海外旅行の“あの悩み”がサービスに…
「ポケットチェンジ」が生む、次世代の貨幣流通とは
海外旅行から帰ったとき、多くの人が「余った外貨」の使い道に困るのではないだろうか。銀行などで日本円に両替すればいいのだが、面倒でそのまま……というケースも多いはず。
特に困るのは、外貨の中でも“コイン”について。多くの銀行や両替所では「コインの両替」ができない、あるいは手数料が高くつくため仕方なく保管し、「また今度行ったときに使おう」と思いながらずっと眠っていることもあるだろう。
この悩みを解決するサービスが拡大している。世界10カ国の通貨を、各国で普及する電子マネーに交換できる「ポケットチェンジ」だ。端末に外貨を入れて、交換先の電子マネーを選ぶだけ。たとえば米ドルを日本の交通系電子マネー(SuicaやPASMOなど)、楽天Edy、Amazonギフト券、nanacoなどに替えられる。うち5カ国は「コイン」の両替にも対応している。
このサービスにはどんな工夫が込められているのか。ポケットチェンジ社 代表取締役の松居健太氏に話を聞いた。
最速8秒? 究極のシンプルを実現したサービス
ソニー銀行が2015年に行った調査(※)によると、海外旅行で外貨が余った経験のある人は86.5%。その外貨を「そのまま持ち帰って保管している」と答えた人は63.1%にものぼり、平均額は1万8353円となった。
※2015年11月、ソニー銀行「海外旅行者の外貨についての意識調査」
こういった悩みを解決するのがポケットチェンジだ。空港をはじめ、ホテルや商業施設など、全国56箇所(2019年11月現在)に設置された緑色の端末で外貨を電子マネーに交換できる。
「本来は価値のある通貨なのに、国や環境によって使えなくなる。その状況を無くし、余った外貨をふたたび流通させるサービスです」(松居氏)
昔から、海外旅行で余った外貨、特に両替しにくいコインを処理するサービスを考えていたという松居氏。コインを別の外貨のコインに変えるサービスも浮かんだが「煩わしさを考えると、外貨を電子マネーに変えるのが良いと思った」という。
日本の電子マネーに交換するのはもちろん、たとえば日本を訪れた外国人が母国へ帰る際、日本円をアメリカや中国、韓国などで普及している電子マネーやギフト券に変えることもできる。あるいは、日本人が海外へ行く際、日本円を海外で流通する電子マネーに変えて現地で利用する形もある。
ポケットチェンジの特徴は、とにかく簡単に交換が済むこと。決して大金ではない、小銭の両替を念頭に置いたからこそ、「少しでも煩わしければ、わざわざ利用しなくなる。シンプルでスピーディな設計にこだわった」。実際、交換の操作はきわめて簡単だ。
まず、どの電子マネーにするか「交換先」を選択し、次に外貨を投入。直近の為替レートを元に設定された交換レートをもとに金額が算出される。Suicaなどに交換する場合は、自分のカードを読み取り機にかざすと金額がチャージされる。ギフト券やクーポン券の場合は、コードなどが記載されたレシートが出てくるので、各々で手続きを行う。
さらにシンプルな操作を実現できるよう、こんな工夫もあるという。
「ポケットチェンジでは、複数の硬貨を1度に交換できます。米ドルや中国元、ユーロを一緒に入れても、端末内で各国の外貨を分別しレートを計算。総額を出して交換します」
また、コインの投入口も大きくし「1枚ずつではなく、一気に何枚もコインを入れられるようにした」とのこと。ユーザーの中にはたった8秒で取引を完了した人もいたようで、「おそらく最速記録」と松居氏は笑顔を見せる。
「ポケペイ」との連動で、電子マネーは次のステージへ
同社では、ポケットチェンジに続き、新たなサービスもローンチしている。「ポケペイ」だ。個人商店や地域の商店街など、誰でも簡単にオリジナル電子マネーを発行できるプラットフォームで、発行された電子マネーはユーザーのスマホにチャージされる。
近年出ているキャッシュレスアプリと同様、QRコードを使って決済をしたり、ユーザー同士で電子マネーを分け合ったりということも可能。ポケペイの専用アプリを使ってもよいが、「自社のアプリに自社マネーのウォレットを組み込めるのが特徴です」と松居氏。何より、初期開発費用や決済手数料は無料だ。
そして、ポケペイはポケットチェンジ端末との連携で、大きな価値を持ってくるという。
「ポケペイで作った電子マネーは、ポケットチェンジ端末との互換性があり、端末からオリジナル電子マネーのチャージができます。たとえば、宮城県塩竈市がポケペイで作った地域マネー『竈コイン』は、JR仙台駅やJR本塩釜駅のポケットチェンジ端末でチャージ可能です」
竈コインは、塩竈市内の加盟店で使えるもので、割引やキャンペーンなどの特典がある。となると、海外からの観光客だけでなく、日本人観光客が塩竈市を訪れる際も、ポケットチェンジで竈コインをチャージして活用するパターンも出てくる。
「さらに、こういった電子マネーも期間内に使い切るのは難しいもの。そこで、竈コインの余りをSuicaにチャージ(1竈コイン=1円)する機能も入れました。互換性を持たせて、異なる場所でも使えるようにするのは、外貨でもオリジナル電子マネーでも同様です」
ポケットチェンジの端末は「今年中に60〜70台の設置を目指す」と松居氏。同時に、ポケペイによるオリジナル電子マネーも増やしていく。それが進めば、全国にある緑色の端末を起点に、次世代の貨幣流通が起きるかもしれない。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2019年11月7日現在の情報です