世界が抱えるさまざまな問題を言語化した「目標」
最近、目にする機会が増えた「SDGs」って何?
近年、さまざまな企業が経営課題として掲げるようになった「SDGs(エスディージーズ)」。「Sustainable Development Goals」という言葉の略称らしいが、何を指しているのだろうか?
気候変動リスクや金融を専門とする日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャーの村上芽さんに、「SDGs」について、教えてもらった。
17の目標から成る「持続可能な開発目標」
「『SDGs』は、『持続可能な開発目標』と訳されるもので、先進国も途上国も関係なく、世界全体で解決するべき環境・社会的問題を目標としてまとめたものです」(村上さん・以下同)
「SDGs」では、17の目標が掲げられている。
(1)あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
(2)飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
(3)あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
(4)すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
(5)ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
(6)すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
(7)すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーのアクセスを確保する
(8)包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
(9)強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
(10)各国内及び各国間の不平等を是正する
(11)包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
(12)持続可能な生産消費形態を確保する
(13)気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
(14)持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
(15)陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
(16)持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
(17)持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
「17の目標は、2015年9月25日に第70回国連総会で採択された『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』という文書に書かれています。2030年に向けた、全世界共通の持続可能な成長戦略の中心として『SDGs』が存在しています」
「SDGs」では、17の目標をもとに、169のターゲットも設定されており、そこから具体的な課題も見えてくる。その内容は、3年ほどの時間をかけて作られたそう。
「『SDGs』の策定過程には、欧米の民間企業や団体も入って検討されたといわれています。国連や政府がトップダウンで決めたわけではなく、民間の意見も取り入れて作られたのです」
17の目標、169のターゲットを見ていくと、日本国内で問題になっていることが取り入れられていないケースもあるが、それは日本だけに限った目標ではないからだ。
「現在の日本では、『介護』が社会的課題になっていますが、『SDGs』の169のターゲットの中で『介護』という言葉は一度しか出てきません。世界的に見ると、高齢化よりも栄養失調や交通事故の方がウェイトが大きいのです。世界全体を見据えた目標であることを、念頭に置いた方がいいでしょう」
気候変動や難民問題は影響し合っている!?
「SDGs」は2015年9月に採択されたが、その前身となる目標もあったそう。
「2000年に開催された国連ミレニアム・サミットで、『MDGs(Millennium Development Goals/ミレニアム開発目標)』が採択されました。『MDGs』には、貧困や飢餓の撲滅、初等教育の普及など、途上国を中心に2015年までに達成すべき8つの目標が組み込まれていました」
2015年までに達成した目標もあったようだが、なぜ先進国も途上国も含めた「SDGs」へとバージョンアップしたのだろうか。
「気候変動や生活の格差、紛争などが改善されないのは、あらゆる問題が関わり合っているからだと、世界全体が気づき始めたからです。そこで法的拘束力こそないものの、世界共通の包括的な課題を掲げようと『SDGs』が作られました」
例えば、シリアの難民問題は、気候変動の影響が大きいという。地中海の東側で深刻な干ばつが起こり、生活苦によって農村から都市に移動する人が増えた。また、仕事も食糧も不足して不安定な生活の人が増えると、政情不安につながりやすく、内戦の遠因となり、国を出ていく人が増えてしまった。
「ほかにも、紛争が起これば物流が止まり、さまざまな産業が影響を受けます。そのような問題が深刻化しすぎたため、世界規模で取り組まなければならない。省エネや難民対策を国レベル、個人レベルでやっているだけでは、間に合わない状況なのです」
現在はもう「SDGs」達成に動き出す段階
2019年9月、国連総会において開催された「SDGsサミット」では、ティジャニ・ムハンマド=バンデ第74回国連総会議長が「私たちは行動を起こし、ともに努力し、すべての人に利益をもたらさねばなりません」と述べた。
「2030年の『SDGs』達成に向けて、さまざまな対策の実行段階に入っているといわれています。日本の企業や団体も、取り組みに関して、いままで以上に厳しく判断されることになると思います」
「ただ、日本はまだ環境・社会課題に対する意識が、少しずつ高まり始めている段階」と、村上さんは話す。
「日本は、特にジェンダー平等や気候変動の分野で、後れを取っています。いまだ続いている石炭火力発電は、マドリードで開かれたCOP25(第25回気候変動枠組み条約締約国会議)で批判されたばかり。日本国内で、徐々にプラスチック利用や食品ロスに対する問題意識は高まってきていますが、表面の部分だけでなく、根本的にどう解決していくか、考えることが重要です」
世界中の全員に伝わるよう、課題が言語化された「SDGs」。この言葉に触れたことをきっかけに、勤める企業や所属する団体でできることを、考えてみてはいかがだろうか。
(有竹亮介/verb)
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村上芽
日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー。京都大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)勤務を経て、2003年に日本総合研究所入社。ESG投資の支援や気候変動リスク、子どもの参加論などが専門。著書に『SDGs入門』。