社員からの感謝が給料に
企業の新しいインセンティブを生んだ「Unipos」
会社の規模が大きいほど、拠点が分かれていたり部署が多岐に渡っていたりで、“実はよく知らない”社員が多いもの。「名前は知っているけど、具体的にどんな仕事をしているのかわからない」「よく仕事でやりとりするけど、きちんと話したり、改めて感謝を述べたりしたことはない」。こんなケースもあるはずだ。
そんな中、「社内通貨」を使って社員同士がよりお互いを理解し、つながりを強くするサービスが出ている。「Unipos(ユニポス)」である。
社内通貨とは、社員が使える独自のポイント。ユニポスは感謝の証として社員同士がポイントを送り合えるサービスだ。貯まったポイントは成果給(ピアボーナス)となり給料に換算することができる。
このシステムが、なぜ社員同士のつながりを強くするのか。Unipos社の代表取締役を務める斉藤知明氏に聞いた。
遠くの社員に送った感謝のメッセージに、大量の拍手が
まずはこのサービスを作った背景について、斉藤氏が説明する。
「大きい会社ほど、人事や上司は、社員を組織の“一部分”としか見ていないこともあります。すべての社員に目を行き渡らせて、一人ひとりを評価するのは難しい。では、社員を一番知っているのは誰か。それは、いつも一緒に働いている人、隣で仕事をしている人です。であれば、近い社員が感謝や賞賛を自由に送って評価し合える組織をつくりたい。そのやりとりを可視化しようとユニポスが生まれました」
ユニポスは、SNSのような形で社員同士が感謝のメッセージを送れる。そのやりとりはタイムライン上でシェアされ、共感した投稿には「拍手」ができる。
「しかし、メッセージと拍手の機能だけでは参加動機が生まれにくいでしょう。『口で言えばいいじゃん』となりかねません。とはいえ、実際に感謝を口にするのは難しく、組織の強化につながらない。そこで導入したのが『ピアボーナス』です」
ピアボーナスが、冒頭の「社内通貨」に当たるもの。社員一人あたり週に400ポイントを与えられ、感謝のメッセージ1回につき最大120ポイントまで送れる。また、他の人のメッセージに拍手をした場合も、メッセージの投稿者と受け手にそれぞれ1ポイントが送られる。
ポイントは、給与に換算可能。1ポイントあたりの換算金額は導入企業で決められ、「現状は1ポイント1〜3円が多い」と斉藤氏は説明する。
2017年6月のローンチ以降、メルカリやDeNA、マイナビなどが導入。ユニポスをきっかけに、新しい社員のやりとりが生まれているという。
その一例が、導入した「カクイチ」での出来事。同社は、倉庫やガレージの製造販売などを手掛ける老舗企業。国内に28の営業拠点、3工場、77店舗のショールームを持つ“分散型”の組織で、それゆえに離れ離れの社員が交流する機会が少なかった。
この課題を背景にユニポスを導入したところ、こんなことが起きた。あるキャンペーンを実施する際、いつも通り販促用のチラシを各店舗に配布すると、一人の社員がチラシの作成者に感謝のメッセージを投稿した。すると、さまざまな店舗から40を超える拍手がついたのだ。
メッセージをもらった女性は、同社で販促ツールを20年作ってきたが、こうして感謝を伝えられたのは初めてだったという。「涙が出そうになるほど嬉しかった」と話したようだ。一方、各店舗の社員にとっても、遠い場所で働く社員に感謝を伝える機会が少なかったのだろう。
心の中で思っている社員への感謝や何気ないメッセージ。そのきっかけをつくり、可視化するのがユニポスと言える。
ユニポスに「返信機能」が無いのはなぜ?
社員がユニポスを積極的に使い、つながりを強くするために、サービスには細かな工夫が施されている。たとえば、ユニポスには返信機能がない。感謝のメッセージには6種類のスタンプでリアクションできるのみで、「メッセージありがとうございました」などの言葉での返信はできない。
「返信機能があると『お礼』や『お返し』が義務になりかねません。上司からメッセージをもらった場合はなおさらです。素直に相手を讃えるには、押し付けがましくなく、心地良いコミュニティであることが前提。そこで返信機能は付けませんでした」
また、社員の投稿したメッセージが流れるタイムラインにも工夫がある。ユーザーと関係の近い社員の投稿はくまなく表示し、関係の遠い社員の投稿は「共感性の高い投稿」をピックアップして掲載。表示される投稿が多すぎると、きちんと読まなくなる。そのための工夫だ。
たとえば、関係の近い人の投稿は「部署ごとに投稿をフィルタリングできるので、関連する部署はすべて表示できる」と斉藤氏。一方、関係の遠い人の投稿は、機械学習を使って共感を呼びそうなものを分析。上位の投稿をピックアップして表示する。
着々と導入企業が増えるユニポス。働き方が多様化し、リモートワークや時短が普及すると、社員が顔を合わせる時間も減っていく。その中で、どう組織のつながりを強くするか。ユニポスにかけられている期待は大きい。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2019年12月現在の情報です