世界中の新商品が集まる場所
リスクを抑えてアタラシイを生み出す「Makuake(マクアケ)」
ヒット商品は、今までになかったもの、新しいものから生まれることが少なくない。ただ、そういった新商品・新サービスを生み出す側には、さまざまなリスクがある。売れるかどうか、受け入れてもらえるか、利益が出るのか。だから、新しいアイデアが生まれても、販売に至らないことは多々ある。
そんな中、世の中にない「新しいもの」がデビューする場として成長しているサービスがある。「Makuake」だ。ウェブサイトには、まだ完成前の新商品・新サービス・新店舗が多数掲載されており、それが欲しいと思ったユーザーは「応援購入」という形で先行予約購入ができる。その予約をもとに、プロジェクトの実行者(出品者や発案者)は製作に取り掛かる。
この方式が、新しいものを生む際にリスクを減らす形として注目を集めた。マクアケ社の代表取締役社長を務める中山亮太郎氏は「“新しい”をもっと生み出せる世界の実現に向けて、Makuakeをその土壌にしたい」という。なぜ、このサービスが新商品開発のリスクを減らすのか。中山氏に聞いた。
作る前にテストマーケティングできるという価値
商品を販売するとき、これまでは実物を作ってから店頭やECで販売するのが一般的だった。しかし、Makuakeは量産に取り掛かる前の段階で概要や商品イメージ、試作品、サービスの特徴などを掲載。その内容に共感したユーザーが「応援購入」をすると、応援購入された数量を実際に製作して完成品を届けたり、サービスやお店であれば利用権を提供する。
「新商品は『売れるかわからない』リスクがつきものです。そのため、製作する企業やクリエイターはどうしても前例のあるもの、既存品に近いものを作らざるを得ず、販売を担う流通サイドも確実に売れる、予測の立てられる商品を求めていました。結果、思い切った新商品・新サービスを作りにくかったと言えます。しかしMakuakeでは、作る前の企画段階で消費者の反応を見られ、購入者を募れるので、少ないリスクで思い切った商品を作れます」
2013年にローンチしたMakuakeは、この形でさまざまな新しいもののデビューを支援してきた。たとえば、折り畳める電動バイクの「glafit」は、応援購入の金額が約1億2800万円に上った。1万円台から国産の腕時計をオーダーメイドできる「Knot」は、Makuakeで製作前の腕時計やブランドのコンセプトを広めて成長した。
中山氏は、あるときKnotの遠藤弘満社長から「Makuakeの価値」をこう伝えられたという。そしてそれが、サービスの方向性を決定づけることになった。
「遠藤社長がおっしゃっていた価値は、まず量産前にテストマーケティングができること。そして、プロモーションの機会になること。売れ行きが不透明な新商品は、大々的なプロモーションが難しいもの。しかし、Makuakeはその場になると言われました」
さらに、購入者は販売者とメッセージのやりとりができる。「通常の販売では、製作側とお客さまが直接つながる機会はほとんどありませんでした」と中山氏。そのため、商品の感想や要望を聞くのは簡単ではなかった。しかし、Makuakeは商品の応援コメントページがあり、やりとりが可能。しかも量産前に要望やリアクションが見られるので、その声を反映することができる。そして、販売前に先行購入されるので“実績”も作りやすい。
こういった価値を伝えられたとき、中山氏自身も「Makuakeの役割を明確に描けるようになった」と感謝する。逆に言えば、これまではそのリスクを企業が自力で乗り越えようとしてきたのだ。
日本のデフレ背景には「新商品」の不足がある
「一方の消費者を見ると、SNSによって趣味・嗜好が多様化しました。結果、より尖ったもの、自分の要望にぴったり合うものを求める傾向にあります。しかし、商品を作る側は多数のリスクがあり、尖ったもの、新しいものを作りにくい。作り手サイドと消費サイドのミスマッチが生まれていたのです」
中山氏は「このミスマッチがデフレを生んだと思っていますし、それを変えるのがマクアケです」と意気込む。
完全な新商品だけでなく、海外商品が日本に進出するケースでもMakuakeが役立っている。たとえばポータブル電源の「EFDELTA」は、中国のEcoFlow Technology社がつくった製品。冷蔵庫やドライヤーも使える大容量の“持ち運べる電源”であり、日本市場での販売を考えてMakuakeに掲載。すると、2億8000万円を超える応援購入金額を集め、Makuake史上最高記録を更新した。
「世界中で良いものは生まれていますが、いざ日本で販売しようとすると日本語でのコミュニケーションやカスタマーサポートなど、多くのコストや手間がかかります。それを“売れるかどうかわからない状態”で行うのは、やはり外国企業にとってリスク。私たちのサービスは、その進出リスクを大きく下げる位置付けにもなっています」
もちろん、日本の消費者にとっては世界中のいいものを手にするチャンスが増える。同社が掲げるビジョン「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」へと綺麗につながっていく。
“お蔵入り”した企業の技術を世に出すために
さらに同社は「Makuake Incubation Studio(MIS)」という新たな取り組みを進めている。これは、企業の中にある研究開発技術や実現しなかった企画について事業化をサポートするもの。企画するだけでなく実際にMakuakeでのテストマーケティングをもとに新製品として販売し、新事業を生み出すのだ。
「Makuakeを運営する中で、新たなものの生み出し方や次のトレンドを予測する知見が溜まってきました。それを生かし、新製品創出のプロデュースやサポートをしていきます」
日本の企業や大学などによる研究開発費の総額は年間で約18兆円に上り(※1)、“研究大国”といわれる。しかし、その費用に対する効率(研究開発効率)は主要先進国の中でも低く、特に1990年以降は年々低下している。(※2)
※1:総務省「H30年情報通信白書」
※2:経済産業省「H28年度産業技術調査事業 研究開発投資効率の指標のあり方に関する調査(フェーズⅡ)報告書
多額の費用で行われた研究の多くが“お蔵入り”している現状に「国宝が捨てられているような状態ではないか」と中山氏。そこで始めたMISがサポートしたプロジェクトからはすでにいくつもの新製品・サービスが生まれている。
たとえば、シャープが開発した日本酒専用バッグと酒蔵をビジネスマッチングし、マイナス2℃で味わう純米吟醸酒「冬単衣(ふゆひとえ)」を先行予約販売したプロジェクトは好例。シャープは、指定した温度帯で物を一定に保つ特殊な蓄冷・蓄熱材料を開発していたが、その技術をいかにビジネス化するかの部分で頭を悩ませていた。そこで、その技術を生かし、マイナス2度で日本酒を味わうという「新体験」をセットにして商品化した。そうすることで、蓄冷・蓄熱材料の認知を広げられ、ニーズのある企業との取引につながりやすくなるのではと考えた。
MISについての企業ニーズは強く、現在もいろいろな取り組みが進んでいるという。
生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界。その実現を目指して、マクアケの取り組みは続く。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2020年2月現在の情報です