世界共通語「ESG/SDGs」

超長期運用を安定させるカギは「金融市場の持続可能性向上」

年金運用機関GPIFが「ESG投資」を重視する理由とは

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2006年、当時の国連事務総長の呼びかけから生まれた「ESG」とは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った造語。投資家が投資先の価値を測る際、売上や利益率などの財務情報だけでなく、非財務情報である「ESG」の要素を考慮することを推進するため、生まれた言葉だ。

「ESG」の観点を用いた投資を「ESG投資」と呼ぶが、国内でも大手の機関投資家である「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が、「ESG投資」を重視している。GPIF広報担当の本多奈織さんに、その理由を聞いた。

将来世代のため、保険料の一部を運用する機関・GPIF

出典:GPIFウェブサイト(https://www.gpif.go.jp/)

そもそもGPIFとは、どのような機関なのだろうか。

「GPIFは、厚生年金と国民年金の給付の財源となる年金積立金の管理・運用を行い、その収益によって、年金事業の運営の安定への貢献を目指している機関です」(本多さん・以下同)

日本の年金制度は、現役世代が納めた保険料を、その時の高齢者に年金として支給する形で運営されている。今以上に少子高齢化が進んでいけば、現役世代の負担は大きくなっていく可能性がある。現役世代の負担が大きくなりすぎてしまうことを避け、年金制度を継続していく仕組みが存在するという。過去に使われなかった保険料を貯めてきた「積立金」で、不足分を補うのだ。

「年金給付が保険料収入や国庫負担(税金)でまかないきれなくなる将来に備えて、GPIFでは積立金の一部を運用しています。長期分散投資を実施してきたことで、2001年度から2018年度までの収益率は+3.03%(年率)、収益額は累積+65.8兆円、運用資産額は159.2兆円です」

積立金は、あくまでも将来的に年金制度を継続させていくための資金。その運用は、長期的かつ安定的に収益を出していくことが目的となっている。では、なぜ「ESG投資」を重視することにつながるのだろうか?

“企業の持続的な成長”“安定した運用”につながりやすい「ESG投資」

「GPIFが行う投資は、世代を超えた長期間のものです。また、私たちの扱うお金は、100年の財政計画の中で将来世代の負担が大きくなりすぎないようにする役割がありますから、長期的に安定しやすい投資である必要があります」

その点、企業の非財務情報を考慮する「ESG」は、長期的に企業価値の向上に影響する要素だと考えられている。また、資本市場は、長期的に見ると環境・社会問題の影響から逃れられないため、「ESG投資」を行い負の影響を減らすことは、長期的に安定した収益を得る上で重要だと考えられているのだ。

「GPIFが約160兆円もの資金をお預かりし、資本市場を幅広くカバーする“ユニバーサル・オーナー”であることも、『ESG投資』を推進するもう一つの理由になっています。例えば、GPIFが環境や社会への大きな負荷を省みず短期的に収益を上げるような企業に投資して、短期間のリターンを得られたとします。その結果、環境・社会問題が悪化し、ほかの企業の収益が阻害され、GPIFの投資企業全体から得られるリターンが減ってしまっては意味がありません」

その莫大な資金の源は、国民の年金保険料。「ESG投資」を通じて金融市場全体の持続可能性を高めることで、投資リターンを年金事業の安定につなげることが最重要課題なのだという。

「『ESG』に配慮することで、環境・社会問題が資本市場に与えるマイナスの影響を減らし、経済の持続的な成長につながれば、年金加入者の皆様に安定したリターンをお返しできます。そのため、GPIFは『ESG投資』を重視しています」

“指数”と“対話”で進める「ESG投資」

GPIFでは、どのような手法で「ESG投資」を進めているのだろうか。

「1つ目は、『ESG』への取り組みが進んでいる企業で構成される『ESG指数』の採用です」

現在、GPIFが採用している指数は、以下の5つ。上の2つが、国内株を対象としたESG総合指数。3つ目も国内株対象で、女性活躍の度合いに特化した指数。下の2つは売上高当たりの炭素排出量が低い企業に着目した指数で、国内株と海外株に分かれている。

・FTSE Blossom Japan Index
・MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数
・MSCI 日本株 女性活躍指数(WIN)
・S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数
・S&Pグローバル 大中型株カーボン・エフィシェント指数(除く日本)

「GPIFがこれらの指数を導入したことをきっかけに、企業に『ESG』に関心を持っていただきたいという意図もあります。より多くの企業が『ESG』の取り組みを強化し、企業価値の向上につながれば、長期的に投資リターンの改善に結びつく、と期待しています」

そして、GPIFが『ESG投資』でもう一つ大切にしていることが、「株主という立場からの企業との対話」。長期にわたって投資先企業の株を保有し続けるからこそ、企業価値の向上につながる対話が重要になってくるという。ただし、「GPIFは自身で株式投資ができない」と法律で定められているため、株式運用はすべて運用会社に委託しており、企業との対話も運用会社が行う。

「運用会社に、『投資する企業にESGに関する問題があると感じたら、改善のために企業に働きかけてください』とお願いしています。対話を通じて長期的な企業価値の向上につながれば、長期投資家として安定的なリターンの獲得が期待できますから」

ちなみに、GPIFでは「ESG」の観点で課題を抱える業種や業態に属する企業を、投資対象から排除する投資手法「ダイベストメント」は行っていないそう。

「そもそも法律で、特定の企業を投資対象から外すようGPIFが指示することはできない、と決められています。また、私たちが排除してしまうと、建設的な対話の意思のない投資家に議決権が移り、課題は解決されません。GPIFの投資家としての在り方から見れば、株主として対話を続けていった方が、合理的ではないかと考えています」

日本を代表する機関投資家・GPIFも取り入れている「ESG投資」という手法。これから、投資の主流になっていくことは間違いないだろう。
(有竹亮介/verb)

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