年金、親の遺産、iDeCo、労働…お金を確保する方法はたくさんある!
「50代で貯金ゼロ」でも間に合う老後の資産形成法
老後の経済的な不安が高まる中、50代に突入してから「貯金ゼロ」という状況に気づき、焦っている人もいるのではないだろうか。しかし、迫りくる“定年”は待ってはくれない。
では、50代から老後資金を生み出す方法はあるのだろうか。ファイナンシャルプランナーの川部紀子さんに、50代からでも間に合う老後資金の準備方法を教えてもらった。
夫婦2人の老後の生活費は「1億円」!?
「まずは、老後にどの程度の生活費がかかるか、知る必要があります。会社員だった夫60歳、専業主婦の妻58歳の夫婦と仮定して、総務省の『家計調査報告』(※)で確認すると、60代のひと月の家計は平均29万84円。70歳以上だと平均23万4628円です」(川部さん・以下同)
※「家計調査報告(家計収支編)平成29年(2017年)II 世帯属性別の家計収支(二人以上の世帯)」
夫婦で24万~29万円程度の生活費が毎月かかると想定すると、総計でいくらかかるのだろうか。
「『平成28年簡易生命表』で、亡くなる方が多い年齢を調べたところ、男性が87歳、女性が93歳。その年齢で計算してみると、60代の生活費が約3481万円。70歳から夫が亡くなるまでの18年間で約5068万円。妻が1人になってからの支出は夫婦の頃の70%と考えられるので、夫が亡くなった時の87歳から亡くなる93歳までの6年間で約1183万円。夫婦2人で、総額1億円は必要になるといえそうです」
ただし、老後には年金の収入があるため、その分は差し引いて考えて問題ないだろう。厚生労働省が発表している「平成31年度の年金額改定について」によると、夫婦2人分の年金額は月額平均22万1504円。60代の生活費は平均約29万円だから、6万8000円程度足りない。
「60歳で退職し、65歳から年金を受け取りはじめ、夫が87歳、妻が93歳で亡くなると仮定すると、夫婦で総額7000万円程度の年金を受け取る計算になります。つまり、足りないのは総額3000万円程度です。ただし、その3000万円は生活費なので、60歳の時点で全額を用意しておく必要はないことを、頭に入れておきましょう」
資産形成のため、定年後も「働く」ことを視野に入れよう
川部さんによると、「3000万円を用意する方法は貯蓄だけではない」とのこと。
「まず考えられるのは、『定年後も働く』という方法。仮に、60歳から夫婦合わせて年収300万円稼げたとしたら、10年で3000万円達成できますよね。65歳までの5年間働いて、1500万円稼ぎ、残りの不足分は貯蓄で補うという選択肢もあるでしょう」
妻が専業主婦の場合は、50代からでも働くことを検討した方がいいとのこと。妻が働くことで世帯収入が増え、ゆとりを持って老後を迎えられるからだ。
「50代に入ると、子育てがいち段落して、時間に余裕ができる女性も多いと思います。働きに出ることで妻にも厚生年金がつけば、年金額アップにつながるメリットもあります。現在の収入と将来の収入、両方にプラスに働くので、検討してほしいですね」
「将来の大きな収入」が家計を支える可能性大
働くこと以外にまずするべきことは、「将来の大きな収入を把握する」こと。例えば、定年退職時に受け取る「退職金」は、大きな支えになるだろう。厚生労働省の「平成25年就労条件総合調査結果の概況」によると、大学卒の退職金は平均2156万円。
「一般企業で退職金3000万円というところもありますし、大企業だとそれよりもっと多い会社もあります。中小企業でも、1200万円くらい出るところは多くあります。退職金が出ない会社もありますが、定年を迎える前に退職金の額を知っておくことは大事」
人事部に「モデルケースの退職金額っていくらなの?」と聞くと、相場を聞くことができるという。もし退職金がないことがわかれば、別の方法で資金を備える心構えができるだろう。
「『親の財産』も把握していない人が多いですが、金額によっては相続税などもかかってくるので、あらかじめ知っておく方が安心です。70代、80代だと、何千万円単位で貯蓄している方もいるので、遺産で老後資金がまかなえるケースもあります」
もし、親の貯蓄がほとんどないことがわかれば、親の介護が必要になった場合に、子どもである自分が費用を出さなければならない。あらゆる未来に備えるためにも、「退職金」「親の財産」は把握しておくべきといえそうだ。
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「退職金も親の財産も期待できず、定年後に働くことが難しい場合は、本気でお金を作る努力をしなければなりません。まず考えるべきは、『支出を減らす』こと」
家計を見直す際には、特に大きな額を占めている「保険」や「住宅ローン」に注目することが大切だ。不要な保険は解約し、浮いた保険料でローンを返済してしまうなど、無駄を省くことで老後資金に回せるお金が捻出できるだろう。
「『収入を増やす』ため、副業を考えてみてもいいでしょう。大げさなことではなく、フリマアプリでいらないものを売るだけでも、副業といえます」
そして、「会社の制度を活用する」ことも忘れずに。老後に向けて、貯蓄、運用できる制度も増えてきている。
「社内の貯蓄制度は、給料から天引きでやってくれるため、手間が少なく始めやすいです。また、突飛な制度は少ないので、安心感もあります。節税効果のある『企業型DC(企業型確定拠出年金)』があれば、フル活用してほしいですね。『企業型DC』がない場合は、『iDeCo(個人型確定拠出年金)』を最大額で始めましょう」
「企業型DC」のマッチング拠出、「iDeCo」は、掛金が全額所得控除される。例えば、「iDeCo」の拠出限度額月額2万3000円(一定のサラリーマンの場合)を掛けていれば、年間27万6000円が全額控除されるため、所得税や住民税を減らすことができる。浮いた分のお金を、老後のための貯蓄に回すこともできるだろう。
50代になってからでも、老後資金を備える方法はたくさんありそうだ。将来受け取れるお金を確認した上で、自分にあった資産形成計画を立てよう。
(有竹亮介/verb)
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川部紀子
FP・社労士事務所川部商店代表、ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。日本生命保険相互会社に8年間勤務し、営業の現場で約1000人の相談・プランニングに携わる。2004年、30歳の時に起業。個人レクチャー・講演の受講者は3万人を超えた。著書に『まだ間に合う 老後資金4000万円をつくる! お金の貯め方・増やし方』など。