フィンテックの最前線を追う!

一貫したデータ保護へのこだわり

企業が注目する、家計簿「Moneytree」のコア技術とは

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近年、フィンテック領域のサービス開発が相次いでいる。一方、フィンテックの”老舗”と言える企業、比較的歴史の長いサービスも“次のフェーズ”へと移っている。代表例が、資産管理サービスの「Moneytree」だ。

2013年にローンチされたMoneytreeは、銀行口座やカード、電子マネー、ポイント、証券など、さまざまなお金の取引を自動で一括管理するもの。家計簿サービスの代表格といえる。

しかし、ローンチから6年。「弊社のメインビジネスは、Moneytreeの技術を使った別のサービスに移っている」。こう語るのは、マネーツリー社 代表取締役のポール・チャップマン氏だ。一体どういう意味なのか。進化するサービスの最前線を聞いた。

広告表示のない無料サービスを作った理由は?

「Moneytreeは、さまざまなお金の取引データを集めて一元管理するサービスと言えます。各種取引の明細を収集し、AIが自動で仕分けを行う。複数の取引情報を一括表示する『アカウントアグリゲーション』という技術です」

今となっては、このようなサービスは決して珍しいものではない。実際、類似の家計簿サービスを使っている人もいるだろう。

ただしMoneytreeには、ローンチから貫いてきた大きな特徴がある。サービスの中で広告表示が一切ないことだ。そしてその根底には、「個人データ」への強いポリシーがある。

多くの人が知っているように、Webサービスに表れる広告は、ユーザーがそれまで閲覧したWebページや入力したキーワードをもとに、興味を予測して表示されるケースが多い。これはつまり、そのユーザーの“行動データ”が配信主にわたり、広告が選ばれていると言える。

「私たちのサービスでは、お客さまのデータが“本人の知らないうち”に第三者へ渡ることはありません。お客さまが承諾した場合のみ、その相手先にだけデータを提供する。グレーではなく、白黒はっきりしたデータ活用のシステムを構築してきました」

近年、個人データの保護や活用方法の議論が活発になっていることは、このサイトでも何度か触れてきた。ヨーロッパが進める「GDPR(一般データ保護規則)」や、日本で始まった「情報銀行」の考えはまさにそれだ。個人データが知らぬ間に第三者へ渡ることを防ぎ、ユーザーが承諾した相手にのみデータを渡すのが基本概念である。

そんな流れもあり、最近はデータ利用の禁止を選択できるサービスも増えたが、Moneytreeは、そもそも初期設定からデータを活用しない形。チャップマン氏は、このこだわりについて「単純に、私たちが使いたくないサービスを作りたくなかったから」と言う。

Moneytreeで広告表示がないのは、その“材料”となる個人データを活用しないというポリシーの現れでもあるのだ。

Moneytreeに使われている技術を提供

しかし、個人データを活用せず、広告表示もないとなると、サービス内で利益を上げるのは簡単ではない。Moneytreeの有料プランも出てはいるが、冒頭で述べた通り、同社の利益をメインで担うサービスは他に移っている。Moneytreeの機能を使った「MT LINK」だ。

「MT LINKは、Moneytreeの根幹である『さまざまな取引データを集約して、AIが自動仕分けする』という機能を切り出してオープン化したものです。企業が行う多数の取引について、一括管理が可能。銀行が提供するアプリや会計ソフト、クレジットカードの利用明細をもとにしたおつり投資(※)など、さまざまな企業が導入。サービスや財務管理に活用しています」
※近年増えている投資サービスのひとつ。クレジットカードの利用明細をもとに、たとえば「1000円で支払った場合」と条件設定すると、支払い履歴1つひとつに対して「1000円で支払った際のおつり」を計算。その額を投資に回すサービス。

つまり、Moneytreeのコア技術をMT LINKとして提供し、企業が有料で導入しているのだ。現在、金融機関25社を含めた55社の企業が取り入れているとのこと。たとえば、三井住友銀行が個人に提供する「三井住友銀行アプリ」では、アプリに搭載した家計管理サービスにMT LINKを活用。会計ソフトの代表である「弥生シリーズ」でも、銀行取引や請求書などの取引データを自動で取り込む機能にMT LINKが使われている。

さらに、こんな活用もあるという。

「たとえば、ある企業が銀行に融資を依頼する際、MT LINKで自社の詳細な取引明細を管理していれば、それをもとに銀行は企業の財務状況を細かく把握できます。しかも、これまでは数ヶ月前までしか把握できなかった取引履歴も、データがある限りはどこまでもさかのぼれる。銀行は、信頼できる詳細な情報をもとに的確な融資判断を行えます」

ここでも核になるのが、データ保護の観点。MT LINKの特徴も、集約されたデータが厳重に保護され、同意のもとでしか相手にデータが渡らないこと。その厳重なシステムがあるからこそ、多くの企業が導入を進めているのだろう。まさに創業から貫いてきたポリシーが、マネーツリー社の価値となっている。

チャップマン氏は「金融関連のサービスは“手間”がたくさんある」という。「私たちの敵は手間。手間を倒していきます」と笑顔で言い切る。MT LINKも、手間を倒すための技術だ。

「1つ例を挙げましょう。日本では、法人企業が銀行口座を開設する際、必ず一度は金融機関の担当者と面会する必要があります。それはおそらく信頼のためですが、もちろん手間はかかりますし、面会したからといって、出せる情報が特別増える訳ではないですよね。実際に会うことが必ずしもベストとは限りません。それなら、MT LINKで詳細な取引データを渡す方がずっと信頼できるはずです」

テクノロジーを活用し、すべての人に平等に金融サービスを提供する。「それがフィンテック企業の使命です」とチャップマン氏は言う。

Moneytree、そしてMT LINKと、既存の金融サービスにある手間を取り除くために進歩するサービス。そしてその裏には、企業が貫き続ける「データ保護」のポリシーがある。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2019年11月現在の情報です

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