制の導入、年次有給休暇の確実な取得、正規・非正規雇用労働者の不合理な待遇差の禁止という3つが、推し進められている。
ポイントの1つ目、時間外労働の上限は月45時間、年360時間が原則とされている。これまでその上限を超えて残業や休日出勤していた人は、給与が減ってしまうのではないだろうか。
データをもとに給与の変遷を探りながら、人事コンサルタントの山口俊一さんに、「働き方改革」が給与に与える影響について教えてもらった。
減った残業代は「賞与」で還元される可能性も
厚生労働省が出している「毎月勤労統計調査」から、働き方改革関連法施行前後の平均給与額を見てみよう。
●きまって支給する給与(定期給与)
2019年1月 25万9475円
2019年2月 26万1166円
2019年3月 26万3051円
2019年4月 26万6929円
2019年5月 26万2816円
2019年6月 26万5414円
このデータだけだと、働き方改革関連法施行前後で、給与額に大きな変化は見られない。時間外手当や休日出勤手当などが該当する所定外給与を見てみると、以下の結果が出ている。
●所定外給与(超過労働給与)
2019年1月 1万9218円
2019年2月 1万9722円
2019年3月 2万108円
2019年4月 2万486円
2019年5月 1万9688円
2019年6月 1万9568円
こちらもほとんど変化はない。働き方改革が進んで時間外労働に上限が設けられても、給与に影響はないということだろうか。
「さまざまな調査を見ると、働き方改革自体は進んでいますし、時間外労働の上限が設定されれば、残業代が減るのは当たり前です。ただし、これは大企業に限った話。中小企業に関しては2020年4月から施行されるので、影響が出てくるのはこれから。そのため、まだ数値としては出ていないのでしょう」(山口さん・以下同)
今後は、働き方改革によって、給与が減ってしまうということだろうか。
「大企業の非管理職で、特に残業が多かった人は、給与が減ったと実感するかもしれません。ただ、企業によっては、働き方改革で減らした残業代を、賞与として還元する制度を導入しています。まだ数少ない事例ですが、業績が安定している企業では、取り入れるかもしれませんね」
つまり、残業代が減ったとしても、ボーナスが増えて相殺される可能性もあるというわけだ。山口さんは、「この制度が広く導入されると、平均給与に関する調査にも影響は出ないでしょう」と話す。
「空いた時間で副業したい」と考える人が増加中
「長時間労働の是正が進むと、平日の夜帯や休日に時間ができるため、副業をしようと考える人も増えるはずです」
●副業を希望している人(就業者全体に占める割合)/総務省「就業構造基本調査」
1992年 290万2000人(4.4%)
1997年 325万人(4.9%)
2002年 331万4000人(5.1%)
2007年 345万7000人(5.2%)
2012年 367万8000人(5.7%)
2017年 424万4000人(6.4%)
山口さんが話すように、副業をしたいと考えている人は、増加の一途をたどっている。しかし、実際に副業をしている人が増えているわけではないようだ。
●副業をしている就業者(就業者全体に占める割合)/総務省「就業構造基本調査」
1992年 346万4000人(5.3%)
1997年 330万2000人(4.9%)
2002年 255万5000人(3.9%)
2007年 261万7000人(4.0%)
2012年 234万3000人(3.6%)
2017年 267万8000人(4.0%)
また、意外にも副業を容認しない企業が多いという調査結果も出ている。中小企業庁による「平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業」の報告書では、従業員の兼業や副業に関して、「推進している」0%、「推進していないが容認している」14.7%、「認めていない」85.3%。
「中小企業庁の調査は、5年前のもの。これまでは制度が曖昧だったため、『認めていない』とする企業も多かったのですが、国が副業を推進する政策を打ち出したこともあり、容認する企業は増えてきています。『業務に支障をきたさない』『同業他社では副業しない』など、条件付きで認めるところが多いですね」
時間も場所も制限されない副業のススメ
「副業をしている人の数は、調査では増えていないように見えますが、副業とは意識していない人も多いと思います。例えば、週末に実家の家業を手伝うとか、アフィリエイトで収入を得るとか。そういう人を含めると、もっと多くなると思います」
「中には、副業そのものを隠していて、調査で答えられない人もいるでしょう」とのこと。もし、勤める企業で副業が禁止されていれば、匿名の調査であっても答えにくいだろう。
「今は、副業しやすい環境が整っていると思います。クラウドソーシングサービスが増えているので、副業で時間が制約されません。文章が得意であればブログの執筆、ITスキルに長けていればアプリの開発など、パソコンさえあればいつでもどこでもできる仕事だと、始めやすいですよね」
働き方改革によってできたすき間時間を活かし、副業に乗り出せば、減るかもしれない残業代もカバーできるだろう。時間を有効活用した人が、生きやすくなる時代になってきているといえそうだ。
(有竹亮介/verb)
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山口俊一
新経営サービス常務取締役、人事戦略研究所所長。25年超に及ぶ人事コンサルタント経験を誇る。約500社の人事・賃金制度改革を支援してきた人事戦略研究所を立ち上げ、現在に至る。著書に『同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人-あなたの収入はどうなるか?』『3時間でわかる同一労働同一賃金入門』『社員300名までの人事評価・賃金制度入門』など。