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120年ぶりの大イベント「民法改正」が生活に与える影響は?

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明治時代に作られた「民法」は、これまで大きな改正が行われてこなかった。しかし、2017年5月に全般的に見直され、2020年4月に「民法の一部を改正する法律」が施行されることとなった。なんと、民法制定後約120年間で初の全面的な改正だ。

民法が改正されたら、日々の生活にはどのような影響が生じるのだろうか。アディーレ法律事務所の鮫島唯弁護士に教えてもらった。

債権の消滅時効はすべて「5年または10年」に

民法とは、私人としての権利義務関係を規律する法(私法)の基本となる法律。つまり、人々の社会生活や事業における基本的なルールを定めたもの。その一部が「債権法」とも呼ばれ、120年間ほとんど改正されてこなかった部分だ。

「120年の間に、社会・経済情勢は複雑高度化する一方、高齢化・情報化社会が進展。『債権法』も、社会の変化に対応した規定に改正する必要が生じていました。また、多くの判例や解釈論が定着し、裁判実務においてもそれらを前提としてきましたが、条文には書かれていない解釈が多く、わかりにくいルールとなっていました。そこで、社会や経済の変化に対応するとともに、国民にとってわかりやすい民法にするため、改正されることになったのです」(鮫島さん・以下同)

民法改正の内容を具体的に追いつつ、生活への影響を聞いた。

消滅時効が短くなる
これまでの改正前民法では、消滅時効(※)により債権が消滅するまでの期間は原則10年だが、例外的に職業別の短期消滅時効を設けていた。例えば、個人間の金銭の貸し借りでの消滅時効は原則どおり10年、弁護士報酬では2年、医師の診療報酬では3年など。この例外的な短期消滅時効の規定が分かりにくいものとなっていた。

改正によって、この短期消滅時効は廃止され、「権利を行使できると知った時から5年」という消滅時効が新設される。ケースによっては、最長10年となることもあるが、大抵のケースでは5年になるという。

「細かな特例があり、複雑でわかりにくかった時効制度がシンプルに統一されます。個人間の貸金債権の時効は原則として、これまでの10年から5年に短縮されることになるので、注意が必要です」

※消滅時効とは、債権者が一定期間権利を行使しないことによって、債権が消滅する制度

法定利率を「3%」に引き下げ
法定利率とは、契約の当事者間で利率(約定利率)の合意がない場合に適用される利率で、これまでは年5%だった。

長期にわたり低金利が続いている現状に鑑み、改正後は年3%に引き下げられる。また、将来の市中金利の変動に対応するため、3年を1期として、1期ごとに自動的に変動する仕組みも導入。

「一般的な契約書では、法定利率を超える約定利率を合意していることが多いので、改正で影響が出ることは少ないと思います。稀なケースですが、交通事故などで障害を負い、損害の一項目として逸失利益(労働などで将来得られたはずの利益)を算定する際、控除される中間利息には法定利率が適用されます。利率引き下げにより、控除される中間利息が減ることになるため、損害賠償額は高額化すると考えられます」

公証人による保証意思確認の手続きを新設
事業のための債務を主債務とする保証契約で、個人を保証人とする場合、主債務者は自己の財産及び収支状況などの情報を、保証人になろうとする者に提供しなければいけない旨が規定される。

また、保証契約の前1カ月以内に、公証人が保証人になろうとする者の保証意思を確認し、公正証書を作成するという手続きが新設される。意思確認を経ていない保証契約は、無効となる。

「事業用の融資の保証人になる手続きが厳格化されることで、保証人の保護が図られます。また、賃貸借契約や継続的な売買など、不特定の債務を保証する契約『根保証契約』について、個人を保証人とする場合、『極度額(保証人の責任限度額)』を定めていないと、契約は無効となります。債権者、主債務者側からすると、今後さらなる注意が必要になります」

書面による金銭消費賃借契約の見直し
これまで、金銭の貸付を行う場合、実際に金銭を交付した段階で契約成立とされていた。

改正後は、書面(電子メールも含む)上で貸主・借主ともに貸付に合意した場合は、金銭の交付前でも契約が成立することとされる。

「旧法では、貸付の合意をした後でも、貸主が『やっぱり貸さない』と拒絶することができました。しかし、改正後は、書面での合意によって貸付が義務づけられます。確実に融資を受けたいという借主の期待が、保護されるのです」

被相続人の配偶者を保護する権利が新設

お金に関する民法では、「債権法」以外に「相続法」の一部も、2020年4月から改正される。

「配偶者居住権」の新設
配偶者が被相続者と同じ家で生活していたとしても、被相続者が家の所有者であれば、その家は相続財産。家の価値が高かった場合、家だけで法定相続分に達してしまい、配偶者は預貯金などを相続することができず、その後の生活資金を確保できないという問題があった。

改正により、原則として配偶者が無償で、終身、自宅に居住できる「配偶者居住権」を新設。この権利は完全な所有権とは異なり、売買や賃貸契約などはできない分、家の価値を低く抑えることができるため、預貯金などのほかの財産もより多く取得できるようになる。

なお、配偶者居住権は、不動産の登記簿謄本に登記をしなければ効力がないので、気になる人は登記されているかどうかもチェックしておいた方が良いだろう。

「『配偶者居住権』は、相続開始時に被相続人が所有していた建物に居住している場合に、遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判のいずれかによって権利が認められると、取得できます。ただし、認められなかったからといって、すぐに退去を命じられるわけではありません」

「相続開始時に被相続人が所有していた建物に居住している」という要件を満たせば、自動的に「配偶者短期居住権」が発生する。遺産分割により、誰が自宅を相続するかが確定した日(または相続開始から6カ月を経過する日)まで、配偶者は無償で住むことができる。

「被相続人の死亡により直ちに建物を退去しなければならないとすると、配偶者は精神的にも肉体的にも負担が大きいですよね。そうならないための配慮から、『配偶者短期居住権』は創設されました」

現代の日本に即して、大きく変化する「債権法」と「相続法」。日々の暮らしに影響することも多いため、改正内容は頭に入れておいた方が安心だろう。
(有竹亮介/verb)

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