教えて、お坊さん!“遺産”運用説法

今のうちから考えておきたい

いざというときの遺産運用の”作法”とリスク

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子どもに引き継ぐ遺産を、運用して増やそうと考えているのであれば、当然リスクについても考えておかねばなりません。「増やしたい」なら、「減ってしまう」という可能性もあるわけです。

では、相続の視点で考えたときに、どんなリスクに注意しておくべきかをお話ししましょう。万が一に備えるのですから、”もしも”についてもキチンと考えておきたいですよね。

リターンを見込みたくても、リスクの高い投資にはくれぐれも注意

相続においてもっとも重要なことは、大切な人に資産をしっかりと遺すこと。となると先物取引、FXなど、レバレッジをかけて大きなリターンの代わりに大きくリスクをとる運用は、資産価値が大きく下がってしまう可能性があります。ということは相続時に遺産が大きく減っている場合もあるわけです。

また一般的な株式投資については、成長性は期待できるものの、業績が安定していないような新興企業の株式は避けた方が無難かもしれません。また、為替リスクがある海外株より、国内株の方が安心でしょう。

投資信託についても、テーマ型ファンドや通貨選択型ファンドなどは要注意。そのテーマの流行りが終わると値下がりしてしまうようなファンドや、中身が複雑でコストの高いファンドなどは避けた方がよさそうです。売り時が難しい商品は被相続人としても扱いに困ってしまいますからね。

さらに相続を見据えるなら、毎月分配金型も不要でしょう。投資信託であれば、低コストであるインデックス型やインデックス型で組成されているバランス型投信を選ぶと良いかと思います。

国債や貴金属のような手堅い投資もオススメです

純金積立など貴金属への投資もいいかもしれません。特に金であれば、価格は比較的安定しており、安全資産と言われています。米国債、個人向け国債など安全性の高い、国債への投資も一案です。

そして死後発生する納税資金対策や受取人の指定ができ、なおかつ税制上のメリットもある死亡保険について考えておくことも重要といえるでしょう。

あらゆる選択肢に一長一短があります。手堅さを求めるのか、自身の生計も踏まえて考えるのか、あるいは「多く遺したい」と考えるのか。これまで様々な手段をご紹介してきましたが、さて、実際に死後、相続はどのような手続きを経て行われるのでしょうか。主立ったものについて押さえておきましょう。

相続手続きその1「銀行預金」

まず、金融機関へ連絡します。向こうも当然手慣れたもので、取引内容やケースに応じて具体的な手続きの案内があるでしょう。故人の口座はいったん凍結されます。そこで手続き方法に従って、残高証明の開示・照会請求を行います。

そして肝心の相続ですが、金融機関の指示に従って、戸籍謄本、手続き者の本人確認書類、通帳、キャッシュカードなど、必要書類を集めて提出します。また遺言がある場合は遺言書と検認済みの証明書が必要です。遺言書がない場合には、相続人全員の印鑑証明書や遺産分割協議書の提出をもって、引き出すことができます。

相続手続きその2「株式などの有価証券」

上場株式なら、担当した証券会社などに問い合わせればOKです。戸籍謄本、手続き者の本人確認書類、相続人全員の印鑑証明書や遺産分割協議書などの必要書類について指示があります。

ただ注意したいのが、上場株式を相続するには相続人名義の証券会社の口座が必要となることです。持っていないなら、新たに口座を開設する必要があります。株式を売却する場合は、名義変更後に売却するようにしましょう。

また非上場株式の場合は、証券会社を介さず直接株式を発行する会社とやりとりをすることになります。遺産分割協議書をもって会社とやりとりを進め、相続や分割を進めていく流れとなります。

相続手続きその3「家や土地などの不動産」

家や土地などの不動産を保有している人が亡くなって不動産を相続する場合には、登記の手続きが必要です。必要な書類を揃えて、不動産の所在地を管轄する法務局に所有権移転の登記申請書を提出します。一般的に必要になる書類は、登記申請書、戸籍謄本、住民票の写し、印鑑証明書、遺産分割協議書、遺言書などです。

リスクを考え、手続きも押さえてこその”備え”です

相続を意識した資産運用については、まず、「資産を守る」という観点と、次世代にスムーズに継承するという観点の2点が大切です。相続に手間取って売却のタイミングを逃し、損をさせるなんて本末転倒ですよね。

ものごとはすべて整えたと思っても、「完璧にできる」というケースの方が少ないように思います。それゆえにリスクを想定し、場合によっては運用し、さらに次の世代に渡す方法まで押さえて末期に向かうことが大切です。

それでも未練や不安が残るかもしれません。ただ、人生というものはそういうもので、葛藤は常につきまとう。仏教においては、これらは煩悩であると捉えます。

穏やかな老後の日々というのは、なかなか難しい時代に差し掛かっています。そして残された人たちのことを考えると、気が気ではない人もいるかもしれません。この言葉は、退屈なくらい平穏で変わらない日々がどれほど尊いかを表す禅語です。

「安閑無事」を求めるための選択肢は数多くあります。これまで私が語ってきた資産を運用することは、人によっては”平穏”とはほど遠い手段に思えるかもしれません。しかし安寧を求めるために、少しの手間を惜しまずに考えてほしいのです。

「他はこれ吾(われ)にあらず」です。誰かに託すのではなく、自分自身にしかできないことをして、資産を次に残す。なすべきことを終えてこそ、穏やかな老後と悔いのないゴールが待っていると思うのです。

(執筆:吉州正行、イラスト:石井あかね)

【Profile】

僧侶・吉州正行
埼玉県で寺院を運営する現役僧侶。数多くの葬儀を引き受けるなかで、相続の問題を数多く目の当たりにし、僧侶の視点から終活の資産運用について考えることを奨励する。団塊世代が高齢化する今後、相続問題が全国的に多発することを危惧する。

監修:頼藤太希
Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や月200万PV、160万UUの『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『SNS時代に自分の価値を最大化する方法』(河出書房新社)、『入門 仮想通貨のしくみ』 (日本実業出版社)、『人気FPが教える! 稼げるスマホ株投資』(スタンダーズ)ほか著作・共著・監修書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。twitter→@yorifujitaiki

監修:高山一惠
Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー(CFP)
2005年に女性向けFPオフィス、株式会社エフピーウーマンを創業、10年間取締役を務め退任。その後、株式会社Money&Youの取締役へ就任。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。著書は『税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)、『つみたてNISAでお金は勝手に増えていく!』(河出書房新社)、『パートナーに左右されない自分軸足マネープラン』(日本法令)など多数。twitter→@takayamakazue

用語解説

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