貯まった企業ポイントは商品に交換
褒める文化をつくるチームワークアプリ「RECOG」
近年、「社内通貨」と呼ばれる概念が生まれているのをご存知だろうか。社内通貨とは、いわば企業の中で作られた独自のポイントのこと。たとえば、優秀な社員がポイントを貯めると、それを給料に換えたり、ポイントで商品を購入したりできるというものだ。
では、どうやって企業のポイントシステムが作られているのか。それを支えるサービスの一つが「RECOG」。社員への感謝や称賛をSNSのように伝えられる社内コミュニケーションツールだ。
一人一人が相手に送れるポイントを持ち、「レター」という機能で感謝のメッセージとともにポイントを送る。そのポイントが貯まると、市販の商品などに交換できるのだという。
「もともとは、弊社の中で使うために作ったシステムです。しかし、テレビなどで紹介されるうちに他社からの問い合わせが増加。対外的なサービスとして展開しました」
こう語るのは、RECOGを開発したシンクスマイルの代表取締役・新子明希氏。なぜこのようなシステムが今求められているのか、その背景を聞いた。
なぜ今、企業は「褒める文化」を作りたいのか
RECOGの説明に入る前に、そもそもなぜ「褒めるツール」を求める企業が多いのか。新子氏はこう説明する。
「インターネットの検索ワードに『仕事』と入れると、その次に出る予測ワードは『行きたくない』『つらい』など、ネガティブなものが多い。実際、調査をすると約8割の人が仕事にストレスを感じています。そのストレスの大きな原因が人間関係。特に多いのが『認められない』『感謝されない』といった感覚です」
逆に言えば、「仕事で満足感を得るには『自分の仕事が誰かの役に立っている』というフィードバックが必要」と新子氏。今、その要素を大切にする企業が増えているという。
たとえば、グーグルも“褒める文化”を大切にしている。3カ月に1回、本業以外で助けてくれた仲間5人までに、感謝のコメントと170ドルのボーナスを送れる。もちろん170ドルは“グーグル負担”。褒める文化にそれだけの価値を感じている証明であり、「企業戦略として褒める仕組みを作っている」と新子氏は言う。
RECOGも、そういった褒める文化を生み出すシステム。社員同士でのチャット機能やSNS機能もあるが、特色は「レター機能」だ。
「褒める文化を会社に根付かせる上で重要なのは『どんな行動を称賛するか』ということ。理想はその会社にとって優秀な人、つまり会社のビジョンやミッションにつながるバリュー(行動指針)を実践した人に対し、称賛が生まれなければいけません」
そこでRECOGでは、会社のバリューに合わせてレターをいくつかの種類に分けることができる。たとえばシンクスマイル社では、企業理念に合わせて3種類のレターを作成。それぞれをビジュアル化し、レターを贈る際にどれかを選択。さらに、1人あたり月1000ポイントが支給され、褒めたい社員にレターと共にプレゼントすることが可能。1回に送るポイント数は、12ポイント、24ポイント、48ポイントの3段階から選べる。
これにより「褒める文化を根付かせるとともに、その企業の理念が社員に浸透していく」と話す。
褒められ方を分析すると、個人の能力が見えてくる?
こういったレターのやりとりは、社員が見られる掲示板にも掲載される。そして、AさんがBさんに贈ったレターの内容を良いと思えば、閲覧者は「拍手」ができる。すると、レターの贈り手・貰い手両方に1ポイントが入る。
貯まったポイントは、市販品を含めたさまざまな商品に交換可能。企業ごとに独自のギフトサイトを作ることもできる。1ポイントあたり何円に換算するかは企業ごと決められるようで、シンクスマイル社の社内システムは「1ポイント3円」としているようだ。
そのほか、同社では一定期間におけるポイントランキングなども発表し、上位者には景品をプレゼント。ポイントを軸にしたモチベーション施策も行っている。
こういった称賛のやりとりが可視化されると、そのデータをもとに個人やチームの状態を分析できる。この「分析機能」もRECOGの大きな長所だろう。
たとえば個人の場合、贈ったレターの数や添えたメッセージ、相手の反応を分析する。その上で、個人の能力特性をグラフ化していく。さらに、他者からもらった称賛のメッセージをAIが読解。「尊敬」「感謝」「信頼」の要素がどれだけあるかを数値にしていく。
これらをもとに、たとえばマネージャー適性の高さや仲間との関係性を測る。こういった分析を月次レポートにまとめる機能もあるという。
「これまでは、数字で表しにくい“定性評価”を人事担当者が付けていました。しかし、人が人を評価する以上、そこにはどうしても偏りや傾向が生まれてしまいます。RECOGの大きなミッションは、定性評価をテクノロジーで定量的に数値化することです」
たとえば半年に1度の人事評価では、期末に成果を出した人の印象がどうしても強くなる。それは“人が行う”からこそ。ここをシステム化することで、より正しく評価していく。
社内通貨の概念を使い、褒める文化を生み出す。それはあくまでRECOGの第一段階かもしれない。その先には、理想的な組織の構築を見据える。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2019年12月現在の情報です