年末調整で申告し忘れてもカバーできるって本当?
サラリーマンが「確定申告」する時の注意点
企業に勤め、給料をもらっているサラリーマンは、企業側が正式な所得税を計算して精算してくれる、「年末調整」という制度がある。そのため、「確定申告」は必要ないのだ。
年末調整では、保険料控除や小規模企業共済等掛金控除、2年目以降の住宅ローン控除など、税負担を軽くできる「所得控除」の申告が可能。では、もし年末調整で申告し忘れた場合は、どうすればいいのだろう?
「年末調整」で忘れても「確定申告」で申告可能
「年末調整で申告し忘れても、確定申告で申告できるので、心配しなくて大丈夫。年末調整は、確定申告の簡易版と考えましょう」
そう教えてくれたのは、税理士の高橋創さん。税務相談では「年末調整で住宅ローン控除を入れ忘れた」「後から生命保険料の控除証明書が出てきた」というものもあるそう。
「年末調整で織り込む所得控除はすべて、納めすぎた税金が戻ってくる『還付申告』に入るもので、時効は5年あります。3月中旬の確定申告の期限にこだわる必要はなく、5年以内に申告しましょう」
2月中旬から3月中旬の確定申告期間、税務署は混みやすく、手続きにも時間がかかりやすい。あわてずに、確定申告期間が終わった後で申告する方が、税務署も丁寧に対応してくれることだろう。
iDeCo、ふるさと納税、医療費など「所得控除」あれこれ
「所得控除は、年末調整で申告できるものと確定申告でしか申告できないものがあります。いずれも還付であれば、時効は5年です」
●年末調整でも確定申告でも申告できる控除
・社会保険料控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
1年間に支払った保険料の金額に応じて、控除額が決まる。支払金額や控除を受けられることを証明する書類、または電磁的記録印刷書面が必要。
・小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済やiDeCo、企業型DCなどに加入している場合に受けられる控除。支払った掛金の証明書が必要。
・障害者控除
・寡婦(寡夫)控除
・勤労学生控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
配偶者や扶養する家族がいる場合、納税者自身や家族が障害者に当てはまる場合などに、それぞれ受けられる控除。控除額は、制度や収入額によって異なる。
・2年目以降の住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
住宅ローンなどを利用して住宅を新築、増改築した場合、返済1~10年目にかけて受けられる控除。2019年10月1日から2020年12月31日までに購入した場合は、13年目まで延長。
●確定申告でしか申告できない控除
・1年目の住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
住宅ローンなどを利用して住宅を新築、増改築した場合、返済1~10年目にかけて受けられる控除(2019年10月1日から2020年12月31日までに購入した場合は1~13年目)。1年目のみ、確定申告での申告が必須。住宅ローンの残高証明書、登記事項証明書、工事請負契約書または不動産売買契約書の写しなどが必要。
・医療費控除
年間の医療費が10万円を超えた場合に、受けられる控除。ただし、総所得金額等が200万円未満であれば、医療費が総所得金額等の5%の額を超えた場合に受けられる。
・寄附金控除
ふるさと納税など、特定寄付金を支出した場合に受けられる控除。
・雑損控除
災害、盗難、横領によって住宅や家財に損害を受けた場合に受けられる控除。控除の対象になる資産は、所有者が納税者本人か、納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が38万円以下の者。雑損失の金額は、税務署が発行している計算書で算出できる。災害の場合は、自治体が発行する罹災証明書が必要。
「住宅ローン控除は、もっともお得な制度なので、申告を忘れないように。ふるさと納税のワンストップ特例制度を使っている方は、確定申告の必要はありませんが、医療費控除や住宅ローン控除などを受けるために確定申告が必要になったら、ふるさと納税も一緒に申告しなければいけません。ワンストップ特例制度を使っているからといって、油断は禁物です」
企業に勤めているサラリーマンであっても、確定申告が必要になるケースもある。
・副業の利益が20万円を超える
・2カ所以上から給与を得て、年末調整が行われない方の収入が20万円を超える
・給与収入が2000万円を超える
・同族会社から給与をもらい、給与以外に賃貸料などがある
・給与が源泉徴収されていない
・不動産を売却し、利益が出た
・株取引で特定口座を指定していない
・株式や投資信託を売却し、利益が出た
・保険の満期金を受け取った
上記に当てはまる場合は、基本的に税金を支払うための確定申告が必須となるため、翌年3月中旬の期限までに申告を行う義務が生じる。
プライバシー保護のために確定申告を利用する方法も
「1年の間に結婚したり、親を扶養に入れたり、障害者になったりするなど、ステータスが変わったことを、勤めている会社に報告していないと、年末調整に織り込まれません。そのため、配偶者控除や障害者控除が受けられない可能性が出てきますが、これも確定申告でカバーできます」
高橋さんは、「必要に応じて、年末調整で申告しないという選択肢もある」という。例えば、離婚したことや子どもが障害を抱えて生まれたことなど、社内の人に伝えたくないプライベートなこともあるだろう。それを会社に報告しなければ、確定申告で個人的に精算することもできるのだ。
「年末調整の方が手続きはラクですが、自分のプライバシーを守るために確定申告を行ってもいいんです。最終的に、税金が精算できていればOK」
税金が戻ってくる可能性がある「確定申告」。年末調整で申告し忘れたからといって、取り返しがつかないわけではない。改めて、自分が利用できる所得控除を確認してみよう。
(有竹亮介/verb)
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高橋創
税理士。高橋創税理士事務所代表。東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業後、大原簿記学校税理士講座で所得税法の講師を6年間務める。平成16年に税理士試験に合格、平成19年2月に独立開業。著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』『図解 いちばん親切な税金の本19-20年版』。