フィンテックの最前線を追う!

板前とトラック運転手の経験を生かして…

お金のやりとりの“摩擦”をなくす「pring(プリン)」

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お金のやり取りを見ると、さまざまな場面で「手数料」が生じている。たとえば、クレジットカードの決済やATMでの引落とし、銀行振込など。そんな中、手数料ナシでお金のやり取りを可能にするサービスがある。お金コミュニケーションアプリの「pring(プリン)」だ。

プリンは、スマホアプリでお金を送る・もらうことが可能。また、QRコードを使ったお店の決済も行える。pring 代表取締役社長の荻原充彦氏は、これらのやり取りを「ほとんど無料で行えます」という。

そんな荻原氏は、かつて板前やトラック運転手も経験した異色の経歴の持ち主。彼が舵を取るこのサービスは、具体的にどんなもので、何を目指すのか。細かく聞いていった。

手数料をはじめ、お金の弱者が損をしない世界を


かつて、フィンテックとはまったく畑違いの業界にいた荻原氏。実は、その時の体験がプリンというサービスの根底にあるという。

「板前やトラック運転手をやる中で『お金の手数料って何だろう』と思うようになりました。たとえばクレジットカード。今は決済に3%ほどの手数料がかかり、お店側が負担しています。僕が板前をやっていた頃は、その手数料が約5%。でも、お店全体の利益率は8%くらいしかない。もし全員がクレジット決済をすれば、最終的な利益率は3%まで減ってしまうんです」

ATMも同様で、「トラック運転手の中には日中ずっと忙しく配達しているため、夜間にお金を下ろす習慣の方も。それだけで手数料を取られているケースがたくさんありました」と言う。こういった光景を見る中で、「手数料がかからず、摩擦なくお金のやり取りができる世界を目指したいと思った」と言う。そしてそれは「お金の弱者が損をしない世界」だと話す。


そんな思いから生まれたのがプリンである。機能は大きく3つ。1つ目は、ユーザー同士でお金の送り合いができる送金サービス。メッセージ機能もついており、割り勘や立て替えたお金の返済シーンなどで使われている。


「お金のやり取りはデリケートですし、相手がお金を借りたことを忘れていても『返して』とは言いにくいもの。メッセージ機能をつけたのは、金額だけでなくいつなぜそのやり取りが発生したのかわかりやすくする意味もあります」


個人間の送金において、手数料は一切かからない。さらに、アプリから銀行口座に出金する際も基本無料(楽天銀行のみ一部手数料がかかる取引あり)。また、アプリ提携口座がないユーザーも、郵送の本人確認を完了することで、セブン銀行ATMより現金で出金ができる。他サービスの多くは出金時に手数料が発生することを考えると、珍しいと言える。

働き方が変わる中で、お金の通り道のハブになる

2つ目の機能は「業務用プリン」。企業が個人のスマホに送金できるもので、24時間365日、いつでも送金が可能。大量の個人に向けて、1円から送金できる。

「企業の経費精算やお客さまへのキャッシュバックキャンペーンなどに使っていただいています。こちらは、通常よりも振込手数料を大幅に削減。今まで月1度だった従業員の経費精算を、週1度にするといったことができます。キャッシュバックについても、10円単位や100円単位など、これまで難しかった少額のキャンペーンを行いやすくなります」


業務用プリンを導入した日本瓦斯(ニチガス)では、歩合制であるガス検針員の業務委託費用を支払う際に活用している様子。支払いペースを個人の希望に合わせて細かくするなど、柔軟な対応ができるようになった。

3つ目の機能は、QRコードによる決済。こちらも手数料は格安で「他社のQR決済がおおむね3〜4%なのに対して、プリンは0.95%となっています」という。

ただし、決済機能については利用可能な店舗が決して多くない。荻原氏は「まずは決済よりも業務用プリンに力を入れている」と話す。

「私たちが最初に目指すのは、プリンにお金が入った状態の人を増やすこと。業務用プリンが普及すれば、経費精算などでアプリにお金が入る人は増えるでしょう。そういった状態のユーザーを増やしてから『決済できる場所』を拡大する考えです」

そうして最後に描くのは、このサービスが「お金の通り道のハブになること」。さまざまなお金のやり取りにおいて、プリンが経由地になるという意味だ。


「今後、働き方が変革する上でプリンの仕組みは生きてくるでしょう。これまでは1つの会社で働くのが一般的でしたが、誰でもつながる社会になり、個人が複数の組織で少しずつお金を稼ぐ働き方が増えるはず。お金の行き来が多様かつ細かくなる中で、摩擦なく行えるプリンは価値を持つと思います」

たとえば営業マンも「スペシャリスト化されるのでは」と荻原氏。契約までの“最後の一押し”がうまい人は、まるで野球のストッパーのように、最後だけ依頼されるフリーランスの「契約請負人」になるかもしれない。そういった社会になればなるほど、お金の受け取りも複雑化する。

そのとき、プリンの機能は生きてくる。手数料にフォーカスした弱者を救うサービスは、今後、新たな働き方を後押しする存在を目指す。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2019年10月現在の情報です

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