仮想通貨と投資

提供元:日興アセットマネジメント

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<ここがポイント!>

■ 仮想通貨とデジタル通貨
■ 投資対象としての仮想通貨は金投資と似ている(通貨ではない)
■ 人々が生み出す価値を反映する証券投資が王道

仮想通貨とデジタル通貨

最初に、3つのジャンルを知っておこう。

1.仮想通貨

ビットコインに代表される。これは、法定通貨または法定通貨建ての資産ではないので、通貨ではない。どこかの政府や中央銀行の裏づけはなく、米ドルなどとの換算レートは、一般の通貨のように交換業者が存在するものの、政府や中央銀行の権威で交換を保証されているものではない。「通貨」と呼ぶと本当の通貨と区別しにくいので、法的には“暗号資産”と呼ばれるようになった。

2.デジタル通貨

今年、日銀やECB(欧州中央銀行)など6中銀が共同研究に着手。政府が国家としての裏づけを持って発行するデジタル環境の通貨で、例えば、いつでも要求すれば日銀(あるいは市中銀行)が1万円と交換してくれるデジタルの1万円がスマートフォンの中に入っていれば、デジタル通貨と考える。仮に、将来紙幣がなくなったとしても、国や中央銀行が発行と総量を決めるという意味で(仮に米ドルや円などと呼ばなくなったとしても)通貨であり、国・中央銀行が流通を保証する

3.リブラ

フェイスブックが発行計画している。詳細はまだ不明だが、これまでの発表では、法定通貨を裏づけとしているので、デジタル通貨に含まれると考えられる。適切なバランスで米ドルやユーロなどを資金流入分だけ資産として持つのであれば、これが拡大して為替安定要因になる可能性がある(通貨別のアロケーションが安定している場合)。

交通系電子マネーなども法定通貨(例えばJR東日本のスイカなら日本円)に依存するが、いったんチャージすると通常は簡単にもとの通貨に戻せない(片方向)ので、通常はデジタル通貨に含まない。リブラは送金や決済に利用できるように設計するとしているので、デジタル通貨とみなすことができるが、実際にごく一部の商品などにしか使えない場合は、電子マネーとなってしまう。

逆に通常の通貨同様に送金ができる場合は、マネーロンダリングなどの恐れがあり、これまでの銀行システムの監督と同様の監視・指導などが必要になる、ともいわれる。

投資対象としての仮想通貨は金投資と似ている(通貨ではない)

ビットコインなどの仮想通貨は投資対象として考えてよいだろうか。各仮想通貨はそれぞれ性格が異なるので一言では言いにくいが、ビットコインへの投資は金投資と似ている。

まず、ビットコインは、マイニングという労働(ブロックチェーンにおける取引認証のためのコンピューター資源を利用)を行う対価として価値を持たせた暗号資産を配布した。アダム・スミスやマルクスなどの時代に経済の基本と考えられた労働価値説(今となっては労働で商品価値が決まるという説はあまり採用されない)に近い考え方で、価値を感じさせるというアイデアが人気を博した。

しかも、掘り出す総量があらかじめ決められており、ある時点から生み出されないことがわかっている。それが希少性を感じさせ、もうひとつの価値の源泉と考えられた。

仮に発行総量が決まっている「通貨」があるとすれば、特定の国や地域がこれを使うことは金本位制となることに似ている。金本位制が管理通貨制度に取って代わられたのは、経済成長が金に裏付けられた通貨の発行量によって制約されやすくなるためなので、総量が決まっている「通貨」は、現実的ではない。

逆に言えば、総量が決まったことで希少性を感じさせる仮想通貨への投資は金投資と似ている。米国の経済悪化で米ドルの価値下落が心配される場合、価値保存の手段として金や別の希少性・価値保存性のある何かの価値が上がりやすいからだ。しかし、このような「逃げ場」としての資金移動は、投資の本質とは考えにくい。仕組みとして仮想通貨が今後安定するとしても、分散対象としての保有であって、投資の中心ではない

このところ、仮想通貨の価格の上下動が激しい理由は、仕組みとしてどれがもっとも望ましいのか(発行量が増え続けるべきかなど)、その上でどれがもっとも人気があり入手しやすく決済しやすいかといった点がわからないからだ。淘汰される仮想通貨は今後取引システムなどが不安定になる恐れもある。

また、このような方法がマネーロンダリングなどに使われる恐れがあり、さまざまな規制の対象になる可能性もあるため、仕組みがどのように落ち着くか予想が難しい。しかし、長期的に見れば”勝ち組”の仮想通貨については、ボラティリティの低下が期待される。

人々が生み出す価値を反映する証券投資が王道

投資結論は二つある。

一つは、仮想通貨そのものは通貨や金などへの投資と似ており、投資機会の一つとして含めても良いが、そもそも人々が価値を生み出すことの分配を得ようとする証券投資とは異なることを知っておく必要がある。

株式投資は、投資先の企業の経営者や従業員が働いて獲得する付加価値の分配を期待する。事業そのものにリスクがあるので、金銭的な意味でそのリスクを取ることで、一般に、預金などよりも高いリターンが期待できる。しかし、通貨や仮想通貨、商品などは、そのような投資リターンの仕組みを持っていない。それゆえ、仮想通貨そのものに投資するより、仮想通貨の開発・取引やその背後にあるブロックチェーンなどの技術に注目し、そこで働く企業へ投資することの方が、投資の王道といえる。

もう一つは、IPOなどによる企業の資金調達が、ビットコインなどの仮想通貨で行われる可能性だ。既存通貨と銀行システムで広がりにくい仮想通貨で資金調達する、およびビジネスの成長が起こる場合に投資する、あるいはネット上のスコアリング型融資に資金を投じることなどが考えられる。サイバー空間上で新しいビジネスが誕生する場合、投資の対象は企業であっても利用する「通貨」が仮想通貨になる可能性はある。その場合、為替リスクを伴う海外株式への投資と似た性格を持つ証券投資となる。

いずれにしても、現時点では、仮想通貨そのものの仕組みが安定しておらず、将来どの仮想通貨が定着するのか、企業がその仮想通貨で資金調達などを継続的に行うかどうかがわからない。このような状況で「投資をする」ことは、よほど情報を多く把握し常に監視していくことが必要となる。

しかも、通常の証券投資には十分な投資機会があるので、あえて仮想通貨を使って投資する必要はないように感じる。ただ、忘れないようにしたいことは、ブロックチェーン技術やそれを使った新しい事業を起こす企業への証券投資はできる、ということだ。

 

(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)

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